圧倒的な新緑を見に行く〜岐阜県郡上市八幡町。
ひとつの街や場所が好きになると、やがて四季折々訪ねてみたくなる。
ということで、また行ってきました郡上八幡。
ゴールデンウィーク前、京都に行く用事があったので、だったら寄り道しておこうかな、と。
桜のシーズンが終わり、郡上八幡城は4月29日まで改修工事中。いちばん観光には適さない時期かもしれないけれど、だからいいとも言えます。何より、街の人たちの普段通りの暮らしに触れることができるからです。
水の街には新緑が大爆発していました。僕は紅葉よりも新緑が好きなのかもしれない、と、つくづく思った、郡上〜京都〜そして静岡への旅でした。
それでは街の入り口、郡上八幡駅から。
僕はこの駅を「日本一、夏休みが似合う駅」と呼んでいるけれど、新緑の季節もなかなかの実力です。まずは挨拶がわりに、長良川鉄道の郡上八幡駅を眺めてみました。
いつもはひっそりしている駅のカフェも、フリマの客で賑わっていました。このカフェは観光案内所も兼ねており、とても役に立つスペースなのです。
なぜこの街がこれほど気に入ってしまったのか。
2022年の夏、初めて訪ねたときのようすをnoteにまとめていますので、よろしければご覧ください。
僕が今のように日本全国出かけるようになる前までは、日本のあちこちにこのような街があるものだと思っていました。しかし、それは頭の中で勝手に描いた幻想だったようです。
何より、どこへ行っても、幹線道路沿いには全国一律の家電量販店やドラッグストアや大手スーパー、そして景観などお構いなしの原色の看板や巨大な駐車場。地元の人にとってはそれぞれ大切な商店であるに違いないのだけど、もう少し、その街ならではの街づくりがあってもよかったんじゃないかな、と思う。やがて勝手な観光客としては、その街に足が向かなくなります。
しかし、郡上八幡の市街地にはコンビニさえありません。信号も無いんです。その代わり、商店街にはこの街が発祥と思われる商品や食料品が並ぶ。ここは独立国なのか?
日が落ちると共に街は静かになり、暗くなった街の隅々まで水の流れる音が聞こえ、そのようすをライトアップされたかわいいお城が見守っている。日本には、まだこんな街があったのか、と、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような気分にさせてくれる街が、ここ郡上八幡なのです。
もっとも、東海北陸道の郡上八幡インターや、郡上八幡駅の近くには家電量販店もコンビニもファストフード店もあります。なので、そういうものが必要であれば、前もって買い込んでから市街地に入ることをお勧めします。
駅から市街地へは「豆バス」を使うとよろしい。
郡上八幡の市街地は、駅からけっこう離れているのが難点。しかし、「豆バス」と呼ばれるコミュニティバスが運行されているんですね。知らなかった。駅と市街地を30分間隔で結んでいます。料金は100円ポッキリ。路線は右回り、左回りの2系統。小さな街なので、これで何ら不自由なく、街を見て回ることができる。
僕の定宿は、「城下町プラザ」のバス停から歩いて一分なので、なぁんとラクなことでしょう。宿にクルマを置いて、長良川鉄道の乗り鉄にも簡単に行ける。運転の心配なくビールを飲むこともできる。
ということで、ちょっと隣の美濃白鳥まで行ってきましたよ。
郡上八幡から美濃白鳥まで、およそ30分という短い乗り鉄旅だったけれど、どこまで行っても新緑を見せびらかす山の姿。平地には水田が多く、4月の下旬だというのに、早くも水を入れて代掻きが始まっていた。これから田植えまでは、田んぼの水鏡が美しいシーズンに入るわけですね。郡上米と言えば、岐阜県が誇るブランド米。水がいいから美味しいんですよ。
美濃白鳥の街も踊りが有名だし、商店街やお寺もあるのでしばらく散歩したかったけれど、戻りの列車は一時間後。その次は三時間後になるので、ちょっと持て余しそう。軽くお蕎麦だけいただいて、泣く泣く一時間後に乗りました。
そしていつもの山や川、夏を控えた城下町の佇まい。
そして郡上八幡に戻って吉田川を見に行く。水の流れる音が、いつの季節も心地よいです。
そして日没。斜めの日差しが山を照らすのだった。
シーズンオフとは言え、週末ともなると郡上八幡の街はけっこう混んでおり、夕方の飲食店はどこも満席になっていた。あらまぁ、それじゃ夜まで待ってみようか。などと街をうろついていると、やがて雲が多くなり、街の中には日没前の斜めの光が差し込み、街は暗いのに街を取り囲む山だけが明るく見えるという、不思議な現象が一時間ほど続きました。
いよいよ日が暮れる頃、一軒だけ入れそうな居酒屋をみつけた。雰囲気は良さそうだし、地元の人からは「このシーズンは山菜を食べてみて」なんて勧められていたので、店先に置かれた「山菜定食」のメニューに惹かれて入ってみました。
この店が混んでいた理由は地元のグループが入っていたから。10人を少し越えるくらいの、けっこう賑やかなグループで、会話を聞いていると、ゴルフコンペの打ち上げのようだった。とは言え、あまり大声を上げるでもなく、会話には時おり敬語が混ざったりして、上下関係はありそう。地元の飲み仲間どうしという雰囲気でもない。
僕が店に入った頃には宴も終わりに近づいており、間もなくお開き。勘定を済ませた後も、しばらく店のスタッフたちと談笑していた。正直言って「早く帰らないのかな」と思いますよね。
するとしばらくして、彼らの中のリーダー的ひとりが、僕に近づいてきてひと言。「お騒がせして、申し訳ありませんでした」というオトナの挨拶。え、どうして? 「いえいえとんでもない。僕の方が後から来たのに」。しかも、それほどウルサくなかったし、多少でも他人の会話が聞こえた方が、おひとりさまの居酒屋は楽しい。
彼らが帰った後、店の女将さんが教えてくれた。彼らは、30年くらい前に代々この店でアルバイトで働いていた人たちらしい。こうして、この店に集まるのもその頃以来とのこと。なぁるほど。あの会話の距離感には、そういう意味があったのか。そうかそうか。
すっかりいいトシのオッサンたちだったけれど、僕はそういう、おめでたい場所に居合わせたというわけでした。寅さんだったら、ご祝儀に一杯おごる場面かな。そして最後に見せてくれたあの態度。つくづく、あぁいう気遣いのできる酒飲みでいたいと思いました。
ということで、郡上八幡新緑編はおしまい。
この旅は、京都へと続きます。その話は次回に。