海外の食物アレルギー情報 ②アメリカの法律、オーストラリアのアナフィラキシー報告義務化
今日は引き続き、海外の食物アレルギー情報をお伝えします。アメリカの食物アレルギーの法律、オーストラリアビクトリア州のアナフィラキシー報告義務化、そして日本での食物アレルギーの現状把握・データ収集について書きます。
1. アメリカの食物アレルギーの法律 FASTER Act of 2021
前回のブログで、アメリカでは2021年の調査で初めて成人が追加され、成人の食物アレルギーの現状把握を強化する動きがあったことをお伝えしました。そのきっかけになった法律についてお伝えします。
アメリカでは、バイデン政権下、通称「FASTER Act of 2021」と呼ばれる法律が2021年4月承認、2023年1月に施行されました。
Food Allergy Safety, Treatment, Education and Research Act of 2021
食物アレルギーと関連疾患(生命を脅かすアナフィラキシー、食物蛋白誘発胃腸炎、好酸球性消化管疾患等を含む)のある、アメリカ人の健康と安全の改善を目的とした法律
Secretary of Health and Human Services (日本の厚労大臣的な人)とその配下にあるCDC(Centers for Disease Control and Prevention、コロナの時よくテレビに出てきましたよね)に対し、食物アレルギーの有病率のデータ収集の強化・精度の向上を求め、議会に報告する義務を定めた
この法律を受け、2021年の調査から、小児だけでなく成人も対象に追加。有病率の精度向上のため「医師・医療関係者から食物アレルギーがあると言われことがあるか?」という質問も追加された。
日本の厚労大臣的な人に対して、この他にも議会にいろいろな報告しなさい、というのが定められました。例えば、効果的な食物アレルギーの診断方法、食物アレルギーのある人の生活上のリスクを軽減する方法、表示義務のある主要な食物アレルギーの原因物質を決める際、科学的な根拠に基づいて行える仕組みの提案など。
「ごま」が9つ目の主たる食物アレルギーを起こす原因として追加され、表示義務が必要になった
2. この法律の意味するもの、感想
この法律ができる前は、食物アレルギーのデータ収集が不十分だったり、精度に問題があった。そこで法律を制定し、しっかり予算をつけてデータを収集を強化している。小児だけでなく、成人の食物アレルギー・関連疾患についても、しっかり見ていこうという、国としての方針が示された訳です。
また、現在9つ指定されている、表示義務のある食物アレルギーの主たる原因物質ですが、今後増えることも想定していると思われます。科学的根拠と透明性を持って、遅滞なく指定できる仕組みを作りたいと、法律で方向性をしっかり打ち出しています。
日本では2014年にアレルギー疾患対策基本法が制定されました。アメリカでは、アレルギー疾患の中でも、食物アレルギーとその関連疾患という、的を「ぎゅーっ」と絞った法律が2021年に制定されました。食物アレルギーを何とかしたいという、国としての意気込みを感じますよね。
日本では花粉症への意気込みは感じますが、成人の食物・食物関連アレルギーはそこまで問題視されていない。日本でも、まずきちんと現状把握から始めて、正しい課題を設定してほしいです。
3. オーストラリアビクトリア州 アナフィラキシー報告義務化
2018年から、オーストラリアのビクトリア州では、小児と成人両方のアナフィラキシー情報の登録が義務化されました。
対象施設:公的・民間の両方の医療機関
報告対象:食品だけでなく、ワクチン、薬剤、昆虫等。原因不明の場合も報告義務有。
報告期限:診断から5日以内。パッケージで包まれた食品が原因の場合は、診断から24時間以内にオンラインでの報告が義務化(表示に問題がある場合、消費者に即注意喚起をするため)
アナフィラキシーの情報を標準化されたフォームで収集分析し、発生を防ぐための有効な施策に結びつけようという、本気度を感じます。
地味で大変だけど、しっかりしたデータ収集・現状把握から始める。問題解決の基本的なステップをきちんと踏んでいる所が素晴らしいと思います。
4. 日本でも現状把握、頑張ってほしい
海外では、成人の食物アレルギーや、アナフィラキシーについて、現状把握をしっかり行って、課題を明確にし、効果のある施策を検討していこうという取り組みが始まっています。それに対し、日本では、まだまだ現状把握が不十分なように思います。
a. 成人の食物・食物関連アレルギーのデータが不十分?
日本では、食物アレルギーの有病率、食物によるアナフィラキシーの統計の全体像がはっきりとしないんですよね。
例えば、各世代ごとの食物アレルギーの有病率。そして、一体、日本全体では年間何件の食物・食物関連のアナフィラキシーが起きているのか? その内、何件が小児で何件が成人なのか? 全体で、また特定のセグメントでの顕著な増減の傾向があるのか?(例 成人発症が増えている、特定のアレルゲンの発症が増えている等)。
有病率については、食物アレルギー研究会の食物アレルギーの診療の手引き2023を見てみました。成人の有病率は、何のデータを使ってどのように推定されているのか不明でした。また「全年齢を通して、わが国では推定1-2%程度の有症率であると考えられる」という記載も、根拠がよく分かりませんでした。
食物アレルギーの診療の手引き2023 (10ページ目に有病率の記載あり)
アナフィラキシーについても、6歳以上のお子さんについては下記のような分かりやすいデータがありました。同様の成人のデータは見つからず、また全体像が分からない、小児の一部のデータだけあるんですよね。
いくつかの拠点病院レベルの成人の食物・食物関連アナフィラキシーのデータも一部ある。でも、全国で何件起こっているのか、全体像は分りませんでした。
b. アニサキスはいつも仲間外れ?
そして、もう一つ、アニサキスについてです。日本の成人の救急外来受診のアナフィラキシーの原因で、アニサキスが相当数あるにもかかわらず、いろいろな統計に出てきません。
寄生虫アレルギーで食物関連アレルギーであり、狭義の食物アレルギーに当たらない。なので、食物アレルギーの原因の円グラフには表れない、カテゴリーの問題なんですよね。ここでも、全体像が見えない問題が起こっている。
エピペンの会社のヴィアトリスさんの日本サイトにも、アナフィラキシーの原因として、アニサキスについての記載はありませんでした。成人のアニサキスの方々が多く処方されていると思いますが、ちょっと残念です。小児患者さんのご家族をターゲットに書かれているからだと思います。
ヴィアトリスさん、サイトアップデートして、アニサキスアレルギーの認知度アップにご協力下さい。
c. 感想
日本の成人の食物アレルギーの有病率は、根拠のはっきりした統計やデータでは分かりませんでした。ただ、アメリカの成人の有病率6.2%より、かなり低く推定されている感じ(全年齢通して1-2%など)。
日本の成人の食物アレルギー有病率が、海外の有病率より有意に低い場合、その原因は何なのか、知りたいです。
パッチワーク式に局所的なデータはたくさんある。でも、全体像を掴めるデータがない。局所的データを細かくSlice & Diceする前に、まずビックピクチャーでどうなのか、国主導で全体像をもっと把握する必要があるのではと思います。
日本も世界の流れに遅れず、まずしっかりとした現状把握から進めて、正しく課題を設定して、有効性のある解決策に結びつけて欲しいと思いました。
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