大樹館の幻想(レビュー/読書感想文)
大樹館の幻想(乙一)
を読みました。新刊です。
乙一さんは、1996年に『夏と花火と私の死体』でジャンプ小説大賞を受賞、デビューされています。ライトノベルを中心に活躍されているイメージはありますが、2002年発表の『GOTH リストカット事件』は、当時、第三回の本格ミステリ大賞を受賞されるなど推理小説のフィールドでも注目される作家さんです。
さて、『大樹館の幻想』です。
実は、私が乙一さんの作品を読むのは『GOTH リストカット事件』以来です。やはり、「乙一史上初の館ものミステリ」の惹句は強い。思わず手に取ってしまいます。
みんな大好き(!?)館ものです。
正直、読む前は、どちらかというと色んな意味で叙述系の仕掛けが中心なのではと(勝手に)想像していたのですが、実際はそんなことはなく、ゴリゴリの物理系トリックのオンパレード、これでもかと真正面からの館ものでした。
補足すると、物語の設定にはSF的な下地が用いられています。
語り手は、大樹館のメイド・穂村時鳥(ほむら ほととぎす)。彼女のお腹に宿る胎児は未来を知っており、将来の悲劇を回避するべく母親に助言を与えます。館に迫りくる山火事の炎。時鳥は、胎児から得る未来の情報をもとに目の前の惨劇に立ち向かうというものです。
炎の迫るなかでの推理劇というと、古くはエラリー・クイーンの『シャム双子の秘密』(1958年)、最近では、阿津川辰海さんの『紅蓮館の殺人』(2019年)があります。シチュエーションからは、そういった先行作を想起させられつつ、また、タイトルにかかげられた言葉どおり、大樹館という館自体が非常に幻想的に描かれており、舞台設定はまったく異なりますが(炎と雪でむしろ真逆!)、個人的にはどことなく綾辻行人さんの『霧越邸殺人事件』(1990年)も思い出されました。
あらためまして、本作の感想です。
ミステリ好きのなかでも、トリック/仕掛けの種類に好みがあることは承知していますが、それは織り込んだうえで、
え、本作って名作なのでは――
と、私は、思いました。
本作のメイントリックに先行例はあるのだろうか。
寡聞にして私は存じ上げませんが、あれをミステリのトリックに用いた作品は初めてなのではないでしょうか。
理解したうえで見返すと、原理は某・大御所作家さんの超有名作品の超有名トリックと通ずるものがありそうです。が、現象としての見え方がまるで違う以上、本作のそれにオリジナリティは「あり」と言うべきだと私は思いました。
もちろん色々想像すれば野暮なツッコミは出来ますが、いやいや、そんなこと言っていたらミステリー(特に本格ミステリ)なんて読めません。どうせ読むなら作家さんの想像力を楽しみたいものです。
推理の過程で語られる、いわゆる捨てトリックの数々も大胆かつ稚気に満ちていて(講談社ノベルス的と言えば伝わる人には伝わりそう)、とても面白かったです。オススメします。
あ、本作には、図解がたくさん含まれますので、本屋さんで手に取るときは、ページをパラパラ繰るのは厳禁です。読む前にネタバラシを喰らってしまいます!
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