暇と退屈
年末の休暇を使い、ずっと読みたいと思っていた『暇と退屈の倫理学』を読んだのでnoteに書きたいと思います。
本書は450ページ近くあり、感じた事を全部書くと大変なので、要点を絞って書きたいと思います。
哲学の面白さ
まず「暇」「退屈」といった概念を取りあげて、それらについて真剣に考えるという体験自体が新鮮でとても気持ちが良かったです。
日々生きている中で「暇だなぁ」「退屈だなぁ」と思う事はあっても、「暇とは何か」と、考える対象として取り上げたことが今までありませんでした。ほとんどの人が僕同様にないと思います。
当たり前すぎて、日々生きている中で気にも留めないけれど、僕たち人間に纏わりついてくる、人間にとって本質的ものに向き合い、考える体験は哲学ならではの面白さだなと改めて感じました。
人間・人類というスケールで物事を考えると、自分という存在がちっぽけに思えてきて、日々の悩みや不安が馬鹿馬鹿しく思えてきます。
何も考えずに生きていると、どうしても視野が狭くなってしまうので、継続的に哲学に触れたいですね。
2022年、「暇」、「退屈」
最近、「AIの導入で自動化が進み、人々の可処分時間は増加する」というような文言をよく聞きます。また、コロナ禍でリモートワークが増え、以前までの通勤時間や飲み会の時間が消え、自由に使える時間が増えた人も多いのではないでしょうか。
「可処分時間を如何に過ごすか」は、今後人類が考えるべき重要な問いであるように思います。
一昔前と比べ、インターネットが普及した事で、大量のコンテンツへのアクセスが容易になりました。YouTube、Netflix、SNS、スマホゲームといった娯楽が身の回りに溢れていて、可処分時間を何となくやり過ごすための方法は沢山あります。
それらはある側面においては我々の人生を豊かにしてくれる事は間違いないですが、適切な距離感を保たなければ害にもなり得ます。
本書は、その距離間を考える上で重要なヒントを与えてくれます。
「消費」でなく「浪費」を
本書の重要なメッセージの一つに「消費でなく浪費を」という言葉があります。
「消費」と「浪費」の違いを一言でいうと、消費には終わりがなく、浪費には終わりがあり、満足があります。
消費は観念的行為で、物を受け取っているのではなく、その物に纏わりつく意味や記号を受け取っているに過ぎません。意味や記号の受け取りには限界がないから満足をもたらしません。
人気のレストランに行き、写真を撮ってインスタやツイッターに自慢するとかは消費が観念的行為である(つまり食べ物自体を受け取っているのではなく、食べてインスタに上げて自慢する事に意味を見出している)事を如実に表しています。
逆に浪費は食べ物を食べ物として受け取り、音楽を音楽として受け取ります。年始のテレビ番組で芸能人格付けチェックというものがあります。
この番組では芸能人が高級食材と普通の食材を見極めたり、プロの演奏と一般人の演奏を聞き分けたりします。この番組を見たことのある人なら分かると思いますが、知識や教養がなければ、違いを見極めることは難しいです。
浪費するために、ある程度勉強する必要はありますが、それ以上に重要だと思う事があります。それは「生の体験」と「時間をかける」ことです。
「生の体験」は、字の通り、実際に体験する事です。頭だけで理解した気になるのではなく、実際に体験し、そこで感じた事に向き合うことが重要だと思います。
YouTubeで見ただけで知った気になるのではなく、実際にレストランに行って食べたり、コンサートに行って音楽を聴いたりすることが浪費には必要です。
「時間をかける」も、字の通り、物の受け取りに時間をかける事です。増えた可処分時間に予定をパンパンに詰め込むのではなく、同じ事でもいつも以上に時間をかけて向き合う事で、深い物の受け取り方ができるのではないかと思っています。
今回増補版を読んだのですが、増補版には付録として20ページ程度文章が付け加えられています。そこにファストフードとスローフードについて面白い考えが述べられていました。
ファストフード・スローフードという考え方は少し間違っていて、ファストフードがファストなのは情報量が少ないからであり、その観点から考えるとインフォ・プア・フードとインフォ・リッチ・フードという呼び方の方が適している。
と言った内容がありました。この考えは非常に面白く、頭に残っています。インフォ・リッチな受け取りをするためにも、生の体験から複雑なものを受け取り、時間をかけて受け取る事で、より深い情報にアクセスできるのではないかと思い、上記2点を挙げるに至りました。
最後に
著者の國分功一郎さんの事は、以前『中動態の世界 意志と責任の考古学』を読んだ時に知りました。中動態の本は、読む前と読んだ後で世界の見え方が変わり、人生で一番面白い本でした。その時以来、國分さんの他の本を読みたいなと思っていて、今回やっとこさ読む事ができました。
期待を裏切らないとても面白い本で、色々と考えさせられたので、本当に読んでよかったなと思います。
冒頭に述べたように本書は450ページ近くあり、中々読み応えがありますが、難解な概念も読者に寄り添い丁寧に分かりやすく書かれているため、挫折することなく読めます。
もし興味がある方は、ぜひ読んでみてください。