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老虎残夢(レビュー/読書感想文)
老虎残夢(桃野雑派)
を読みました。第67回江戸川乱歩賞受賞作。2021年の作品です。桃野さんのデビュー作。
最侠のヒロイン誕生!
湖上の楼閣で舞い、少女は大人になった。
彼女が求めるのは、復讐か恋か?
各選考委員絶賛!
綾辻行人「論理的に真相を解き明かしていくスタンスにはブレがなく、スリリングな謎解きの演出も◎」
京極夏彦「南宋の密室という蠱惑。武侠小説としての外連。特殊設定ミステリという挑戦。愉しい」
私は愛されていたのだろうか?
問うべき師が息絶えたのは、圧倒的な密室だった。碧い目をした武術の達人梁泰隆。その弟子で、決して癒えぬ傷をもつ蒼紫苑。料理上手な泰隆の養女梁恋華。三人慎ましく暮らしていければ、幸せだったのに。雪の降る夜、その平穏な暮らしは打ち破られた。
「館」×「孤島」×「特殊設定」×「百合」!
乱歩賞の逆襲が始まった!
舞台は13世紀の中国。超常的な能力を有する武術家が集うなか、ひとりの達人が湖に浮かぶ楼閣内で殺害されます。事件発覚時、船は楼閣側にあったため犯人がそれを使って陸には戻れなかったはずという不可解な状況が示されるというものです。
えーと。江戸川乱歩賞作品ってこんな自由でしたっけ――。私はそれほど乱歩賞作品を多く読んでいるわけではないので昔のイメージかもしれませんが乱歩賞作品=社会派というのはもう古いのかもしれませんね。
だって、作品紹介にもありますが、主役は女武術家で、しかも、館と孤島と特殊設定と百合ですよ。百合って――。
ちなみに文体と全体の展開はわりと手堅いので、過度にラノベ的な期待を持って読み始めるのは禁物です。
ミステリのジャンルとしては、まさに特殊設定ものです。示された不可能状況を武術家らが有するどんな能力であれば打破出来たのかという点が肝になります。個人的には、犯人特定に至る論理の網の目はやや粗めだったようにも感じましたが、いやいや、そんなことは些事であって、このロケーションとこの設定で書き切るだけで、これはもう「勝ち」だろうなと、そう思わされました。
ちなみに、桃野さんは本投稿時点で3作品を発表しています。私は、2作目の「星くずの殺人」をデビュー作「老虎残夢」より先に読んでいたのですが、前作の13世紀・中国から一転、近未来の宇宙空間が舞台です。振り幅がすごい!
なんとも引出しの多い作家さんであると驚かされます。
「老虎残夢」と「星くずの殺人」、どちらもオススメです。