日曜日の本棚#41『堤未果のショック・ドクトリン』堤未果(幻冬舎新書)【読者の人生に「知る絶望」と「知らない幸福」の選択を迫る本】
日曜日は、読書感想をUPしています。
前回はこちら。
今回は、堤未果さんの『堤未果のショック・ドクトリン』です。本書は、ショック・ドクトリンというキーワードを軸に、今世界で日本で何が起きているのかを告発する本です。
ショック・ドクトリンは、暗号資産などと並んで資本主義の新しい形ととらえることができそうですが、その影響は甚大です。なにせ政治と結びついたものであるので、私たちの税金との結びついているからです。
公金が政治と結びついたために、彼らの「お友だち企業」に流れることは、本来税の社会的機能である所得の再分配の機能が破壊され、格差が税によって拡大するからです。
本書を読むことでその実態の一端を知ることができますが、それは「地獄を知る」ことでもあります。知らない方がいいのかと思わなくもありません。少なくとも「お金持ちになれば幸せになる」ことを信じている人にはお勧めしにくい本でもあります。
作品紹介(幻冬舎新書作品紹介より)
パンデミック、戦争、銀行破綻…。惨事をしかけるその裏で、儲ける悪魔の手法「ショック・ドクトリン」。強欲資本主義の巧妙な正体を見抜き、生命・財産を守る方法とは? 滅びゆく日本の実態を看破する覚悟の書。
所感
◆9・11でアメリカが、3・11で日本が変わった。・・・一定の風向きの方に。それがショック・ドクトリン。
本書は、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』で人生が変わったという筆者が、ショック・ドクトリンが、日本でも起こっていることを紹介しています。幻冬舎から出ているという点には驚きますが、気骨のある編集者が幻冬舎にもおられるということなのでしょう。
ショック・ドクトリンについては、本書の解説では、
としています。
3・11で日本は変わる。
当時そう思う人は多かった。私も例外ではありません。あの故・石原慎太郎氏でも3・11は日本人が受けた(天)罰と自省の必要性を表明したほど。
しかし、日本は変わったのか。恐らく変わっていません。それどころか、悪くなっている。そう実感している人は多いでしょう。
その理由として有力な説として言えるのが、ショック・ドクトリンによって入り込んだ、火事場泥棒的な資本主義の論理。この「悪魔的手法」の恐ろしさを本書では「これでもか」と例示されます。
それは、筆者がしつこいのではなく、あまりに事例が多すぎるからこうなってしまうのでしょう。
本書を読むと、3・11で日本は変わるというのがいかにピュアで無垢な思考であるかを思い知らされます。
そして、「悪い奴ら」は、3・11をどう見ていたのかがよく理解できます。筆者の思い入れが強すぎて、筆の走りが過剰な点もありますが、過剰になるほどショック・ドクトリンは恐ろしいものだと思うこともあり、「いい塩梅」ではと個人的には思います。
◆ショック・ドクトリンの思考は極めて合理的。だからこそ、「知る絶望」を選びたいと思う理由
資本主義陣営の国家は、このショック・ドクトリンによって、新しいフェーズに入ったともいえるのかもしれません。
9・11でアメリカが、3・11で日本は、一定の風向きの方へ変わってしまった。危機に乗じることも、不正確な情報で危機を煽ることも鈍感になってしまった。
日本の国民皆保険制度が狙われているという筆者の主張は、妙なリアリティがあります。
ショック・ドクトリンを推進する人たちは、極めて合理的な思考で着々と金のあるところに侵食していきます。ワクチンは、その最たるもので、期限が切れようが、効果の立証があいまいであろうが、売るための手段としては、幾重にもやり方があり、フェイクも恫喝も当たり前の現実がそこにはある。
その意味で、巨大製薬企業が日本の国民皆保険制度を狙うことは合理的であり、当然だとさえ思います。
私は、本書を通じて「知る絶望」を体験しましたが、その方がよかったと思っています。「知らない幸福」もあるだろうなとは思いながら読んでいましたが、「知る絶望」を体験しておく方が、少なくともいろんな備えはできるだろうと思うからです。
また、ショック・ドクトリンを可視化できているのは、ナオミ・クラインや堤未果さんなどの数多くのジャーナリズムに関わる人たちの努力がある。
ただ、ジャーナリズムが死ねば、私たちはいま政治にどんな企業が群がり、どんな政策が恣意的に行われているのかを知ることすらできなくなります。近未来は、その方がリアリティがあると思っています。
なので、ジャーナリズムが機能し、知ることができる限りは、「知って絶望」しておく方がマシだとも思っています。そして、このままでは、「知らないままいつのまにか絶望を突きつけられる」未来がやってくるだろうと思うからです。
その意味では、本書は読者に未来への踏み絵を迫る本でもあるのかなと思っています。