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【微笑みエッセイ お泊まり人間ドックに行ったはずなのに、ドアを開けたらそこは】

人間ドックと言えば、3週間前からいろいろと体裁…体調を整えようとするタイプです(笑)

お肉中心の生活から、野菜中心の生活へ。ラーメンを食べるより、うどんや蕎麦を食べる。昼寝する暇があれば、ひたすらジムで走る、走る、走る。かのメロスもかくやというくらい、走る走る。セリヌンティウスも僕の走りを見たら、きっと間に合わなくても許してくれるだろう。ごめんねセリヌンティウス。

そんな甲斐もあってすっかり体も絞れてムキムキマッチョで人間ドックへ臨むはずが、なぜか痩せない50代。これでもかというくらい運動したのに、全然体重が減らない。悲しいくらいに適応される、質量保存の法則。増えたのは膝の痛みくらい。


人間ドックの医療機関として選んだのは、同僚推薦の病院。施設が良いとのこと。

自宅から車を10分ほど走らせ、着いた病院はまあ、新しくはあるけどこじんまりとした病院。今までドックを受けた病院たちの方が断然デカかった。

車を停め、健診センターに向かう。

ドアを開けた瞬間、しばし固まる。

絨毯ばりのフロア。ものすごい大きな花瓶に手の込んだ花束。ギャルソンもかくやといういでたちの係員さん。ものすごい豪華なソファー、ソファー、そしてソファー。奥にはこれまた瀟洒なラウンジ。中にはスタバのコーヒーメーカー。

一言で言うなら、THE 一流ホテル。

しばし我を忘れ、周りを見渡す。あれ、ここって、病院ですよね?ホテルじゃないっすよね?ナビちゃん、間違って僕をホテルに連れてきた?ダメだよ嘘教えちゃ。いくら人間ドックに行きたくないからって。

お客様、人間ドックの受付ですか?こちらで承ります。

え゛、お客様?僕のことですか?てか病院に来てるのに「お客様」ですか??

もう頭の中は驚きと戸惑いと???だらけ。

ではこちらで館内着を二着お選びください。下は三色から、上は十色からお選びいただけます。ドック後はお持ち帰りいただけます。

え゛、持ち帰っていいんすか?しかも二着?

お選びいただけましたか。ではお部屋へご案内します。

こちらのスロットにカードキーを指していただくと、宿泊棟のドアが開きます。

え待って待って待って。宿泊棟ってなんすか?病室じゃないんすか。

…宿泊棟の部屋の扉を開けた瞬間、また悶絶。

そこはどう見ても、ホテルの部屋のそれ。どう考えても一泊2万は下らないホテルのそれ。埃ひとつない絨毯。すでにキンキンに冷えた部屋の空調。

室内のウェルカムメッセージは、僕の名入り。

掃除の行き届いた部屋、お風呂そしてトイレ。何もかもが一流ホテルの佇まい。

あのー、すみません。ここってホテルですか?病院じゃなく?

もう自分がどこにいるか分からなくなる。

お着替えになられたら、このiPadを持って受付にお越しください。

え、iPadすか?不思議に思って尋ねる。

はい、ドックのメニューや場所はすべてiPadでご案内します。iPadにはナンプレやオセロもありますので、順番の時間にお楽しみいただけます。

なんなの、その手厚さは。ワタクシ単なる一市民なんですけど。そんなに厚遇していただくと却ってお腹いっぱいなんですけど。なんのために3週間体調を整えてきたのか。


一日目、8時半に始まったドックは11時頃には終了。

え、もう終わりですか?自分、お泊まりドックに来てるんですけど。

はい、初日はこれで終了となります。これからランチ会場にご案内しますので、そのままお越しください。

え、ランチ会場?病院だから食堂、じゃなく、ランチ会場?

ランチ会場のドアが開き、本日三度目の衝撃にもう言葉が出ない。絨毯ばりのフロアに、これまた豪華なテーブルに椅子がひとつ。このテーブル、一人で使っていいんすか?僕んちのテーブルよりはるかに豪華なんですけど。

ランチは和食と洋食からお選びいただけます。和食はお寿司か鰻、洋食は牛フィレのステーキです。

…あの、病院のご飯といえば入院患者さんが食べるものと同じで、栄養に全振りした味気ないメニューなのでは。鰻とか牛フィレとか、どこの高級レストランですか?

三週間我慢した僕の胃袋が、瞬時にして満たされていく。

あぁ、お母さん、生まれてきてごめんなさい。訳もなく謝ってみる。

デザートはこちらの6品目からお選びいただけます。お飲み物は、コーヒーか紅茶かどちらがよろしいでしょうか。

病院で、デザート。コーヒーと紅茶。

あ、じゃ、紅茶お願いします。

満たされたお腹で考えてみる。

ここはホテル敷設の病院なのか、病院敷設のホテルなのか。余生を送るとしたら、もうここでいいかも。というかもう余生でいいかも。

ご馳走様でした。美味しかったです!ありがとうございました!

午後は自由時間です。外出していただいても結構ですし、館内敷設のジムにて汗を流していただいても結構です。

もうなんか、驚くのも疲れた。へー、お泊まりドックに来て外出していいんだ。病院にジムなんてついてているんだ。最近の病院はすげーな😑

職場の皆さん、ゴメンナサイ。みなさんがあくせく悪急く働いているというのに、僕は病院の温泉で湯に浸り、これでもかというくらいのんびりしています。この世に極楽があるとしたら、案外それは病院の中かもしれない。

誰ですか、病院の極楽は片道切符だなんて言う人は💢

夜になり、やってきましたディナータイム。ラウンジでのんびりしていたら、1メートルくらいありそうなシェフハットを被ったお姉さんに声をかけられる。

お夕食のご準備ができました。どうぞお入りください。

ドアを開けて、本日もう何度目かの吃驚。

誰もいない。僕以外。

す、すみません、今日ここでご飯を食べるのは何人くらいですか?

お客様お一人でございます。

…もう棺桶に片足突っ込んでいるかもしれないこんなオッサン一人のために、安くない電気代ガス代使っていただき、こんな豪華なディナーを作ってくださったのですか…もう申し訳なさすぎて舌噛んでスズメになります🦆

食前酒は、ビールと日本酒とワインからお選びいただけますが。

…聞き間違えたかな?ショクゼンシュ?創作料理の名前か何かかな?

食前酒でございます。

人間ドックにきて、お酒が飲めるんですか?

はい、ご用意してございます。

確かに胃健診は終わったけど、病院でお酒?

次々に上書きされる僕の人間ドック観。

そして次々に出てくるディナーの数々。

その全てが涙が出るくらい美味しかったことは言うまでもありません。

食べ終わるタイミングを見計らったかのように出てくるデザート。食べたこともないくらい美味しいレモンのヨーグルトとシャーベットに、これまた舌鼓を打つ。

あぁ、美味しい。

ここまでいただいたディナーと、部屋に流れるクラシックがクロスリンクする。嗚呼、今僕がいただいているのは、ディナーという名のクラシックだ。僕は今、サラダという名の序章を食べ、ステーキや天ぷらという名の交響曲を奏で、デザートという名のクライマックスを食べているんだ。僕の胃袋の中で一つの音楽が渾然一体となり、芸術が完成されたんだ。ああ、なんて豊かな時間。

なんてしょーもないことを考えていたら、あっという間に消灯時間。

この日唯一人間ドックだと感じさせてくれたのは、夜9時以降の飲食禁止、と言うことだけでした。


翌日も、糖尿病の検査と称して三ツ矢サイダーのようなドリンクをいただき、採尿と採血を2回しただけ。

朝食というには遅めな、昼食というには早めな食事(要するにブランチ)をいただき、ホテルを…病院を後にした次第であります。

十分に満足のいくおもてなしをしていただき、それに見合うお代を支払いました。数年に一回のお泊まりドック、また生きて受けられるなら、ぜひここがいいな。

大事なことなのでもう一回書きますが、ここは病院でもホテルでもなく、極楽です。

こんな極楽に、往生してみたい。

いいですか?お釈迦さま。


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