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既存事業から新市場を生み出すヒント ―組織デザインとエフェクチュエーション―[Japan Effectuation Conference イベントレポート]


新規事業を立ち上げるとき、多くの企業は新しい部門を作ったり、外部から人材を招いたりします。でも、実は既存の事業から新しい市場を作り出せるかもしれません。そんな可能性を示す講演が行われました。

東京経済大学の山口みどり准教授による講演「組織デザインとエフェクチュエーション」と、株式会社ローンディールの後藤幸起COOとの対談から、その具体的な方法を探ってみましょう。

新しい市場を作る組織の仕組み

エフェクチュエーションって何だろう?

「エフェクチュエーション」。聞き慣れない言葉かもしれません。これは、成功した起業家たちの意思決定の方法を研究して見つかった考え方です。27人の起業家に架空の商品のアイデアを与えて、どうやって事業化するか観察したところ、共通のパターンが見つかったそうです。

山口准教授は、この「個人の意思決定方法」を「組織の仕組み」として使えないか研究してきました。特に面白いのは、新しい市場を作るときの決め方をパターン化できるという発見です。

ワークマンの挑戦

この理論を実際に示す例として、作業服チェーンのワークマンの取り組みが紹介されました。1980年の創業以来、作業服専門店として成長してきた同社。でも、主要なお客様である建設作業者が減少する中、2014年から新しい業態開発に挑戦することになりました。

みんなで作る新市場

「作業服を作業者以外に売る」。簡単そうに見えて、実はとても難しいこの課題に、ワークマンは組織全体で取り組みました。

  1. 製品開発チームの工夫
    「とにかく3つの条件を守れば、どんな商品を作ってもいいよ」。その条件とは、徹底的な低価格、高い機能性、5年間は継続して売れる商品力です。

    面白い例が、ある防水レインスーツの話です。フォークリフトの作業者から「縫い目から水が染みる」という声があり、改良したところ、思いがけずバイクに乗る人たちに大人気に。新しいお客様のニーズを予測するのではなく、既存のお客様の声から生まれた改良が、新しい市場を開いたのです。

  2. 仕入れチームの慎重作戦
    新商品は最初から大量に作らず、むしろ品切れが起きるくらいの少量からスタート。2年目からデータを見ながら少しずつ増やしていく。この「慎重すぎるくらいの」アプローチが、実は新しい挑戦を可能にしていました。

  3. 店舗指導員の"探検"活動
    毎週の店舗訪問で、「この商品、急に売れ始めたな」という変化を見つけたら、すぐに理由を探ります。どんなお客様が、どんな目的で買っているのか。この「現場の気づき」が、新しい市場のヒントになっていきました。

  4. 広報チームのユニークな取り組み
    売上が急に伸びた商品について、ネットでの評判を探ります。そして、SNSで商品の良さを発信している人を見つけたら、新商品の発表会に招待。さらに商品開発にも意見をもらうというサイクルを作りました。

  5. 経営陣の役割
    最初から「こういう市場を狙おう」と決めつけず、現場から上がってくる情報を見ながら、柔軟に方向性を決めていきました。例えば、当初考えていたアウトドア市場への参入を見直し、「低価格なのに高機能」という新しい市場を作り出すことにしたのです。

なぜうまくいったの?

ワークマンの成功には、いくつかのポイントがありました:

  1. トップとボトムの良いバランス
    経営陣が大きな方向性を示しつつ、現場には一定の自由度を与える。この"緩すぎず、硬すぎない"バランスが、新しいアイデアを生み出す土壌になりました。

  2. 既存の強みを活かす
    作業服で培った「機能性へのこだわり」や「効率的な店舗運営」といった強みを、新しい挑戦にも活かしました。新しいことを始めるときも、ゼロからではなく、既存の良さを進化させる形で取り組んだのです。

  3. 一歩一歩の展開
    新商品も新しい店舗も、最初は小さく始めて、お客様の反応を見ながら徐々に広げていく。この慎重なアプローチが、持続的な成長につながりました。

実践に向けた対話

後藤COOは、大企業からスタートアップへの「レンタル移籍」という独自の取り組みを行っています。その経験から、以下のような示唆が共有されました。

個人の成長が組織を変える

スタートアップでの経験は、個人に大きな変化をもたらします。意思決定の速さ、限られた資源での工夫、お客様との直接対話など、普段の仕事では得られない経験が、新しい視点を育てるのです。

例えば、日産自動車では、スタートアップで経験を積んだ社員が戻ってきて新しい取り組みを始め、それが少しずつ組織に広がっていったそうです。

実践での課題と工夫

対談では、実際に取り組む際の課題も話し合われました:

  1. 組織の壁をどう越える?
    縦割り組織での部門間連携や、既存の評価制度との兼ね合いなど、様々な課題が指摘されました。これに対して、部門をまたいだプロジェクトチームの設置や、新しい評価の仕組みづくりなどが提案されています。

  2. 人材育成のコツ
    新しい考え方を身につけるのは時間がかかります。かといって、普段の仕事をおろそかにもできません。そこで大切なのが、段階的な育成と、その人に合った役割の設定です。実は、定型的な仕事が得意な人と、新しいアイデアを出すのが得意な人、両方が必要なのです。

これからの組織づくりに向けて

このイベントから見えてきたのは、新しい市場を作るのに、必ずしも大きな組織改革は必要ないということ。既存の仕事の中に、少しずつ新しい要素を組み込んでいく。それが、持続的な変革につながるかもしれません。

ワークマンの例は、既存事業の改善から新市場が生まれる可能性を示しています。この考え方は、他の業種でも応用できるはず。これからの組織づくりに、新しいヒントを与えてくれる興味深い講演でした。

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