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職場の腰ストレス度の測定をやっています。

転倒による怪我と腰痛は労災の中でも頻度が高いと言われています。特に、加齢によって体力が低下しつつある50歳代以上に多く見られる労災です。

腰痛を予防するための取り組みは、多くの作業現場ですでに実施されていると思います。現場作業でまず取り組むべきは下記の2点かと思います。

  1. 作業姿勢の改善
    腰へのストレスは中腰状態でもっとも大きくなります。中腰にならないように作業台の高さを調整することは最も有効な手段になります。また、作業台の高さを変えても身長の高い人は中腰姿勢で仕事をすることになってしまいます。移動が少ないなら、少し高めの作業台を設定し、踏み台で腰に負担のかからない高さに調整することも必要でしょう。
    また、中腰姿勢に加えて、腰の捻りも大きなストレスになります。作業動線等を改善することも有効な手段です。

  2. 取り扱うモノの重量や形状の変更
    取り扱いできる重量は、労働基準法や厚生労働省などの指針などで規定されています。それによると、18歳以上の男性が人力のみ(機械を使わない)で扱うことができる重量は55kg以下とされています。手作業で55kg以上の重量を扱う場合は、2人以上でするように求められています。また、常時、人力のみで取り扱う場合の重量は体重の概ね40%以下になるように定めること。とされています。
    女性の場合は、継続作業で20kg、断続作業では30kg以下の取り扱い重量物の制限があります。
    しかし、これらの重量を守っていても作業者の体力、体幹の強さ、作業姿勢との組み合わせなどによって腰痛リスクは大きく変わります。
    作業の状況によって、取り扱うもの重量や、扱いやすいような取っ手をつけるなど形状の変更は有効です。
    無理のない重量を作業所別、あるいは労働者別に設定する必要があるでしょう。

ところで、人間の腰はどれぐらいの力に耐えられるのでしょうか?
椎間板圧縮力の許容値では、3,400N(ニュートン)が目安とされています。1Nはおよそ10kg重ですから、約340kg重が限界と言われています。また、この許容値は体格や体力によって異なり、安全に取り扱うことができる重量は異なります。

つまり、腰痛を予防するためには、作業による腰ストレス(腰部負担)を定量的に知り、作業者の体格や体力に合わせて、労務管理者が作業者の配置などをチェックするための仕組みを作ることが課題になります。

まず、作業現場の作業が腰痛原因になっているかどうかを知るためには、腰ストレスをはかる必要があります。
その前に作業の姿勢によってどれぐらい腰に負荷(椎間板圧縮力)がかかるのか、ざっと知っておきましょう。

下の図は、スウェーデンのナッケムソンが1976年に発表した「姿勢の変化による椎間板内圧の変化」の図です。立位を100とした場合、姿勢の変化で腰にかかる負担を示している図です。

これを見ると、中腰姿勢をとるだけで腰にかかる負荷は1.5倍になります。また、何か手にものを持つと2倍以上になります。さらに重たいものを持つと当然、腰の負担が大きくなります。
特徴的なのは、直立しているよりも座っている方が腰にかかる負担が大きいということです。現場の作業だけでなく、事務仕事での腰痛発症にも注意が必要です。実際に、タクシードライバーやトラックの運転手も腰痛を訴える人が結構います。

では、リスクを定量化するために、3,400N以下になっているかチェックをしましょう。

ナッケムソン(1976) 現代ビジネスより転載

当社の技術顧問である北海道大学の田中孝之教授らが開発した、装置を用いることで、姿勢の変化から椎間板圧力を求めることができます。
作業時に腰につける装置で、1時間ほど装具をつけて普段通りに作業するだけで、作業の腰ストレスを測定することができます。腰ストレスは身長170cm、体重60kgの作業者をモデルとして、その作業者の椎間板にかかる圧力をニュートン(N)で表示します。

作業中の腰ストレスが概ね、3,400N以下であれば、問題ないと判断することができます。ただし、その作業を担う人が小柄な人だったり、女性や高齢者の場合には対応が必要とされます。

3,400N以上の腰ストレスが高頻度で出現する場合は、上記の現場対応が必要になると思われます。

ところで、腰ストレスのない現場を実現するために、①作業姿勢の見直し、②取り扱うモノや形状の見直しをしましたが、作業者の体力、特に体幹力をチェックすること、体力づくりを促し、腰痛を発症しにくくするという対応方法も現実的です。

もちろん、スマートスーツを使うことで、腰痛リスクを一定程度低減することもできます。