日曜日の本棚#17『秘密機関』アガサ・クリスティー(ハヤカワ文庫)【クリスティーはサスペンスも楽しい】
毎週日曜日は、読書感想をUPしています。
前回はこちら。
今回は、アガサ・クリスティーの『秘密機関』です。本作は、クリスティー作品には珍しく、サスペンス小説です。
作品紹介(ハヤカワ文庫より)
戦争も終わり平和が戻ったロンドンで再会した幼なじみのトミーとタペンス。ふたりはヤング・アドベンチャラーズなる会社を設立し探偵業を始めるが、怪しげな依頼をきっかけに英国を揺るがす極秘文書争奪戦に巻き込まれてしまう。冒険また冒険の展開にふたりの運命は?名コンビ誕生の記念碑的作品を最新訳で贈る。
サスペンスも楽しいクリスティー作品
本作は、サスペンス小説です。トミー&タペンスの活躍を描いています。のちにふたりは結婚しますが、本作では独身です。このあとシリーズ化されています。サスペンスは、主人公に直接、謎が提示され、事件が未来に向けて展開されますが、このような構造でもクリスティーの魅力は十分に発揮されています。
クリスティー作品には、ポアロやミス・マープルといった魅力的なキャラクターが登場しますが、本作のトミーとタペンスも抜群のキャラクター力を発揮します。特にタペンスのチャーミングな所作は、宮崎駿監督作品の女性キャラクターに通じるものがあります。
サスペンスなので、リアルタイムで敵と対峙することになりますが、敵のボス、ミスター・ブラウンの使い方も秀逸で、最後までサスペンス的な「謎解き」が用意されています。
逆風の小ぶりなサスペンス
本作は、オードリー・ヘップバーン主演の映画『シャレード』に通じるコメディタッチのサスペンスでもあります。ただ、近年サスペンスは、話のスケールの大きい作品が多く、それに慣れていると、話の「小ささ」が気になる読者もいるのかなとも感じる作品でした。
個人的には、「国家」とか「陰謀」とか大掛かりな作品は食傷気味でもあるので、このような軽めの作品はありがたいかなと感じます。
読者との駆け引きは、今回も秀逸
クリスティー作品は、読者との駆け引きも楽しさの要素。『アクロイド殺し』『オリエント急行殺人事件』ほどではないものの、読者へのミスリードは、本作でも秀逸の出来です。これはクリスティー作品が安定した構造に理由があるのでしょう。それが病みつきなり、次の作品を読みたくなる。100年近く前の作品であっても、その点はいささかの衰えはないことを十分に示している作品です。