組織初の生成AI企画!マリンワールド×スマートシティ本部のチャレンジの裏側
こんにちは。スマートシティ本部の志田です。
わたしたちのスマートシティ本部では、福岡の行政・民間企業のみなさまと一緒に、「暮らしが便利になる企画」「暮らしが楽しくなる企画」を創出しています。
今回は、わたしたちが企画を発表するまでの裏側の話を、マリンワールド海の中道様と一緒にスタートした「マリン妄想ワールド 動物婚活相談所」の事例で紹介します。
1.前提・背景
LINEヤフーでは積極的な生成AI活用を推進しています。わたしたちスマートシティ本部でも同様に、市民が生成AIに抵抗なく触れる機会を創出したいと考えていました。そこで、福岡の人気施設であるマリンワールド海の中道さんに共同プロジェクトのご相談をしました。
マリンワールド海の中道は福岡市にある水族館で、今年の4月で開業35周年を迎えます。周年の目玉として、海の哺乳類が暮らすエリア「かいじゅうアイランド」がリニューアルし、ケープペンギンやゴマフアザラシの生態をこれまでより近くで観察することができるようになりました。
マリンワールド海の中道といえば、ラッコのリロくんやコビレゴンドウのユキちゃんが人気の動物ランキング上位ですが、かいじゅうアイランドにも個性あふれる動物たちがいることを、多くの方に知ってもらいたいという担当者の思いを聞きました。
生成AIを活用した企画を作りたいわたしたちと、リニューアルしたかいじゅうアイランドへ多くの方に足を運んでほしいマリンワールド海の中道。それぞれの思いを一緒に達成するために、この「マリン妄想ワールド 動物婚活相談所」の企画がスタートしました。
2.「マリン妄想ワールド 動物婚活相談所」とはなにか
このサービスは、かいじゅうアイランドに住む42頭の動物の中から、自分と相性がいい海獣(おあいて)を、生成AI扮する「アニマル婚活アドバイザーAI」がピックアップし、紹介してくれるものです。「自分にあてはまる特徴(3つ)」「相手に求めるもの(4つ)」を選ぶだけで、紹介を受けられます。ご紹介カードには、おあいてとして選ばれた動物の身長・体重・特技や各種スペックが書かれています。
裏側の仕組みはこう
まずかいじゅうアイランドに暮らす42の動物のなまえ・性別・種類・身長(体長)・体重・特技・特徴などを生成AIに事前に学習させます。ユーザーが選んだ「自分にあてはまる特徴(3つ)」「相手に求めるもの(4つ)」と先に学習させた動物の情報をかけあわせて、相性のいい動物を生成AIが選び、ご紹介文を生成します。
3.この企画が実現できた理由
今思えば、一番最初に「生成AI」を活用した企画をご提案したときは、生成AIというこれまであまり馴染みのなかった技術、かつしっかり固まっていない企画内容で、ご担当者の頭の中は「よくわからん!」だったろうと推察しています。その状態からリリースまでたどり着けたポイントを3つ紹介します。
①現地に何度も足を運び、対面でお打ち合わせをしたこと
わたしたちのオフィスからマリンワールド海の中道までは、電車を乗り継いで片道約1時間。決して近いとは言えない距離ですが、現地に行ってお打ち合わせを繰り返しました。
対面でお打ち合わせをすることで、相手の表情を読み取りやすくなり、理解度に応じたフォローが可能になったり、オンラインミーティングのテクニックを気にせず、気軽にディスカッションすることができました。何回目かのご提案のときに、かいじゅうアイランドにフォーカスを当てたいという担当者のアイデアを引き出すことができ企画の軸が決まりました。
(もちろん、アジェンダによっては、30分オンラインでお話することもあります)
②視察から得た学び
時を遡って、この企画の構想すらなかった去年の夏頃、同じチームの新卒社員を連れてマリンワールドを視察させてもらったことがあります。その時に気づいたのは、お客さんの動き。水族館の展示を見ているときに、スマホで写真を撮ることはあっても、(普段街中でよく見るような)スマホに釘付けという方はほとんどいませんでした。この気付きのおかげで、観覧中に遊べる企画という路線を捨てて、来館前や館内レストランでの食事前後で遊べる企画にしようと決まりました。
③ポジティブでチャレンジングな担当者の存在
マリンワールドのご担当者の協力ももちろん欠かせません。実はこれまでもレストランの順番待ちや、LINEを使ったお客様アンケート、LINE公式アカウントの友だち一人ひとりに合ったメッセージ配信など、LINEをつかったさまざまな取り組みを共同で行っています。
今回の企画でも、最後は「一生懸命頑張ってみて、もしだめだったらまた考えましょう」というご担当者の一声で最終決定しました。
また今回の企画には、生成AIに学習させるために、かいじゅうアイランドに暮らす42の動物の情報や画像を集めて頂く必要がありました。これらのデータは最初からまとまったものがあったわけではなく、直近の健康診断の結果や、グッズ担当者が持っている動物の写真、飼育員さんの頭の中にある各個体の特徴などをすべて集めて、ご提供頂いています。
4.多くのユーザーに「相談」してもらうには何が必要か
さて、企画の中身についてですが、わたしたちは「リニューアルしたかいじゅうアイランドやそこに暮らす海獣のことを、この企画を通して知ってもらうこと」をこの取り組みの目的に設定しました。この目的を達成するために、一般のユーザーのみなさんが、たくさん「相談」し、誰かにおすすめしたくなるような仕掛けを考えました。今回は2点紹介します。
①手軽に遊べる
実はこのプロジェクト、最初は「かいじゅうアイランド お悩み相談室」というコンセプトでも考えていました。ユーザーが自分の悩みを入力すると、生成AI扮する動物相談員が、ユーモアを交えてアドバイスをくれるという仕組みです。
しかしこれでは「自分の“悩み”を言葉にして、入力する」というプロセスがユーザーの離脱を生んでしまい、本来の目的を達成できなくなるため、「選択肢から選んでもらう」ことにしました。
全2問、最大12個の選択肢の中から適当なものを選ぶだけで、”ご紹介”を受けることができます。
また、手軽に遊んでもらう目的のもと、この類のサービスによくあるニックネームの手入力も完全になくしました。
②投稿しやすい&したくなる工夫
今回の企画では、X上の誰かの投稿(シェア)が、次の誰かの相談を生むことを狙い、X上の投稿のしやすさや見え方にもかなりこだわりました。
例えばシェア文言ではこんな感じ。
それぞれ、チームメンバーの過去の経験から、今回のベストはコレという文言を設定しています。
5.現地接点も欠かせない
Xなどオンラインでの拡散も、もちろんですが、マリンワールドに足を運んでくださったお客様にも楽しんでほしいということで、館内に告知物を掲示しています。
このような検討を積み重ねて出来上がったサービスは、ありがたいことに、サービス公開初日で約3,000件の「ご相談」が寄せられており、X上での投稿は現時点で250件を超えています。
6.生成AIが良いはたらきをするためのTIPs
今回の企画では、生成AI扮するアニマル動物アドバイザーAIが作文した文章をご紹介カード上に表示します。一般のユーザーの目に触れる部分なので、ここのクオリティにも気を配りました。この記事では2つ紹介します。
①すべてのもとになる動物情報
この企画では動物の性格や特徴を踏まえて、マッチングやアドバイスの生成が行われます。企画の要となるのは、動物の情報。かいじゅうアイランドに暮らす動物たちの種類・名前・性別・年齢・身長や体重は、動物を飼育・展示するうえで必要なため、マリンワールドにデータがありましたが、すべての個体の性格や特徴は体系化されたものがありませんでした。そこで前述の通り、飼育員さんやグッズ担当の方に動物の性格・特徴のデータを集めていただき、生成AIに学習させました。
②生成する文章の均質化
一番最初のデモの段階では、以下のようなプロンプトで生成AIを動かしていました。
このプロンプトで実行してみると、「動物の特徴の紹介が薄い」「アニマル婚活アドバイザーAIの口調に揺らぎがある」という課題にぶつかりました。そこで、生成AIに詳しい別部署の同僚に相談し、次のようなプロンプトに書き換えました。
注目していただきたいのは、「###[お相手を紹介する理由]に含む内容」の部分です。このプロンプトがあるおかげで、読み応えのあるご紹介文になっているはずです。
7.最後に
ひとつの企画ができるまでの話として、動物婚活相談所の企画で何を考えながら進行してきたかの一部をご紹介させていただきました。
このように、LINEアプリ上で動くシステムをどう動かすかの検討はもちろんのこと、ターゲットとなる人が、どのように考え、どのように行動するかという部分まで、チーム全員で検討を重ねています。
わたしたちのこの営みが、「暮らしが便利になる」「暮らしが楽しくなる」ことに寄与していれば幸いです。