第5話 お堅いぜ!海のヒーロー昆布マスター

僕たちは今、海辺の小さな町に来ている。
僕の住む街から電車に揺られること1時間30分、小学生の僕にとってはかなりの冒険だ。

シイタケンが僕たちに紹介したいと言った「旨み仲間」というのは、どうやら昆布の妖精らしい。
「彼の名は、昆布マスター。海の生き物たちを一生懸命お世話している、とってもいいやつなんです。」
昆布マスターか、一体どんな人(乾物)なんだろう?

駅を降りて坂道を降りるように歩いていくと、海が見えてきた。
太陽の光を浴びてキラキラと光る海は、とっても綺麗だった。
けれど、砂浜に近づくにつれて、浜を埋め尽くすたくさんのゴミが目に入ってきた。
ペットボトルや缶、中には大きなBBQコンロなんかも落ちている。なんでこんなにゴミが多いんだろう?
タカシとシイタケンは砂浜のゴミにつまずきながら、昆布マスターを探していた。

タカシとシイタケンはゴミだらけの砂浜を10分ほど歩くと、少し先の岩場の上に、一際目立つ姿の男がいた。
その男は厚く硬い昆布のマントを纏い、堂々たる佇まいで海を見つめていた。
「あ、彼が昆布マスターです。」シイタケンがそう言った。

おーい、昆布マスター!
シイタケンが声をかけると、昆布マスターはゆっくりとこちらを振り返った。
あまりにもゆっくり振り返るから、その間に僕らは昆布マスターのそばまで移動できてしまった。
「ようこそ、若き勇者よ。私は昆布マスター。この海を、そしてこの地を守るために戦っている者だ。」
昆布マスターは深い声で話し始めた。

昆布マスターは僕とシイタケンを見下ろしながら、腕組みをして胸を張った。
威厳たっぷりの様子が背中の昆布マントに似合っている。
その時、海から強い風が吹きつけた。昆布マスターの硬いマントは全くはためかない。
マントはまるで船の帆のように風をもろにくらい、そのおかげで昆布マスターは煽られて岩から転げ落ちそうになった。
昆布マスターは甲高い声で叫んだ。「キャーー!」

え?

「昆布マスター、大丈夫?」シイタケンが駆け寄ると、昆布マスターは恥ずかしそうに立ち上がり、砂を払いながら照れ笑いをした。
「あはは、大丈夫だよ。このマント、見た目はかっこいいけど、硬くてちょっと扱いにくいんだよね。風の強い日は特にね。うーん、やっぱり硬派な昆布を演じるのは難しいや・・・。」

急にかわいらしい声で話し出した昆布マスターに僕は呆気に取られた。
シイタケンがクスクスと笑いながらフォローする。
「昆布業界ではね、硬くてどっしりと重みがある、硬派な昆布がモテるんだ。だから、昆布マスターは昔から、高倉健さんを目標に、日々ええ声と渋い雰囲気になるための修練に励んでいるんだよ。」
「自分、不器用ですから。」
声に深みを出して真顔でそう言う昆布マスターを見て、僕は笑ってしまった。この人(乾物)、絶対にいい人だな。

「昆布マスター、実は今日ここに来たのは重要なお願いがあってですね。」シイタケンが真剣な表情で話し始めると、昆布マスターもしっかりと耳を傾けた。

「最近、ムダラスという者が引き起こす環境破壊が日増しにひどくなっています。奴らはビジネスで儲けるために、他の生き物たちの暮らしが脅かされてもお構いなしだ。つい先日も、僕の森の木々を生態系を無視してやたらめったら伐採していました。タカシくんの応援のおかげで、切り干し大根の切り干しレンジャーと共にムダラスの手下を撃退することができましたが、これから先も、きっとムダラスの野望のせいで苦しむ生き物は増えるでしょう。」

(この時、切り干しレンジャーは僕のカバンから顔だけ出して、昆布マスターにウィンクしたがみんなに無視されすごすごとカバンの中に戻っていった)

昆布マスターは深刻な面持ちで頷いた。
「確かに、私もそれを感じている。今この美しい海も身勝手な人たちがポイ捨てしたゴミで汚染され、マイクロプラスチック問題が発生し、それによって多くの海の生き物が苦しんでいる。苦しむ仲間たちを見るのは心が痛い。」

シイタケンはうなづいて続ける。
「生き物はみんな、生きる権利を尊重されるべきだ。私たちは、乾物戦隊を結成してムダラスに立ち向かおうとしています。昆布マスター、あなたの力が必要です。一緒に彼の野望を止めましょう。」

昆布マスターは一瞬考え込んだように見えたが、真剣な表情で答えた。
「シイタケン、君が私のことを仲間として思い出してくれたのは嬉しいよ。けど、私はこの海と、ここで生きるすべての生き物を守ることを誓っている。砂浜の掃除を続け、海を汚すマイクロプラスチックの問題に立ち向かわなければならない。だから、この場を離れるわけにはいかないのです。一緒には行けないが、あなたたちの活動を心から支持します。」

そう真面目な表情で語る昆布マスターだったが、時折吹く海からの風に、昆布マントがめちゃめちゃ煽られて飛ばされそうになっている。
よろめく姿と話す内容のギャップがおもしろすぎて昆布マスターのいい話がいまいち入ってこない。
もう脱げばいいのにマント。

シイタケンは昆布マスターの言葉を聞き、少し残念そうに見えたが、同じ乾物仲間として、昆布マスターの決意を尊重したいとタカシに告げた。
僕もうなづきこう答えた。
「わかりました。昆布マスター、あなたがここで海を守り続けることもとても大切なお仕事ですよね。私たちも、あなたの活動を全力で支援します。」

昆布マスターは感謝の言葉を述べ、「私たちの戦いは違っても、目指すところは同じです。海も、そして森も、生き物たちが安全に、そして健康に生きられる環境を守っていきましょう。」

「ねえタカシ君、しいたけの森の時と同じように、この地域の人たちに声をかけて、昆布マスターのお掃除を手伝うイベントを企画できないかな。」
シイタケンがひらめいた、と言う表情で話してきた。
僕は、いいアイディアだと思った。

そこで僕は早速、その街のホームページから、海を守る活動をしているボランティア団体を探し、連絡をとってみた。
その街では漁師さんが中心となって、海を綺麗にする活動をしていたようで、昆布マスターの存在も知っていた。
漁師さんは浜辺のゴミに胸を痛めていたので、さっそく、地元の小学校に掛け合って、親子で砂浜クリーンアップイベントを企画してくれた。


翌週の土曜日、8組ほどの親子が呼びかけに応え、ボランティアメンバーも含めて15人ほどが砂浜に集まった。
「では、この海を守る活動をしている昆布マスターから一言」とボランティア団体のリーダーから振られ、昆布マスターは緊張の面持ちで人々の前に立った。

「この海は多くの生命を育んでおり、私の使命はそれを守ることである。決して簡単な仕事ではないが、”昆布の精神”を持つ者として、私はこの地を守り続ける。」昆布マスターの声は、まるで古代の武士のように重々しく響いた。

おお、今日はいい感じのええ声!
風もなく、マントのはためきによってよろめくこともない!
がんばれ、昆布マスター!

昆布マスターはさらに胸を張って話し続けた。
「”昆布の精神”とは、何事にも動じず、堅実であることだ。しかし、それ以上に重要なのは、海の生態系と調和を保ち、全ての生き物が共存できる環境を守ることである。」

参加者の子供が手を挙げて質問した。
「昆布マスター、今だって海には生き物がたくさんいるんじゃん?なぜゴミを拾わなければいけないの?」

昆布マスターは砂浜に散乱する小さなプラスチック片を指さした。

「問題となっているのはこのマイクロプラスチックだ。マイクロプラスチックはもともと、レジ袋やペットボトルなどのプラスチック製品が原因で発生する。ゴミが正しくゴミ箱に捨てられ、適切に処理されれば問題は起こらない。しかし、適当に捨てられたゴミは砕かれて小さくなり、それが海の生態系に深刻な影響を及ぼしてしまうんだ。たとえ小さくても、海の鳥や魚がこれを誤って食べると病気になる可能性があるし、最終的にはそれが私たちの食卓に上ることだってあり得るんだよ。だからこそ、ゴミを適切に拾って処理することが非常に大切なのだ。」

タカシは驚いた表情で、砂の中から顔を出している小さなプラスチック片を見た。
それが、自分たちの健康にも害を及ぼすかもしれないと知り、何とかしたいと思った。

昆布マスターは少し目を伏せながら言った。
「この問題は、私たちが考えている以上に深刻なんだ。人々が海をそこにあるのが当たり前のように扱い、ゴミを捨てることで、海はその美しさを失いつつある。私はそれを見過ごすわけにはいかない。どうか皆さん、力を貸してください。」

参加者たちは深々と頭を下げる昆布マスターの言葉に感銘を受けた様子で、目を輝かせた。
切り干しレンジャーがここぞとばかりに飛び出してきて、参加者を代表してこう言った。
「はい、昆布マスター!この美しい海を守りたいです!がんばってゴミを拾うぞ〜!」

そうして、みんなは一緒にゴミ拾いを始めた。
昆布マスターはいつの間にか太くて渋い声を出すのをやめて、自然体で参加者たちとゴミ拾いをしている。
子どもたちは、優しい昆布マスターにくっついて、海について質問をしながら手を動かしていた。

「ねえねえ昆布マスター、どうして昆布は海を守るの?」
昆布マスターは優しく笑いながら答える。
「それはね、昆布が海のとても大切な一部だからなんだよ。昆布は海の中で多くの小さな魚や生き物たちのお家になっているんだ。昆布の森は魚たちの隠れ家であり、彼らが安全に暮らし、育つ場所なんだよ。」

「じゃあ、ゴミを拾うよりも海の中にずっといたほうがいいんじゃない?」
子どもたちの無邪気な質問にも昆布マスターは笑顔を絶やさない。
「海が汚れると、昆布も健康に育たないし、魚たちも病気になってしまうからね。それに、昆布は人々にとっても大切な食べ物で、私たちの健康を支える栄養がたくさん含まれているんだ。人間のためにも、海を美しく保ちたいと思うんだ。」

「昆布マスターのお話って、海のように深いね!」
小さな男の子が大人みたいなことを言った。
昆布マスターはにっこりと笑い、「ありがとう。でも海ほど深くはないよ。ただ、この美しい海を次世代にも引き継ぎたいだけなんだよ。」と答えた。

返答がまじめだ。

清掃活動はお昼ご飯を挟んで午後まで行われた。
掃除が進むにつれて、海岸は少しずつ、その美しい姿を取り戻し始めた。
昆布マスターはその様子を見て、嬉しそうにタカシたちに感謝の気持ちを伝えてきた。

「ありがとう、タカシ、シイタケン、そして切り干しレンジャー。君たちのおかげで、私の大切な仲間たちもまた、安心して暮らせるようになる。私1人では、ここまでできなかっただろう。」
そう言った後、少しもじもじしながら昆布マスターはこう言った。
「もしよかったら、これからも、海を守る活動を一緒にやってくれるかい?それなら、私も乾物ヒーローになって、君たちと一緒にいろんな場所に行きたいと思う。いろんな海を綺麗にするお手伝いがしたいと思うんだけど。」

「もちろんだよ、昆布マスター!」
一緒に掃除をすることで、僕は昆布マスターのことが大好きになっていた。
これからも仲間として活動できるなら、こんなに嬉しいことはない!

赤い夕日が沈もうとしている頃、クリーンアップ活動は終了となった。
参加者たちはみな、見違えるほど綺麗になった海岸を見ながら満足そうな顔をしていた。
お土産にもらった立派な昆布はきっと、今晩の味噌汁を美味しくしてくれるだろう。大きな昆布を掲げながら、子どもたちは「また来るね〜!」と手を振り帰っていった。

今日一日、海岸での掃除を通して、僕はたくさんのことを学んだ。
昆布マスターの話を聞いて、海がどれほど大切か、そしてそれを守ることがどれほど重要かが、本当によくわかったんだ。
最初はただの掃除のつもりだったけど、これが終わる頃には、何かもっと大きなことの一部になっているような気がした。

「昆布マスター、僕たち、これからも一緒に海を守っていこうね。僕にできることなら何でもやるよ!」
昆布マスターは優しく微笑みながら、「タカシ、その言葉を聞けて本当に嬉しいよ。君のような若者がいてくれると、未来も明るいね」と答えてくれた。

拾い残しのゴミがないか確認したい、という昆布マスターと再会を誓った後、僕らはいったん家に帰ることにした。

駅までの帰り道、僕はシイタケンと一緒に今日拾ったゴミの量を話しながら歩いた。
海が少しでもきれいになったことを実感して、何だかとても心が晴れやかな気持ちだった。
これからも乾物ヒーローたちと一緒に、僕たちの美しい海を守るためにがんばるんだ。

小さな行動が、大きな変化を生む。
今日学んだその事実が、僕の胸に深く刻まれた日だった。

【続く】

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