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ギャラリーオーナーの本棚 #17 『美しい人生』 詩がすくいとるものは

春の兆しを感じ始めた2月のある日曜日。
私が運営するGallery Pictorのある由比ガ浜通りを、長谷に向かってまっすぐ歩いて10分ほどで行ける本屋さん「Books & Gallery 海と本」さんを訪れた。屋号の通り、海にまつわる本が並ぶなかで、私の目を引いたのがこの表紙だった。

装画は津上みゆきさん。
現代アート作家で、2019年に神奈川県立近代美術館 葉山館で、「みえるもののむこう」というグループ展に出品されていた。
出版社はギャラリーと同じ由比ガ浜通りにある「港の人」。文学性の高い作品を出版している小さな出版社で、装丁も凝ったものが多い。
この本も、カバーは画用紙のような手触りだけれど、津上さんの作品の部分だけがツヤありになっている。

ほとんど目立たない小さな金文字で書かれたタイトルは「美しい人生」。ページを繰ると、詩集だ。詩人は野村喜和夫さん。

詩の世界はまったく馴染みがなくて、この方の名前も初めて知ったくらいだけれど、サッとページを繰るとしっくりくる感じがあったので、あまり悩まずに購入した。どちらかというと「ジャケ買い」に近かったのだけど、家に帰って何篇か読んでみると、これがすごく良かった。

4月から始めるギャラリープログラムに、詩を取り入れようと企画していて、少し読み始めていたんだけれど、最初は、前後のつながりがよく分からないとか、変なとこで改行するなとか、頭で考えようとすると気になることが多々あった。でも、私たちが日常会話で話す時や、心の中で考えを巡らせる時ってこんな感じだ。思い浮かぶ言葉を並べると、文法通りでなかったり、たどたどしい表現をしたりする。少なくとも私はそうだ。

そうか、詩というのはそういうものなのだ。私たちのあてどない考えや、説明のつかない行動、どうにもならない気持ち。そういう、順序立てて整理することのできないものが、詩として表現されるのだ。
そう受け入れてしまえば、こんなにも美しく、豊かな景色をもたらしてくれる言葉の連なりは、他にないかもしれない。

美しい人生。

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