Masterworks: たった5万円からはじめるアート投資
最近、とても面白いサービスを見つけた。
モネ、バスキア、バンクシー、アンディ・ウォーホル、草間彌生…たった5万円ほどで、彼らの作品の「オーナー」になれると言ったら、あなたは信じるだろうか。
「Masterworks(マスターワークス)」は、そんな嘘のようで本当のプラットフォームだ。
投資家用画面。僕は運良くアカウント開設できたが、現在人数制限があり、ウェイトリストには2万人以上が載っている。公式サイトから登録は可能なので、気長に待ってみるのも良いだろう。
彼らは、アートを身近で魅力的な投資対象にする革命家なのか?それとも、巨匠たちを「大衆のオモチャ」に下落させるテロリストなのか?
個人的な視点で考えてみた。
アート市場の概観
はじめに、アート市場の特徴を俯瞰してみよう。現在、全世界のアート市場は50億ドル(約5500億円)といわれている。中でも主流なのは絵画で、その他彫刻から切手までカテゴリーは千差万別だ。
市場規模の推移をまとめたグラフがこちら。
2014年の68億ドルを頂点に、近年はゆるやかな下降トレンドを辿っている。
これだけ見れば、あまり魅力的な投資対象には見えない。しかし戦後・コンテンポラリー作品は好調で、急速に投資が進んでいる。
過去20年ほどにわたって、S&P 500(アメリカ株)よりも遥かに高い伸び率を維持している。
加えて注目したいのは他の資産クラスとの相関性。
データ元はこちら
以上のように、株や金、不動産などに比べて数値が低いことがわかる。つまり不景気やインフレなどに影響されにくく、資産の多様化に寄与可能だ。
しかしマーケットは富裕層の独壇場。一般大衆から最も縁が遠い市場のひとつといえる。
富裕層の資産も人数も増え続ける一方だ。パンデミック下の2020年にもパーム・ビーチやイーストハンプトンなどの高級リゾート地にギャラリーが開業している。
Masterworksとは
ここでMasterworksの出番だ。
彼らはまず、オークション等でアートを購入する。次はそれをSEC(米国証券取引委員会)に届け出ることで、一口20ドル(約2200円)の投資商品ができあがる。最低投資額は500ドルで、誰もが参加可能。
共同創業者兼CEOのスコット・リンは、これを「アートのIPO」と呼ぶ。
アートは最古の資産クラスの一つなのに、超が付くほどのお金持ちでないと投資ができません。歴史的にも相関性が低く好調な資産に、誰もがアクセスできる方法を考えました。
- スコット・リン
作品は約10年後にMasterworksが売却。年次2%の管理費と、売却手数料20%を差し引かれた利益が投資者にもたらされる。
ヘッジファンドの相場と比べてかなり高い水準だが、絵の取り扱いや保険料などのコストを考えれば納得できるかも?
リンによれば、2021年2月時点で3万7000件の投資者が登録しており、年末には10万件に達する勢いだという。(ちなみに創業は2017年。)
彼らのポートフォリオの一部を紹介しよう。
バンクシー(「モナリザ」を2019年に150万ドルで売却し、年次32%の利益を投資者に還元。)
クロード・モネ
ジャン・ミシェル・バスキア
草間彌生
アンディ・ウォーホル
キース・ヘリング
Kaws
アレックス・カッツ
一例ではあるが、「モナリザ」は株式市場を遥かに上回るリターンをもたらした。
文頭で触れた通り、モネやアンディ・ウォーホル、草間彌生などの超一級品=Blue chipを数多く揃えている。それに加えてコンテンポラリー作品をバランス良く取り入れることで、全体のリスクとリターンを管理する仕組みだ。
日本の白髪一雄は近年急速に高騰した画家の一人。ハワード・シュルツ(スターバックスコーヒー元会長)のオフィスにも「臙脂(えんじ)」が掛けられている。
安定した評価を受ける巨匠に投資する、まだ見ぬスターに賭ける、あるいはその両方。様々なニーズに応えられる投資オプションといえるだろう。
また、日本に住む僕たちも投資が可能だ。居住国で課税されるように、ケイマン諸島の税法を巧みに利用しているという。
Masterworksは、これまで一部の富裕層にしか開かれていなかったアート市場に風穴を開けた。
Masterworksの狙い
ここでMasterworksの思惑を探ってみる。
彼らのミッションはシンプルに「誰もがブルーチップアートに投資できるようにすること」。しかしその裏には大いなる野望が見え隠れする。
CEOのリンは「美的観点ではなく、完全に営利目的でアートを評価している」と発言した。
リンの言葉を裏付けるように、Masterworksは「カネになる」アーティストを選出している。
さらに、ベータ版ではあるがシェアの売買プラットフォームを公開。売却までの10年を待たずに取引が可能だ。つまり彼らはアートの証券取引所になる未来を描いている。
これまでオークションハウスに牛耳られてきた市場に「大衆」という激流が流れ込めば、その影響は不可逆だ。
クリスティーズやサザビーズなどの巨大勢力(アートオークション界の2トップ)も、これにはひとたまりもない。
民主化は諸刃の剣
実際にアート市場が「民主化」されたとして、どんな影響があるだろうか。
まずは良い面。誰もがモネやウォーホル作品のオーナーになれることには夢があるし、なんと言っても人々がアートに関心を抱く。芸術は心や思想を豊かにし、新たなアーティストも育まれるだろう。
STEM(理数系)だけでなく、Artsを交えた「STEAM」教育の重要性が叫ばれて久しい。(この場合のArtsは芸術だけでなく哲学や心理学なども含まれる。)
今まで一部の専門家や富裕層が定めていた作品の価値を、より多様な立場から再定義できるかもしれない。
しかし民主化は危険もはらんでいる。もしMasterworksがアートを株のように取引可能にすれば、作品の本質的な価値はどうなるだろう?
株やビットコインのように、トレーダーが目先の金のために値段を上下させることは目に見えている。
Reddit(オンライン掲示板)を口火として、Gamestop株の急高下劇が巻き起こったことは記憶に新しい。
企業なら業績、暗号通貨なら流通額など、現在コモディティ化されているモノの多くは数字で「本質的な価値」を推し量ることはできる。でも絵画の場合はそれができない。美しさは、最終的に人々の主観が決めることだから。
この市場を大衆にひらくことは、アート自体の存在意義を脅かしかねない。
さいごに
まるっきりの素人だが、僕はアートが好きだ。
だからこそMasterworksには大きな期待をよせてアカウントを作ったし、魅力的な作品があれば投資するつもり。
しかし同時に大きな不安があることも事実。金銭的な評価がアートの本質的な価値を覆い隠すことになれば、こんなに悲しいことはない。
あなたはどう思う?ぜひ教えてほしい。
参考情報
この記事を書いた人
Neil(ニール)
ecbo (荷物預かりプラットフォーム) とプログリット (英語コーチング) でUI/UXデザイナーとしてインターン。現在はIT企業でデザイナー。 ハワイの高校。大学では法学を専攻。もともとはminiruとしてnoteを運営。
好きな画家はゴッホ、マグリット、ルソー、イブ・クラインなど。
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