第9話:【乾物戦隊干すんジャー】爆誕!
タカシは自分の部屋の勉強机の前に座り込み、ずっと考えていた。
『乾物24時』での体験から数週間、彼の頭の中は乾物のことでいっぱいだった。
乾物はただの食材ではなく、地球を救う力を持っている。
しかし、どうしても売れ行きが伸びない。そのおかげで、乾物屋さんがどんどん減っていっているという。
それはなぜだろう?
「乾物って、どうやったら売れるのかな…」
その言葉を聞いた切干レンジャーが首を捻った。
「うーん、どうしたらいいんだろうね…。」
切干レンジャーの方を見ると、ポテチをぽりぽり食べながら寝っ転がって漫画本を読んでいる。
全く、なんとだらけた姿だろう。
タカシは考えた。
漫画も、ポテチも、値上がりし続けてるけどつい買ってしまう。
売れる商品には、何か秘密があるんじゃないかな。
それがわかれば、もしかして、乾物にも応用できるんじゃないかな…?
「ねえ、切干レンジャー。昔は、もっと乾物は売れてたんでしょ?」
「そうだよ、昆布は神様へのお供物や、王様や貴族のための食材として、高値で取引されてきたね。干ししいたけは海外との貿易でたくさん売れたしねえ。僕たち切り干し大根は、庶民のおかずとしてかなり使われていたよ。」
切干レンジャーは相変わらず漫画から目を離さず、ポテチを食べながらそう答えた。
「どうして、売れなくなっちゃったんだろう?」タカシは疑問をぶつけてみる。
「それは、あれだね。冷蔵庫ができたから、ってのが大きいかもね。」
切干レンジャーは指先についたポテチの塩を舐めながら僕の方を見て言った。
「もともと乾物は、食べ物を腐らせずに保存するための技術だった。食べ物がなくなる季節にも飢えずに生き残るために、日本人は作物がたくさん取れる時期に乾燥させたんだよ。
けど今は、冷蔵庫や冷凍庫があるから食べ物が腐りにくくなったでしょ。別に乾物を使う理由がなくなっちゃったのがまず大きいよね。」
「確かに…。」
自分で料理をするよりも、電子レンジで解凍するだけで食べられる冷凍食品を買う方が楽だもんな。
そもそも、乾物の料理法って知らないし。
切干レンジャーは続ける。
「それにさ、やっぱり、乾物って古臭い、っていうイメージはあるよね。スーパーに売ってるきれいに盛り付けられたオムライスとかと比べると、切り干し大根の煮物って、地味だなあ、って、僕も最近思うようになったよ。」
切干レンジャーははあーっとため息をつく。
「しかもそこに加えて、乾物を作る生産者が減って、値段が上がってしまったときたもんだ。外国から安い食材が入ってきてる中で、わざわざ高い食材を使おうとする飲食店やお惣菜屋さんがいると思う?できればコストを減らしたいと思う業者が多い中で、僕らを選ぶ理由って、なかなか見つからないよね…。
僕らの価値って、いったいなんなんだろうね…。」
自分で話しながら切干レンジャーはどんどん落ち込んでいく。
ちょっとかわいそうになってきた。
「で、でもさ、現代にも通用する価値が、乾物にはあるでしょ?」
僕は慌ててそうフォローした。
すると、切干レンジャーの表情が一変し、目をキラキラさせて僕にぐいっと近寄ってきた!近いっ!
「そうです!よくぞ聞いてくれました!乾物にはものすごいパワーが秘められているのですぞ!!」
切干レンジャーはすっくと立ち上がって片手を腰に当て、もう一方の手を上に掲げて語り始めた!
「1〜つ!!
乾物は干すことで、栄養と旨みがぎゅぎゅっと濃縮されます!
干すことでかさが減るので、生の食材を食べるよりもたくさん食べられて、効率よく栄養を摂ることができるのであ〜る!」
目がらんらんとしていてちょっと怖い。
「2〜つ!
乾物は地球の環境にやさしいのです!
食べ物がたくさん取れた時に干すことで、捨てなくて済む!つまり、食べ物が無駄にならない!限られた資源を大切にすることは、持続可能な地球にとってとても大切!つまり、乾物は地球を救うヒーローなのであ〜る!」
切干レンジャーの演説は続く。
「3〜つ!
たとえ電気が止まっても、乾物は腐らない!たとえば災害でライフラインが止まっても、乾物なら電力がいらない!長期間、安全に保存可能で、しかも軽いから持ち運びに便利!カットしてから干した商品も多く、水さえあれば食べられる乾物は、食材の中でも”防御力”が高いといえよう!
いざという時にしっかり栄養が取れる安心感、それこそが、現代における乾物の価値なのではないか、と思うのであ〜る!」
自信満々のポーズをとったまま満足そうに固まっている切干レンジャーに僕はついこう言ってしまった。
「そんなに価値があるのに売れないって、本当に困ったことだよね…。」
その途端、風船がしぼむように切干レンジャーもヘナヘナと座り込んでしまった。
「そうだよね…。結局、価値を伝えられてないんじゃなんの意味もないよね…。ああ、僕もジャガイモに生まれてポテチになりたかった…。」
タカシは切干レンジャーがジャガイモに少し憧れていることを知り、吹いた。
「確かにポテチはおいしいけど、僕は、切り干し大根の煮物もおいしいと思うよ。切り干し大根は健康に良さそうな気がするし。」
「そうですよね!食べて罪悪感を感じない!むしろ食べた自分を褒めたい!それが、かんぶつ料理なんです!!」切干レンジャーは叫んだ。
すぐ元気になってよかったわ。タカシは苦笑しながら考えた。
「うーん、SNSで発信するにしても、実際に食べてみないと乾物のおいしさはわからないし、どうやったら多くの人に乾物を試してもらえるようになるかな…。」
「そうですねえ…。食べられなくても、漫画は読む前からワクワクして、ページを開くのが楽しみですもんねえ…。」
切干レンジャーがそう返すと、タカシの目が輝いた。
「そうだ!漫画やアニメのように、乾物たちの物語をもっとドラマチックに描いてみるのはどうだろう?それなら、実際に食べる前にも、興味を持ってもらえるかもしれない!」
「それ、いいかもしれませんね!キャラクターたちが大活躍する物語を描いて、乾物それぞれの特性や役割を生かしたストーリーを展開することで、フォロワーにも乾物の魅力を感じてもらえるはずですよ!」
切干レンジャーは熱心にうなずきながら、考え始めた。
「そうそう、それで、イベントでも実際に乾物を試食できるブースを設けるんだ。物語を楽しんだ後には、リアルで乾物の味を確かめてもらえるようにする。乾物の楽しみ方を、食べることだけじゃなく、物語を通じても感じてもらえたら最高だね!」
タカシはさらにワクワクしてきた。
「各キャラクターにフォーカスしたレシピ本や、乾物の取り扱い方を紹介する動画も公開するのはどうでしょう!?これで、乾物への興味がさらに深まり、実際に使ってみたいと思ってもらえるようになるかもしれませんね!」
切干レンジャーはソワソワし始めた。彼がワクワクしている証拠だ。
タカシは頷きながら、
「フォロワーは、僕らと一緒に地球を守る仲間だ、という感じで新たなファンを増やしていくんだ。SNSだけじゃなく、リアルな体験も重要だから、こうして両方を融合させることができれば、きっと乾物の価値をわかってもらえるよ!」と意気込んだ。
切干レンジャーも大きくうなづきながら、
「日本の伝統と新たなる革新!まさに、クールジャパンですね!!」
と興奮した様子で付け加える。
タカシの脳裏に、あるワードが閃いた。
「名付けて、乾物エンタメ作戦だ!今日から君たちは【乾物戦隊干すんジャー】だ!!」
こうして、SNSのタイトルが決まった。
タカシはトミヤマさんに依頼をし、【乾物戦隊干すんジャー公式】としてインスタグラムを立ち上げてもらった。
これが、乾物戦隊干すんジャー初の公式SNSとなった。
これからこのアカウントでは、定期的に、乾物についての情報提供やイベント情報、そして、干すんジャーズのストーリーを発信していくことにした。
シイタケンと昆布マスターはまだおせち料理の仕込みから帰ってきていないため、いったん切干レンジャーとタカシが中心となり、SNSを運用することになった。
トミヤマさんは
「インスタをやってみたいと思ってたけど、私はIT音痴でどうやったらいいかわからなかったから、とても楽しみです!」
とワクワクしてくれているようだ。
地球環境を守りながら、食べ物を大切にしていく日本の心。
世界に誇る、健康食の土台を支える乾物の価値。
タカシの活動は、まさにこれから世界を変えていこうとしているのであった…
【続く】