オンライン試験システム「スマート入試」の開発にあたっての壁とアイデア
スマート入試の広報担当の株式会社サーティファイの増田スマ子です。今回もオンライン試験システム「スマート入試」の開発にあたり、直面した壁やそこで生まれたアイデアを事業責任者の瀧澤に話を聞いていきます。
はじめに〜前回のあらすじ〜
<前回のnoteのあらすじ>
約2年前にプロジェクトが始まり、運用から1年が経ったオンライン試験システム「スマート入試」。2人のチームで始まり、今では5人のチームになっています。スタートは、当社の検定試験を、地域による制約なくどこでも受験できるようにしたい…そんな想いから在宅でも受験できるシステムの開発を考えました。
新型コロナウイルスを契機に開発スピードも上がるとともに、この仕組は当社検定試験だけでなく、入試や入社試験にも活用できるのでは…と幅広いマーケットを意識した開発となりました。新規事業を行う上で、「Challenge(挑戦)」「Chance(機会)」「Change(変化)」「スピード感」、そして「熱意」が欠かせないと語った瀧澤ですが、実際に開発にあたっての壁はあったのでしょうか。
<こんな方に見てもらえると嬉しいです!>
・大学や大学院、専門学校の入試担当の方
・企業の人事担当の方
・新規事業の立ち上げをする予定のある方/立ち上げ中の方
・入試や採用試験のオンライン化に興味のある方
①「2つのカメラで監視する」仕組みが生まれた背景
スマート入試の特徴は「2つのカメラと3種類のAI(現在は4種類のAI)を使って不正を防止できること」です。
ー この構想はどこから生まれたものなのですか?
瀧澤:そもそものスタートは「自社専用の監視AIを作り、在宅でも受験できるオンライン試験システム」を開発しようと企画しました。
ただし、ゼロから自社専用の監視AIを開発し、システム構築する…これを試算したら数千万円かかること、そして1年以上もかかることが判明し、どうしたものか…と悩み、やや尻込みしてしまいました。
数千万円!?すごい金額ですね。
新しい事業を始める上で予算の部分は必ず問題に出てくるものかと思います。スマート入試も同じような問題に直面していたとは。
ー ここからどのように進めていったのですか?
瀧澤:コストも時間も抑えるためには、ゼロから開発するのではなく、既存のAIを利用しよう…と考えました。チームメンバーに活用できそうなAIを探してほしいと頼み、まずはそれを利用することにしました。
(何で悩んでいたのだ?と思うくらい、すぐに見つかりました…笑)
考え方の方向転換を行ったのですね。確かに既存のものを使うとなると、運用までのスピードは一気にアップしそうです。
ー 既存のシステムを使ってみて、どうでしたか?
瀧澤:まずは自社(サーティファイ)の検定試験で使ってみました。「パソコンのカメラ(一つのカメラ)で受験生が不正をしていないかをAIで監視しながら試験を行う」というものだったのですが、そのときにこれでは「十分な不正監視はできない」と確信しました。例えば、受験生本人が受験しているかや席を立っていないかなどはパソコンのカメラで確認できるのですが、付箋を貼ってカンニングをしていないか、手元にテキストを置いていないか、パソコンの別画面で検索していないか、パソコンの後ろに第三者はいないか…などの不正は全く分からないんです。
「これでは不正は防げない」と感じていた時に偶然、受験生のパソコンのカメラがトラブルで映らなくなってしまいました。その際、代わりにスマホのカメラを使用していただいたのですが、当社に届いた映像を確認すると、「受験生の顔」ではなく「受験生のパソコン画面と手元」を映していたのです。なんとその方はスマホを顔の前ではなく、自身の横に置いて受験していたのです!
最初は、カメラの向きが間違ってるな…と思いましたが、同時にハッ!としました。その時に「1つのカメラではなく、2つのカメラで監視すれば、不正を徹底的に防ぐことができる!」と気づきました。
ー なるほど!!!スマート入試の今の形を作ったきっかけは受験生のトラブルから生まれたものだったんですね!
瀧澤:そうなんです。チームのメンバーと「これだ!」とすぐに共有(共感)しました。パソコンの1方向のカメラだけでは確認できなかったもの、つまりパソコン画面、パソコンの向こう側の第三者や手元の動きなどは、横にもう一つのスマホカメラがあれば確認できるようになります。
受験生の誤った挙動が「2つのカメラ」という発想につながったのですね。運用を開始して、はじめて気づくことも多いですよね。新規事業を経験した方であれば、うなずくことも多いはずです。
受験生から届いた画像(イメージ)
今では、ごく普通に「スマホによる監視画像」と認識しているが、受験生が誤って設置して送られてきたこの画像を初めて見たときは「カメラの向きが間違ってるな…」とつぶやくと同時に、全身に電気が走ったような衝撃を受けた。
②2つのカメラで不正防止するシステムがスタート
ー その上で次はどんなことをやり始めたのですか?
瀧澤:受験生のおかげで新しいアイデアが生まれたのですが、次は2つのカメラをどうやって連携させるか…ということに悩みました。複数のAIと複数のシステムを繋げて「スマート入試」というサービスが成り立っているのですが、それぞれ全く別の会社が開発しています…これらを連携(API連携)させるのって結構大変なんですよ。
ー そこで特に苦労した部分はどんなことなんですか?
瀧澤:パソコンとスマホを連携させるのには本当に苦労しました。「試験日」「試験時間」「受験者」「パソコン」「同じ空間にある連携されたスマホ」これら全てを特定する必要があります。実は、この仕組み(連携)を考えるのに一番時間がかかりました。
この連携というのは「不正できない仕組み」ということではなく「受験者が環境面で物理的に不正していないことを証明するための仕組み」となります。また、万が一、どちらかに不具合や不備が発生した場合は、それをもう一方の画面に通知するなどの連携も必要です。
スマート入試の複数会社のAIを繋ぐシステムの開発は、事業責任者の瀧澤自身が行なっています。以前、関連会社で新規システムの仕組み作りや改善提案を行なっていた経験が直に生かされているそうです。
開発会社に説明するために作成したシステム連携概要
イメージを伝えるのは簡単だが、新規ビジネスはイメージだけでは絶対に進まない。
一社で完結させるより、それぞれの強みを持った会社を集めて、1つのものを作り出すのは今の時代にとても合っているやり方であると感じています。たしかに、私たちも普段、インスタグラムとFacebookを連携したり、メールとカレンダーを連携したりということを行っていますが、パソコンの知識や理解がないと難しく感じる方も多いような気がします。これがシステムとなると、より複雑になるのはなんとなく想像がつきます、、、
③今後の展望と新しいシステムを作り出す上で大切にしている視点
ー ゼロから新しいシステムを作り上げる上で大切にしていたことを教えてください。
瀧澤:まずは既存のものを活用して、使いやすくしていくことを意識しました。そして、とにかくPDCAを早く回転させる…新規事業を始める上で、この視点が大切だと感じています。最初からベストなカタチなんてわかるわけないですからね…理想はあってもそれが100点満点の正解とは限らない…そう思うと最初から大きな予算かけることもできません。既存のものをブラッシュアップしていき、どうしても足りない部分がある場合には、次の段階として「作る(創る)」ということを考え始めます。
最初からオリジナルを作るのではなく、まず既存のものを使うというのは、意外と盲点かもしれません。また、話を聞いていて、スマート入試に対して、本当に自信と愛情を持って作っていることを感じました。
ー 最後になりますが、スマート入試を今後どうしていきたいですか?
瀧澤:正直言ってスマート入試は「全然、まだまだ…」なんです。しかし「全然、ダメダメ…」ではありません。「全然、ダメダメ…」な使えないものを世の中に出すわけにはいかないのですが、「全然、まだまだ…」には今後の可能性があります。
実際に、スマート入試も第一回の運用では、試験開始時に問い合わせが殺到したりアンケートで約4割の受験者が使いにくいと評価したりしました。
当時を思い出すと、ゼロから形にして「これだったらイケるかも…」と愛着と構想を持って世に出したものがこの結果…というのはとてもショックでした。
しかし、そこで「主催者側(監督・監視する側)」にしか意識を向けていなかったということに気づきました。「不正を防ぐにはどうしたらいいか?」という点に目を向けすぎていて「受験者」目線が欠落していたのです。
実際にシステムの改修などを行い、8ヶ月後のアンケートでは使いにくいと評価している受験生は約2割以下にまで減っています。
ー 具体的な今後のイメージはどのようなものですか?
瀧澤:今は試験前の操作体験を必ずお願いしていますが、それをしなくても、本番でいきなり使えるものができるといいなと思っています(UI、UXの改善)。
また、日本語が分からない海外の方もパッと見てわかるものということで、ピクトグラムで説明書を作成することもいいなと考えています。
あわせて、最近のお問い合わせで「選択式ではなく『紙』を使って在宅試験を実施したいが、不正もしっかり防ぎたい」という要望が増えています。つまり、思考の途中経過も採点対象としたい…ということです。この要望に関しても2つのカメラがあることで可能であり、もうすぐリリース予定です。
オンライン試験なのに『紙』対応?!お客様の要望にしっかり応えるのはまさに『神』対応!ですね。
今後の展開が楽しみです。本日はありがとうございました!
さいごに
今回はオンライン試験システム「スマート入試」の開発にあたっての壁やひらめきについて伺いました。
よく言われる話ですが、些細なことがきっかけでシステムが生まれるというのは、今回の話を聞くと真実なのかなと思えるようになりました。
また、既存のモノを組み合わせてシステムを開発するということは、大きな投資はできない…と困っている新規事業のご担当者様にも、1つの解決策になったのではないでしょうか。少しでも参考になって頂けたら幸いです。
次回は最後にあった「スマート入試の紙(神)対応」について、マーケティングを担当しているスマート入試チームの蛭子さんに話を聞いていきたいと思います。お楽しみに!質問などあれば、コメントもお待ちしています!