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年末恒例ミステリー系ベストについて
年末にはクリスマスを迎えるより前に、各所でミステリー小説のベスト企画が発表されます。ニッチですが、ある意味これも季節の風物詩ということになるのかもしれません。
今年も、私は、『このミステリーがすごい!』と『本格ミステリ・ベスト10』をホクホクと購入完了しました。
さて、この記事は今年の各ランキングの結果をさっそくネタバラシしちゃいましょうというアコギなものではなく(それを期待されて開いたかたがいらっしゃれば、すみません!)、各ランキングのあらましについて拙いながら紹介してみましょうという趣旨です。
と、いうことで――
年末恒例のミステリー系ベスト企画がいくつあるか、みなさんご存知でしょうか。
私自身、それほど詳しいわけではないですし、各媒体の特徴についてもあくまで私個人の印象と私見です、という弱腰な前置きをしたうえで以下にまとめてみます。
・このミステリーがすごい!
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・ミステリが読みたい!
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・週刊文春ミステリーベスト10
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・本格ミステリ・ベスト10
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・(番外編)本格ミステリー・ワールド
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まとめると以下のとおりとなります。
・このミステリーがすごい!(宝島社)
・ミステリが読みたい!(早川書房)
・週刊文春ミステリーベスト10(文藝春秋)
・本格ミステリ・ベスト10(原書房)
・本格ミステリー・ワールド(南雲堂)※休刊
上記のうち、最後にあげました『本格ミステリー・ワールド』は2017年版を最後に惜しまれつつ休刊しています。
なお、本の総合情報誌『ダ・ヴィンチ』のブックオブ・ザ・イヤーでも広義・狭義のミステリー小説が毎年多数ランクインしますが、ミステリー限定の企画ではないのでここには含めません。
いずれもランキングの集計方法は基本的にアンケート方式です。回答者は作家、書評家、書店員や一般の読書家など。
こう言うと、どの媒体も結果にそう差は出ないのではと思ってしまうのですが、実際のところ、必ずしもそうではありません。
この点、アンケート回答者の属性は同じであっても、各媒体によって回答を求める先が限定されていることもあるようです。
(たとえば『本格ミステリ・ベスト10』は、探偵小説研究会に入会している者でないと投票できない、など)
公開アンケートの場合も、結局は、回答する側がその媒体のカラーを理解したうえで投票するので、自然、それぞれのランキング結果に差が生まれていくのだと思われます。
では、早々にまとめに入ってしまいます。
かなり乱暴ではありますが、『このミステリーがすごい!』、『ミステリが読みたい!』、『週刊文春ミステリーベスト10』は、比較的カラーが似通っていて、『本格ミステリ・ベスト10』はすこし異色というのが、私のざっくりとした理解です。
(あくまで私見です。すみません!)
前者3つの媒体には、冒険小説、サスペンスやハードボイルドといったミステリー近接ジャンルの作品(ミステリ風味の一般作品も)がランキングに多く含まれてきますが、『本格ミステリ・ベスト10』にはこれらはほとんど含まれません。
一方で、『本格ミステリ・ベスト10』は、基本的に技巧性の高いミステリ作品(本格ミステリ)が多くランク入りする印象です。「技巧性が高い」という表現を説明の便宜上つかいますが、けっして、作風の優劣という意味ではありませんので悪しからずお願いします。
・『このミステリーがすごい!』、『ミステリが読みたい!』、『週刊文春ミステリーベスト10』は、近接ジャンルを含め広義のミステリ作品が幅広くランクインする。本格ミステリも多くランクインするが、あまり尖った本格作品は上位には食いこみにくい傾向がある。
・『本格ミステリ・ベスト10』にランクインするのは本格ミステリが主であり、近接ジャンルの作品はほぼ含まれない。尖った本格作品ほど上位にいきやすい。
このように整理すると違いが伝わるでしょうか。伝わることを願わせてください。
ちなみに、今回紹介した媒体でもっとも歴史が深いものは『週刊文春ミステリーベスト10』であり、1977年に開始されています。『このミステリーがすごい!』が1988年に続き、いまのスマートな内容からはとても想像できない過激な「覆面座談会」という名の書評企画で一躍ミステリー系ベストの雄としてその知名度を押し上げました。
『本格ミステリ・ベスト10』は1997年から。ちょうど新本格派の最盛期と言って良い時期です。これも私の私見ですが、先行する媒体が「ミステリー」ベストと銘打たれながらも冒険小説やサスペンスといった近接ジャンルとないまぜのランキングになっている現状に対し、当時勢いのあった本格ミステリに絞ったベスト媒体を求める声がジャンルの界隈からあがった結果なのではと推察しています。
――と、このようにミステリー系ベストにまつわるあれこれを多分に私見をまじえて書き綴ってみました。なんとなく『このミス』だけは知ってたけど――というひとが「へー」と思いながらでも読んでいただけたなら幸いです。
まぁ、そもそも小説の感想なんて読み手によってまったく異なるものです。ランキング結果をひとつのブックガイド(指標)として次の本を探し求めたい人はそうすれば良いでしょうし、一方で、ランキングは参考程度にとどめて、純粋に自分が読んでおもしろいと思う作家や作品を推すだけという姿勢があっても良いのだと思います。
かくいう私は一年を通じて自分が見落とした本格ミステリの傑作を求めて、ある種の答え合わせ的に年末ベストを毎年楽しみにしています。
以下は、今年(2025年版)の答え合わせの結果です。
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2025 このミステリーがすごい!
ベスト10作品中 既読7作 未読3作
2025 本格ミステリ・ベスト10
ベスト10作品中 既読8作 未読2作
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どちらかというと寒い冬はキライな私なのですが、恒例の年末ベストはこの時期のささやかな楽しみのひとつです。
◇
最後に、念のため補足しますと、各媒体のランキングの違いは年を経るごとに小さくなっていっているというのが私の印象です。
それは、かつては『本格ミステリ・ベスト10』でしか評価されなかったような尖った本格ミステリ作品が『このミス』をはじめとした他のベストでも上位にランクインし始めたことによって生じた変化です。
多様性という言葉がありますが、媒体ごとの差は大きいほうが良かったのか、――どうなのでしょうね。
◇
――終わりのつもりだったのですが、思いついたことを、さらに補足。
(書き方に計画性のないことがバレました)
アンケートで投票できる作品は定められた期間中に発行(奥付記載ベース)されたものに限られるわけですが、各媒体でその期間が微妙に異なります。
例)
Aランキング対象 前年11月〜当年10月発行作品
Bランキング対象 前年10月〜当年9月発行作品
したがって、上記の例だと、直近の10月に発行された作品は、たとえばAランキングでは対象になるが、Bランキングではそうならず翌年度の対象にまわるといったことがあるのです。
「最近読んだあの作品、あちこちで評価高いと聞いているけど、こっちではベスト3なのに、どうしてこのランキングではベスト20にすら入ってないんだろう――」といったことがあれば、もしかしたらそういうことかもしれません。
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