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透きとおった物語の続編、話題の医療ミステリ、ベテラン作家の新作短編集など〜1月読了のミステリからピックアップ

 1月に読了した、主にミステリ小説から一部をピックアップして紹介します。

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 世界でいちばん透きとおった物語2(杉井光)

 新刊です。2023年に刊行されたヒット作の続編。

 まず、話題になった前作の趣向「紙の本だから成り立つ仕掛け」について。

『世界でいちばん〜(前作)』に近い時期に刊行され、同じく注目を集めたという点では、2022年刊行『逆転美人』(藤崎翔)も広い意味で同種の仕掛けを内包した作品です。

 もう少しさかのぼると時代小説とミステリの両方を手掛ける倉阪鬼一郎さんが複数の作品でこの種の趣向を追求していた印象があります。2014年刊行の『波上館の犯罪』のあとがきで「本作でもうやりきった」といったようなことを書かれていましたが、まさにというべき徹底ぶりでした。

 ほかにも小森健太朗さんの初期作など思いつく作品はありますが、上であげた作品のように宣伝や帯などであらかじめ趣向が明かされているものを除くと、作品名を持ち出すだけで「その作品はその手の仕掛けがされている」というネタバラシになってしまうので控えます。

 閑話休題。

「紙の本だから成り立つ仕掛け」というものが近年特にフューチャーされている感はあります。

 電子書籍アプリの設定やハード側の仕様次第で任意にテキストがモニターに流し込まれると作者の目論んだ趣向が破綻してしまう。逆に言うと、組版されたままの体裁で読むことで初めて浮かび上がる趣向。じゃあ、組版のまま表示されてさえいれば電子媒体で読んでも成り立つでしょうというツッコミはおおむねそのとおりなのですが、『世界でいちばん〜(前作)』の仕掛けは紙媒体であることの必然性をもう一段積み上げていました。

 この手の趣向の流行は恐らく電子書籍の発展・普及と無関係ではないのでしょう。電子書籍という存在があって、はじめて紙の書籍という存在が際立つわけですから。そう捉えると、巷間、ミステリは科学の発展に影響を受けやすい物語だと言われて久しいのですが(作中、捜査側の技術が高まるため)、今般の「紙の本だから成り立つ仕掛け」の注目もまたメタ的な見方ではそのなかに含まれるのかもしれません。

 さて、『世界でいちばん透きとおった物語2』は、前作を経て作家としてスタートした主人公が、とあるコンビ作家の手による未完作の解決編を探るという展開です。登場人物のあいだで交わされるミステリ談義のパートが楽しいです。前回とまた同じような仕掛けが施されているのか、そうでないのかは、これはどちらにしてもネタバラシになるでしょうから触れないほうが良いのでしょうね。

 本作は割りと手の込んだ本格ミステリの構造を擁しているのですが、文体、展開の運び方やその見せ方が優しいおかけで普段ミステリを手に取らない人でも読みやすい作品になっているように思いました。作中のコンビ作家のモデルはあの有名作家さんかなと勝手にイメージして読んでいたところ、参考文献にその名があって嬉しくなりました。

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 禁忌の子(山口未桜)

 2024年10月刊。第34回鮎川哲也賞・受賞作。

 救急搬送されてきた男の顔が立ち会った医師と同じ顔だったというインパクト抜群の幕開け。さらに謎を知る女医は密室で遺体となって発見される。大ネタの性質から括ると社会派ミステリーにあたるのでしょうが、真相解明の端緒に用いられる背理法推理の巧さに舌を巻き、そして、意外な犯人には頭をガツンとやられました。

 読者の倫理観に踏み込むラストの展開には賛否がありそう。

 本作は内容のクオリティもさることながら現役の女性医師の手によるデビュー作ということでも注目を集めています。

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 フィフス(飛鳥部勝則)

 新刊です。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を下敷きにした伝奇ミステリーでしょうか。

 大学生の鈴森一気は、夜中斧で人間を切り刻む美少女「蘭冷」と出会い、殺されかける。刃を突きつける彼女が発したのは一方的な命令だった。
「命は助けてやる。条件付きでね。今日からお前は私の奴隷だ」

『フィフス』紹介ページより

・フィフス
・人形は何故縛られる

 ふたつの短編が収録。後者のタイトルは、高木彬光『人形はなぜ殺される』のオマージュですね。西尾維新さん『化物語』シリーズの読み味に近いものを感じました。

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 砂男(有栖川有栖)

 新刊です。文庫オリジナル。短編集ですが、江神シリーズ、火村シリーズ、ノンシリーズ作品がないまぜになった珍しい様式です。いずれも単行本未収録作。表題作の『砂男』はなんと初出が1997年というから驚き。

・女か猫か(江神シリーズ)
・推理研VSパズル研(江神シリーズ)
・ミステリ作家とその弟子(ノンシリーズ)
・海より深い川(火村シリーズ)
・砂男(火村シリーズ)
・小さな謎、解きます(ノンシリーズ)

 どの作品も基本的にパズラーです。既存のクイズや童話に新解釈を与える展開の『推理研VSパズル研』『ミステリ作家とその弟子』が個人的な好みですが楽しく読めました。

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 1月の半分は同人誌向けの短編小説のプロットを書いていました。あと、noteに投稿中の長編小説の続きをぼちぼちと。小説を読みながら小説を書くという行為が苦手です。書いていると読めなくなるのです。もっと器用になりたい。


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