マガジンのカバー画像

小説_聖徳をまとう

18
ミステリー風味のオリジナル連載小説です。 あらすじ/ 出来心から娼婦ユミの跡をつけた私だったが、不注意がきっかけでそのストーカーじみた行為はユミ本人に知られるところとなる。ユミ…
運営しているクリエイター

記事一覧

聖徳をまとう_九/神域に騙る(2)

 前話はこちら   ◇  古来、女性は勇猛で果敢だった。  仲哀天皇の妻であり、また、古…

シュシュ
1か月前
21

聖徳をまとう_九/神域に騙る(1)

 前話はこちら   ◇  科長神社――その創建の由緒は詳らかになっていないが、平安時代に…

シュシュ
3か月前
25

聖徳をまとう_八/縁は導く(2)

 前話はこちら   ◇  正面から大股で歩き迫るのは紛れもなく因縁の男だった。  まるで…

シュシュ
5か月前
8

聖徳をまとう_八/縁は導く(1)

 前話はこちら   ◇ 「なんであんなこと言うたんや?」  見送りに出てくれていた平塚母…

シュシュ
7か月前
7

聖徳をまとう_七/愛は多面的に

 前話はこちら   ◇  平塚もえぎは滔々と語り始めた――。   ◇  ありきたりなこと…

シュシュ
7か月前
8

聖徳をまとう_六/笛と電話

 前話はこちら  ◇ 「三十一のリコーダーアンサンブルや!」  担任の島脇先生が黒板の前…

シュシュ
8か月前
14

聖徳をまとう_五/女王の墓

 前話はこちら   ◇ 「六角堂?」  肇が唐突に私に問いかけてきたのは石段を降り始めて奇しくも六段目に足を掛けた瞬間だった。 「はい、六角堂です。秀太さんは知りませんか?」 「聞いたことはないな」 「京都の六角堂です」  平坦な声でそう繰り返す肇を見返しながら、私の脳内ではその名のとおり六角柱の時代がかった御堂の姿が像を結んでいた。 「寡聞にして僕はそれを知らないけど、どうして今それを?」 「今だからですよ。まぁ、それは後で説明します。六角堂――寺名は頂法

聖徳をまとう_四/いもこさん(2)

 前話はこちら   ◇  小野妹子は聖徳太子と同じ飛鳥時代を生きた官人である。推古天皇の…

シュシュ
10か月前
4

聖徳をまとう_四/いもこさん(1)

 前話はこちら   ◇  音の無い漆黒の世界。海の底で深海魚を見上げる夢を見た。身をくね…

シュシュ
10か月前
6

聖徳をまとう_三/地を這う(2)

 前話はこちら   ◇  交わした約束はまもなく果たされた。  カウンセリングの二日後、…

シュシュ
10か月前
5

聖徳をまとう_三/地を這う(1)

 前話はこちら   ◇  四肢の関節の痛みに耐えかねて目が覚めた。頭上から差し込む薄明か…

シュシュ
10か月前
6

聖徳をまとう_二/故郷にて(4)

 前話はこちら   ◇  太子町に飲食店は少ない。叡福寺で私をピックアップした横谷姉弟は…

シュシュ
11か月前
6

聖徳をまとう_二/故郷にて(3)

 前話はこちら   ◇  叡福寺は、推古天皇の時代、聖徳太子の母である間人大后の御廟に太…

シュシュ
1年前
4

聖徳をまとう_二/故郷にて(2)

 前話はこちら   ◇  矢も楯もたまらず、惹かれるように向かった先は八城邸だった。インターフォンの付いた豪奢な門柱を目の端に捉え、それから、邸を囲う白いモルタル壁に私は背をもたせかけた。  首をひねり斜め後方を見上げると、キューブ型デザイナーズハウスの屋上テラスが蒼天を四角く切り取っていた。白亜の豪邸だ。天頂から降り注ぐ陽光は強く、佇立する私の脳天をジリジリと焼いている。  河下美月は「ここ」にはいなかった。それどころか一年半前には事故で命を落としている。ここまでは