事件簿 ② 左胸救出事件
2023年は、私にとって「アレルギー元年」だっただけでなく、実は別の病気でも手術入院するという、ちょっと大変な年でした。
今日は、その手術入院の時のエピソードを書きます。食物アレルギー・喘息・慢性蕁麻疹があり、手術をするってどんな感じか、入院食や薬、医師との信頼関係について、お伝えできればと思います。
1. 別の病気の状況
4年前から左胸にしこりがあり、線維腺腫疑いで経過観察中。タイミングの悪いことに、アレルギーの発症と同時期に5cm x 5cmまで急成長。手術可能な大きな病院の乳腺外科に紹介されました。
良性の葉状腫瘍だと思われるが、手術は必要。問題はいつ手術するかでした。
当時、最初の大学病院で特発性血管性浮腫と言われていた時期で、原因不明の腫れ・SpO2と血圧の低下がある状態で、良性腫瘍の切除のメリットと手術のリスクを鑑みると延期した方がいいということになり、3か月様子を見ることに。
がんの可能性は低いと言われていましたが、腫瘍が皮膚の上からも見て分かる位成長していたので、手術延期に少しやきもきしました。母も乳がんだったし。
葉状腫瘍は1-2cmマージンを取って切除するのが教科書的には基本。腫瘍は既に5cm四方、このまま成長が続けば、左胸全部なくなるかもと思っていました。
最初の大学病院で、ゾレアに反応が出て中止になった時に、「もたもたしていられない。何だか分からないこの病気を、早く治さないと左胸も危ない」と焦せる気持ちで、転院に踏み切りました。
2023年9月末に、転院先の大学病院でアニサキスアレルギー・喘息・慢性蕁麻疹の診断・治療開始、12月初旬には症状沈静化。そのお陰で、12月末に乳腺の手術を無事受けられることになりました。
2. 入院日程
全身麻酔の手術でしたが、1泊2日の高速、院内滞在時間は24時間を切っていたと思います。手術当日に入院手続きを済ませ、午後に手術を受け、一晩寝て、翌朝9時には問題なく退院。
3. 入院食
a. アニサキス対応可能?
入院前の看護師さんからの説明時に、入院食のアレルギー対応についてお聞きした所、院内の管理栄養士さんに問い合わせてくれました。
私は「調味料やだし入りの味噌汁もだめなので、白米・牛乳・生野菜・豆腐とかのメニューでもいいので、お願いできないでしょうか?」お聞きしました。
結局、アニサキスアレルギー対応の経験がなく難しい、入院食でアレルギーを起こすリスクを考えたら、家から食事を持参した方がよいということになり、医師から持ち込み許可を頂きました。
推測ですが、病院から入院食調理を受託している会社で、アニサキスアレルギー除去食の調理・コンタミ防止の運用マニュアル等が既に出来上がっていて、調理する方に研修等が行われている状況でないと、安請け合いはできないのだと思います。
院内の管理栄養士さんと、実際に調理する会社が参考にできる、「具体的にどういう食材がだめで、どう注意すべきか」を明示したガイドラインがないと、その方々がアニサキス対応をしようにも、できないのではないかと思われます。日本アレルギー学会のような団体が、入院食のアレルギー対応の参考になるようなガイドラインを作って下さることに期待します。
b. 入院時も持参弁当
手術当日の朝、弁当を4つ作り保冷バックに。病室に入ったら、冷蔵庫で冷やし準備完了。術後、食事が取れるようになった後、看護師さんのお部屋の隣にある電子レンジで、家族に温めてもらい、自作弁当をおいしく頂きました。
4. 腫れの状況
手術前に、麻酔科の先生がわざわざ病室まで来て下さって、症状や体調、舌や喉の腫れの状況も確認して下さいました。口を開けて舌を出した時、「あ・・・」っと、ちょっと表情が固まりました(家族も同じように感じたそうです)。やっぱり、腫れてるんだなと思いました。
手術室での開始前の確認で、「舌(ぜつ)腫れあり」とおっしゃったのを聞きました。「した」は「ぜつ」って言うんだ・・・と思ったのが最後、麻酔で気持ちよく寝てしまいました。
後でお聞きしたのですが、念のため、集中治療室と同じ階の手術室に直前で変更して下さっていたようです。いろいろ心配りして頂き、安心した気持ちで手術が受けられました。
5. 手術に使うお薬
入院前に、麻酔科の先生が私のアレルギーを詳しく聞き取りをして下さっていました。できるだけアレルギーの出にくい薬で、使う薬の種類も最小限にし、薬によるアナフィラキシーリスクを最小限にする方針で準備して頂きました。
a. 抗生剤
抗生剤にも複数アレルギーがあるため、乳腺は感染症を起こしにくい部位なので、抗生剤の事前投与なしという方針に。
b. 痛み止め
痛み止めも事前投与なし、術後に痛みが出た場合はアセトアミノフェノン(カロナール)を処方とういう方針に。
慢性蕁麻疹・血管性浮腫の人は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、ロキソニンやアスピリン等)で薬剤性の咽頭浮腫・血管性浮腫を起こしやすいので使用しないということで、理解して下さっており安心でした。
手術後にカロナールを3回飲んだだけで、翌日には痛みもなくカロナールも必要なかったです。
c. 麻酔薬
全身麻酔薬は、レミマゾラム、レミフェンタニル、フェンタニル、エフェドリンを使い、アレルギー症状は出ませんでした。
麻酔科の先生から、手術前に心配りのある提案をして頂きました。今後、歯科治療や乳腺の組織診等で局所麻酔が必要な際、外来でアレルギーやアナフィラキシーが起こると心配なので、全身麻酔下で局所麻酔薬をテストしてみませんか?と。「是非、お願いします!」ということになり、手術中に局所麻酔薬1%E キシロカインもテストして頂き、反応が出ないことを確認できました。
6. 結果
病理で良性の葉状腫瘍で確定、断端陰性。結果的には、マージンをそんなに取らずとも大丈夫な形で手術して頂き、左胸も無事温存。手術の跡も鉛筆の線より細く目立たないように綺麗に手術して頂き、女性として嬉しかったです。
7. 振り返っての感想
a. アレルギー診断の大切さ
今振り返ると、腫瘍が大きくなったこと、ゾレアに反応が出たことは、不幸中の幸いだったと思います。
この2つの偶然に加えて、喘息とアレルギーの診断をつけて下さる医師に出会わなかったら、いまだ特発性血管性浮腫として、原因不明の症状に悩まされ、高額のゾレアを毎月打ち続けていたと思います。左胸の手術も延期され、最悪の場合、大きく切除することになっていたかもしれません。
アレルギーの診断が遅れると、症状に苦しみ続けるだけでなく、他の病気の治療ができなくなってしまう場合がある、アレルギーを侮るなかれですね。乳腺外科の先生だけでなく、転院先のアレルギーの先生も、私の左胸の救世主です。
原因不明の慢性蕁麻疹、胃腸障害、呼吸苦等で苦しんでいる患者さんの中に、私のようにアレルギーが関与している方もいるかもしれません。
特に、アニサキスについては、未受診・未診断・誤診等の可能性も十分あると思います。困っている患者さんが、苦しまずに早く診断・治療に結び付いてほしいと切に願います。
b. 入院食についてのつぶやき
長期入院だったり、具合が悪く弁当持参が無理、家族の助けがない場合は、入院中の食事はどうなるのだろう?
小児の場合は、給食でいろいろ対応経験が蓄積されていると思われるが、成人の食物アレルギーの場合、入院食・介護食でどの位対応してもらえるのだろう?
入院施設のある病院で働かれている医療関係の方々へ、お願いがあります。アレルギー患者さんが、いざ入院した時に困らないよう、入院食のアレルギー対応の検討、宜しくお願いします!
美味しくなくても、映えなくても、毎日同じメニューでも、入院中に安全に栄養が取れれば十分です。
c. 先生方のアレルギー対応に感動
麻酔科の先生のお父様が局所麻酔薬にアレルギーをお持ちだとのことで、家族のように患者を心配し、手術で使用する薬でアレルギーやアナフィラキシーが起きないよう万全の準備をして下さって有難かったです。
今回の手術のことだけでなく、今後のことまで考えて、局所麻酔をテストして下さったり、感動して涙が出そうでした。アレルギーに理解のある麻酔科と乳腺外科の先生にタッグを組んで頂き安心して手術が受けられました。
アレルギーで最初にかかった大学病院での対応で医療不信になっていた私ですが、もう一度病院や医師を信じてみようと思えた瞬間でした。医師との信頼関係がある中で、病気の治療ができるのは、100倍位よい気持ちでした。