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「教育現場への警察の介入-ゼロトレランス方式の教育現場への影響:校則違反の子ども達に厳罰は必要か?」

ゼロトレランス方式とは、学校内での問題行動に対して、警察の介入なども辞さない措置で、例外なく厳格な処分を適用する教育方針を指します。この方式では、軽微な違反行為であっても厳しい罰則が科されます。例えば、遅刻や校則違反などの小さな問題行動に対しても、一貫した厳しい対応が取られることが一般的です。このアプローチの目的は、生徒に学校の規律を徹底的に守らせることで、校内の秩序を維持し、他の生徒への悪影響を防ぐことにあります。

アメリカでは1990年代に、この方式が学校安全の強化策として導入されました。銃乱射事件など深刻な問題が頻発する中で、教育現場の治安維持を優先し、犯罪を予防することを主な目的としていました。日本でもこの方式を参考にした指導が一部で行われている一方で、その教育的効果や弊害については議論が続いています。

日本における導入事例

日本でも、ゼロトレランス方式を参考にした指導方針を採用する自治体や学校があります。例えば、大阪市教育委員会は、問題行動を起こした生徒に対して厳格な罰則を定める「ゼロ・トレランス方式」の導入を検討していました。 また、埼玉県の早稲田中学校では、「ゼロトレランス的な生徒指導」として、社会で許されないことは学校でも許されないという毅然とした指導を行い、規範意識の醸成を目指しています。 

文部科学省の見解と目的

文部科学省は、児童生徒の問題行動や非行等に対して、あらかじめ定められている指導基準に基づき、「してはいけない事はしてはいけない」と、毅然とした粘り強い指導を行うことを推奨しています。また、各学校の実態に応じ、米国で実践されている「ゼロ・トレランス方式」に取り入れられている「段階的指導」等の方法を参考とするなどして、体系的で一貫した指導方法の確立に努めることを求めています。 文部科学省の狙いは、ルールと罰則をあらかじめ明確にし、児童生徒に理解させることで、問題行動の未然防止と規範意識の向上を図ることにあります。 

ゼロトレランス方式の利点と懸念

ゼロトレランス方式の利点としては、ルールが明確であるため、教師が問題行動を見逃すことがなく、全ての生徒に公平な基準を適用できる点が挙げられます。また、早期に問題行動を抑制することで、深刻なトラブルに発展するのを防ぐ効果も期待されています。

一方で、以下のような懸念も指摘されています。

1. 子どもの成長への悪影響
ゼロトレランス方式では、厳しい処罰を受けることを恐れるあまり、生徒が失敗を恐れ、挑戦する意欲を失う可能性があります。教育は、子どもが失敗から学び、成長する場であるべきですが、この方式ではそのような機会が奪われる恐れがあります。

2. 教師と生徒の信頼関係の損失
生徒が問題を抱えていても、規則を破った場合に厳しい罰が下ることを恐れて教師に相談しづらくなる状況が生まれる可能性があります。これにより、教師と生徒の間の信頼関係が希薄になり、教育本来の役割である「人格形成」や「自己表現の支援」が阻害される危険性があります。

3. 国家体制維持の手段としての利用
ゼロトレランス方式の背景には、問題行動を排除し、学校の成績や秩序を向上させることで「従順な人間」を育てる意図があるのではないかという懸念があります。創造性や批判的思考を持つ人材を減らし、社会の現体制や治安維持を目的とした教育の一環である可能性が指摘されています。

教育に必要な視点

ゼロトレランス方式が教育現場にもたらす影響を考えると、厳罰主義に基づく指導が教育の本質と相容れないことが明らかです。教育現場に必要なのは、規則の徹底ではなく、個々の生徒の状況や背景を理解し、彼らが失敗から学べる場を提供することです。教師と生徒が互いに信頼し合い、共に成長していける環境こそが、本来の教育のあるべき姿です。

ゼロトレランス方式は、教育現場に秩序をもたらすことを目指していますが、その過程で教育の本質である「人間の成長を支援すること」を損なう可能性があります。そのため、この方式の導入にあたっては、慎重な議論と調整が必要であり、一貫した厳しさではなく、柔軟な対応が求められます。

以下は文部科学省のホームページ

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