白壁の向こう側
顔のない男が硬く磨かれた靴の紐を結んでいる
時計の振り子は黙々と針を動かしている
働き者の農夫のように
時計の振り子はひとつひとつ確実に針を動かす
清潔なキッチンに朝の新鮮な日光が差し込み
空の冷蔵庫が息を吸い、息を吐く
顔のない男はアルマーニ のスーツを着て
真っ白な絹の清潔なハンカチを
スーツの内ポケットに入れている
男はリビングのテーブルにメモを残している
メモは裏返しで
あなたも私も読むことが出来ない
顔の無い男は靴紐を結び終える
キッチンの蛇口はしっかりと閉まっている