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明治殺人法廷(レビュー/読書感想文)

 明治殺人法廷(芦辺拓)
 を読みました。新刊です。

 芦辺さんは、新刊が出たと聞くと、とりあえず手に取ってみる作家さんのひとりです。

 やはり昔から追っている森江春策シリーズには愛着がありますが、最近の力のこもったノンシリーズ作品(実はシリーズものとも世界観が続いていたり――)も読み応えがあって楽しませてもらっています。

 近年の作品だけでも、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した傑作『大鞠家殺人事件』(2021年)を筆頭に、『乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび』(2024年) そして、今回の、『明治殺人法廷』(2024年)と、デビュー(1990年)から30年を数える作家さんの手によるものとは思えないほど、どの作品からも重厚なエネルギーを感じさせられます。

 さて、『明治殺人法廷』です。

明治20年12月。藩閥専制政府が自由民権活動家一掃のため発令した保安条例により、東京からの退去を命じられて大阪に流れた、幕臣の息子にして探訪記者の筑波新十郎。
被告人に対して絶対不利に運用される法廷で苦闘を重ねる、大阪の商家に生まれた駆け出し代言人・迫丸孝平。
推理の曙光いまだ届かぬ時代に質屋一家殺人事件の「正しき真相」を求め、出会うはずのなかった東西の二青年が協力して奔走する。
『大鞠家殺人事件』に続いて贈る近代大阪グランド・ロマン!

『明治殺人法廷』紹介ページより

推理の曙光いまだ射さぬ明治21年、法廷で裁かれるのは16歳の尊属殺人犯。東京を追われた記者と負け続きの弁護人、東西二青年が敗北必至の闘いに挑む。

『明治殺人法廷』帯より

 あらすじに「近代大阪グランドロマン」とあるように、明治の大阪を舞台にした法廷活劇です。

 法廷ミステリーといえば、ゲームの『逆転裁判』シリーズをイメージする人も少なくないでしょうか。ミステリー小説の世界においても多数の先例はありながら、最近では、弁護士と小説家の二足のわらじを履く五十嵐律人さんの『法廷遊戯』などの作品が話題になりました。

 今年の新刊には法廷劇と特殊設定を掛け合わせた『毒入り火刑法廷』もありましたね。

 本作『明治殺人法廷』の大きな特徴は、緻密な取材に裏打ちされた明治という時代の細やかな風景や、そこに生きる人々の機微がとても丁寧に描かれていることです。

 現代と比較して、この時代にまだ平等や人権といった価値観は希薄であり、加えて、科学捜査の技術も発展途上です。

 時代特有のハンディキャップを背負いながら、いかにして純粋な「推理」は真実を――正義を示すのか。それは当時の市井で芽吹き始めたばかりの民権運動とも交わります

 質屋一家六人殺しの謎と真相は、芦辺さんの過去作と比べるとややインパクト控えめな感じもしましたが、今回に関して、創作上の主軸はきっとそこではないのでしょう。

『明治殺人法廷』は、法廷ものでありながら決して静的な作風ではありません。法廷「活劇」と初めに紹介しましたように、キャラクターは生き生きと躍動し、明治の世に暮らす人々の息遣いまで聞こえてきそうな臨場感がそこにはあります。

 ちなみに本作では、実際の歴史上の人物も重要な役どころで多数登場することを付け加えておきます。

 新聞記者・筑波新十郎と、代言人(現代の弁護士)・迫丸孝平のバディが明治の大阪をところ狭しと駆け回る様は映像作品にも向いていそうです。


 芦辺さんの前作紹介はこちら


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