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現代は祈りの時代か呪いの時代か――子どもをとりまく環境と教育への影響を考える
現代を見渡すと、「祈り」と「呪い」という相反する行為が同時に存在し、人々の生活だけでなく、子どもたちを取り巻く環境や教育にも大きな影響を与えている。「祈り」は希望や平和を願う行動であり、他者を思いやる心から生まれる一方で、「呪い」は憎悪や不満から起こる行動であり、分断や対立を助長する。本稿では、現代における「祈り」と「呪い」が教育や子どもの成長にどのような影響を与えるかを考察し、社会全体の未来を見据える。
祈りの時代:共感と連帯を育む教育
現代の「祈り」は、宗教的な枠を超え、困難に直面する人々を支える行動として現れている。その一例として、2023年5月の能登半島地震では、多くの支援が全国から寄せられ、子どもたちも家族とともに募金活動に参加した。このような経験を通じて、子どもたちは「助け合いの精神」や「共感する力」を学ぶ機会を得る。さらに、学校でもボランティア活動や募金活動が行われ、連帯の輪を広げる取り組みが行われている。
また、トルコ・シリア地震への支援の広がりに見られるように、SNSによる「#PrayForSyria」などの言葉を通じて、子どもたちも世界に目を向け、他者を思いやる心を育んでいる。教育現場ではこうした現実を授業に取り入れ、「他者への共感」や「多文化理解」を促すことが重要だ。
2023年にノーベル平和賞を受賞したナルゲス・モハンマディの活動も、社会に抑圧された女性の開放を訴えて、世界の人々に大きな影響を与えた。彼女が「平等な未来」という祈りを現実にするために行動し続けたことは、子どもたちに「自分の信じる未来を目指して行動する大切さ」を教える題材となる。学校教育においては、こうした事例を用いて「平和への取り組み」や「人権意識」を育むことが求められる。
呪いの時代:分断を生む言葉の危険と教育の課題
一方で、現代は「呪い」が蔓延する時代でもある。特に、インターネット上の誹謗中傷は、子どもたちにも深刻な影響を及ぼしている。2020年に発生した木村花さんの事件は、SNS上の言葉が人の命を奪う力を持つことを社会に突きつけた。この事件以降、学校ではSNSの使い方や言葉の影響についての教育が進められているが、依然として課題は残る。
さらに、「いじめ」という形の呪いも、学校現場では重大な問題である。SNSを通じたいじめは従来のものよりも影響範囲が広く、被害者の心を深く傷つける。「言葉は人を傷つける刃となる」という意識を子どもたちに持たせるために、学校や家庭で対話の機会を増やす必要がある。
また、SNSを中心に広がる「キャンセル・カルチャー」も、子どもたちの世界に影響を与えている。SNSでの批判や排除を見た子どもたちが「間違いを恐れて発言できなくなる」ような風潮が生まれている。この現象は、健全な自己表現を阻害し、対話を通じた成長の機会を奪う危険をはらんでいる。教育現場では、対立ではなく「対話による問題解決」を重視する姿勢を育てることが大切だ。
戦争と情報による呪いと教育への影響
現代の呪いは、戦争や情報による分断という形でも子どもたちに影響を与えている。2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻は、ニュースやSNSを通じて子どもたちにも伝わっている。このような状況を受け、教育現場では「偏った情報に踊らされない力」、すなわちメディアリテラシーを育むことが急務となっている。
SNSで飛び交う憎悪の言葉に対して、「なぜ対立が起こるのか」「どうすれば対話によって和解できるのか」を考える授業を行うことは、子どもたちの思考力を高め、分断を乗り越える力を育てるきっかけになるだろう。
祈りの時代を築くための教育
現代は祈りと呪いが共存する時代であるが、子どもたちの未来を考えると、「祈り」の力を強める教育が不可欠である。他者を思いやり、共感し、連帯する力を育む教育は、呪いの連鎖を断ち切る第一歩となるだろう。
家庭や学校では、日常的に「他者の立場に立って考える力」を育てることが必要だ。また、SNSやメディアを通じて得た情報に対し、「その情報の背景に何があるのか」を考える批判的思考を促すことも、呪いに対抗するためには欠かせない。
未来を祈りによって導くためには、一人ひとりが呪いに加担しないこと、他者を思いやる行動を選び取ること、そしてその姿勢を子どもたちに伝える教育が重要である。現代は祈りの時代か呪いの時代か――その答えを握るのは、子どもたちを育てる私たち自身や社会の在り方にかかっていると言っても過言ではないだろう。