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#45「強み」とは - ポジティブ心理学 -

ここでは、「ポジティブ心理学」の中核的な研究テーマである「強み」とは何かについて一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では「どのように落ち込んでいる状態から立ち直るのか?」をテーマとして、楽観性やセルフ・コンパッションという概念を一緒に学んできました。

人を「庭」で例えると、ある意味、「雑草(マイナス面)」のならし方についてみてきました。今回から、ポジティブ心理学の醍醐味である人間の「花(プラス面)」の部分、「強み」について、一緒に学んでいきたいと思います。一言で「強み」と言っても、その背景にある理論によって、さまざまな定義があるんですが、今回はポジティブ心理学で最も研究されている「キャラクターストレングス(Character Strengths)」にフォーカスしたいと思います。(日本語訳では「徳性の強み」「性格の強み」「人格的な強み」「品性の強み」「VIA強み」「VIAストレングス」など、訳者によって異なる名前が付けられています。個人的には「徳性の強み」が、最もキャラクターストレングスの本質を表していて、しっくりくるので、以下、「徳性の強み」と記載します)


人は「弱み」や「短所」に目がいく生き物

さて、まずはいきなり「キャラクターストレングス(徳性の強み)」とは何か?という話を始める前に、皆さんご自身のことについて、少し考えて頂きたいのですが、自分自身の長所や強み、いくつくらい挙げることができるでしょうか?少し時間をとりたいと思いますので、実際に数えてみてください。

(数分経過)

よろしいですか?いくつくらい挙げられましたか?

では、次に自分自身の短所や弱みはいくつくらい出てくるでしょうか?こちらも時間をとって、自分の過去を振り返って、数えてみてください。

(数分経過)

いかがでしたでしょうか?おそらく、多くの方にとって、自分自身の「強み」と「弱み」について考えてみると、「強み」よりも「弱み」の方が数多く、そして簡単に見つけることができたんじゃないでしょうか?

このことは何もおかしいことではなく、僕たちの脳は、危険から身を守るために、まずはネガティブなものに目が行くようにできています。(これを「ネガティビティバイアス」と呼びます)そのため、自分自身のネガティブな部分にばかり目がいってしまうのは何もおかしいことではないんです。

人はいち早く、悪いものに気づくことで生き延びてきた。そのため、ネガティブな部分ばかりが気になる

また、精神医学や心理学の世界でも「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」のように、人間のマイナス面については昔から色んな分類や共通言語が存在していました。一方、人間のプラス面についての分類は、ポジティブ心理学が設立された1998年まで、実は存在しなかったんです。(というのも、その昔、性格心理学の大御所が「”強み” は良い・悪いの価値が伴うため、”性格”の分類には入れませーん」と宣言したため、性格心理学で「強み」を扱うことはNGだったんです)名前がないと、人間ってなかなか認識できないものですよね。

人類共通の「善い部分」とは何か?

そのため、ポジティブ心理学が設立された1998年頃、当時の心理学者たちはこんなことを思いました。

「いや~、人間のプラス面を研究しようとしても、”うつ病” や ”不安障害” のような共通言語や基準となるものがないから研究しようにもできないっすよね、知見も蓄積されていきませんし・・・。だったら、まずは基準となるもの、人類共通の普遍的な強み、善い部分を特定して、精神疾患の分類みたいに共通言語を作ることから始めましょうか」

このような背景から、2000年、故クリストファー・ピーターソン氏(ミシガン大学心理学部教授)が中心となり、ポジティブ心理学の研究者たちが集まり、3年間かけて、古今東西のさまざまな哲学書や宗教の経典、倫理学、思想家などの文献を調べていきました。そして、「その強みは普遍的なものか?」「道徳的なものか?」など、12の選択基準をもとに、時代や文化を超えた人類共通の「善い部分 」とは何かを探っていったのです。

プラトンは「勇気」が大事だと言っているなあ。イエス・キリストは「愛」が大事だと言っているぞ。東の国ではどうだろう?ほー、孔子も「慈愛」が大事だと言っているなあ、ふむふむ。最近のだとどうだろうか?ボーイスカウトやガールスカウトの行動規範とかでは何が大事だと言っているのかな?ふむふむ・・・。

そんなこんなで、3年間かけてさまざまな文献を研究していった結果、時代や文化を超えた、人類共通の「強み」として、24種の「徳性の強み」が特定されたのです。徳性の強み、人間として価値が置かれる最善の部分が24種あったということなんですが、こちらがその24種の「徳性の強み」になります。

24種の徳性の強み (Character Strengths)

創造性|好奇心|向学心|知的柔軟性 [様々な角度から考える力]|大局観 [全体を俯瞰して見る力]|勇敢さ|粘り強さ|誠実さ|熱意|親切心|愛情|社会的知性 [相手の気持ちが分かる力]|リーダーシップ|チームワーク|公平さ|思慮深さ|謙虚さ|寛容さ|自制心|審美眼 [美しいものに感動する力]|ユーモア|希望|感謝|スピリチュアリティ [信念、目的意識]

Peterson & Seligman, 2004

今後の研究次第で改正されていくかもしれませんが、これら、24種の「徳性の強み」は、人間であれば誰しもが大なり小なり、全てもっていると言われています。また、これら24種の「徳性の強み」の中でも、特に「自分らしい」と思うものが約5~6つあり、それらを「特徴的な強み (Signature Strengths)」と呼んでいます。

例えば、いつも人を笑わかせることが好き。もしくは、言わなくても、いつも頭の中で面白いことを考えているという人は「ユーモア」を自分らしい「特徴的な強み」と捉えるかもしれません。

「未来は明るい!」と信じて、いつも自然とその明るい未来に向かって頑張っている人は「希望」を自分らしい「特徴的な強み」だと感じるかもしれません。

この「特徴的な強み」は自分のアイデンティティを表し、自然と出てきて、使っているとき、活力が湧いてくるものであると言われています。

一つ一つの「強み」の意味合いも人それぞれ異なりますし、その5~6つの組み合わせも人によって異なります。そのユニークな意味合いと組み合わせこそが、まさに「自分らしさ」を形作っているわけなんです。

さて、皆さんの「特徴的な強み」はどれでしょうか?

まずは自分の「特徴的な強み (Signature Strengths)」を見つける

改めて、以下の徳性の強みのリストを見ながら、「これって自分らしい?」「この強みは自然と出てくる?」「この強みを使っているとき、エネルギーは高まる?」という3点を念頭に、5~6つ、選んでみてください。

創造性|好奇心|向学心|知的柔軟性 [様々な角度から考える力]|大局観 [全体を俯瞰して見る力]|勇敢さ|粘り強さ|誠実さ|熱意|親切心|愛情|社会的知性 [相手の気持ちが分かる力]|リーダーシップ|チームワーク|公平さ|思慮深さ|謙虚さ|寛容さ|自制心|審美眼 [美しいものに感動する力]|ユーモア|希望|感謝|スピリチュアリティ [信念、目的意識]

Peterson & Seligman, 2004

いかがでしょうか?自分のアイデンティティを表している「強み」はありましたか?もし見つけることが難しかった方は、米国VIA Institute on Characterのウェブサイトから無料でアセスメントを受けることもできますので、ぜひ、受検されてみてください。以下のウェブサイトの右上箇所の「TAKE THE FREE SURVEY」から受検可能です。途中まで英語の画面が続きますが、テスト自体は日本語で受検することができます。

そして、実際に全ての質問に回答すると、ご自身の中の1番目から24番目までの「強み」の順位が、こんな感じでズラッと出てきます。

アセスメントを受けると、自分の中にある24種の「徳性の強み」がズラッと順位になる

その上の方にあるものから、順番に改めて「自分らしいか・自然と使えるか・活力が湧いてくるか」の3点を確認しながら、各強みの簡単な定義を見ていくと、自分の「特徴的な強み」が見つけやすくなるかもしれません。ぜひトライしてみてください!

まとめ

さて、ここでは、「強み」とは何かというテーマのもと、「キャラクターストレングス(徳性の強み)」について、一緒にみてきました。まとめると「キャラクターストレングス」とはこんな感じです。


  • 哲学や宗教、倫理学や思想などの古今東西、さまざまな文献研究を行って抽出された人間の最善の部分

  • 時代や文化を超えて、人間であれば誰しもが大なり小なりもつ24種の人格の一部

  • 24種の中に約5~6つほど「自分らしい」と思う「特徴的な強み」があり、その組み合わせがその人のユニークさを表す

  • そのアイデンティティを表す強みを最適に表現できているとき、人はこころに活力が湧いてくる


今後、特定した自分らしい「特徴的な強み」をどう活かせばいいのかについて、別記事で書いていこうと思いますが、まずは、ご自身のアイデンティティを表す「特徴的な強み」を特定することからぜひ始めてみてください!次回の記事では、上述のアセスメントも含めた「強みの診断アセスメント」を用いる際の注意点やコツについて、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Niemiec, R. M., & Pearce, R. (2021). The Practice of Character Strengths: Unifying Definitions, Principles, and Exploration of What's Soaring, Emerging, and Ripe With Potential in Science and in Practice. Frontiers in psychology, 11, 590220.

Peterson, C., & Seligman, M. E. P. (2004). Character strengths and virtues: A handbook and classification. Oxford University Press; American Psychological Association.

Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive Psychology Progress: Empirical Validation of Interventions. American Psychologist, 60(5), 410–421.

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