時間旅行者たちの系譜(コニー・ウィリスの史学生シリーズ)
Time travelers
今夏の課題図書としていた、コニー・ウィリスの時間旅行SF『ブラックアウト』と『オールクリア』の読了を記念して "note" したいと思います。
時間旅行と聞いて、ちょっとトキメク感じがするのは、自分が映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にハマった世代だからですかね....。
今回読んだ『ブラックアウト』と『オールクリア』は、H・G・ウェルズの『タイム・マシン』(1895年)や、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』(1956年)の系譜に連なる時間旅行もので、とっても面白かったです。なので、今回は、私の好きな時間旅行ものについてまとめてみました。
時間旅行(タイムトラベル)について
時間旅行はSF小説の定番ジャンルの一つなのですが、私なりに分類すると4つに分けられると考えています。
① 特殊能力・超能力系
② 超常現象系
③ タイムトンネル系
④ タイムマシン系
①の特殊能力・超能力系とういうのは、登場人物の能力によるもので、②の超常現象系というのは、例えば地震や嵐に巻き込まれた後、気が付いたら過去の世界に.....ってタイプ、③のタイムトンネル系というのは、理由はわからないけど、現代と違う時代を結ぶトンネルみたいな通路が存在しているタイプです。
そして、④の タイムマシン系は、文字通りタイムマシンの発明によって過去と未来を行き来する話です。
コニー・ウィリスの『ブラックアウト』と『オールクリア』は④の タイムマシン系に属する物語と考えています。
タイムマシンとして有名なのは、ウェルズの古典的タイムマシンや
あんなのや
こんなのまで
いろいろなタイプのものがあります。
ただ、『ブラックアウト』と『オールクリア』では、乗り物タイプのタイムマシンではなく、時空連続体に座標を設定して人を送り込む装置として登場してきます。
このコニー・ウィリスの一連のシリーズは、21世紀半ごろに、過去に向けた時間旅行装置が発明され、オックスフォード大学の史学部で、その技術を生かして現地に史学生(ヒストリアン)を送り込み、実際の歴史を観察しながら研究を行っているという設定なのです。
時間旅行の制限またはお約束について
シリーズに出てくる時間旅行装置には、いくつかの制限が設けられていて、まず、過去にしか送り込めないこと、それから降下点と呼ばれる過去への出口は他人の目がある場所や時間には開かないこと、そして、現代へ戻る時は、あらかじめ決められた地点と時間に降下点が開かれるということになっています。
乗り物タイプのタイムマシンに比べると、ちょっと不便に思うかもしれませんが、このお約束が物語を面白くしているのです。
(タイムパラドックス)
また、コニー・ウィリスのシリーズに限らず、時間旅行物ではタイムパラドックスの問題が出てきます。
タイムパラドックスというのは、たとえば過去に行った際の行為によって、未来との矛盾が生じてしまうことです。
一例をあげると、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の中で、主人公が過去に行った際、若いころの自分の母親と出会い、その母親が自分を好きになってしまいかけたために、自分の存在が消えかかるという目に合います。
そのまま実際に自分が消えてしまえば、過去に来る自分もいなくなってしまうという矛盾が生じますよね。
そのため、時間旅行の際は、タイムパラドックスが起きないように細心の注意をはらう必要があるため、物語に緊張感が生まれてくるわけです。
コニー・ウィリスのシリーズで面白いのは、大きな歴史を変えることは時空連続体が許さないとされていて、歴史を変える可能性がある場所には、降下点は開かないし、近づこうとすることもできない設定となっているところです。
だけど、『ブラックアウト』と『オールクリア』では、あれ?ということが起きてしまうのです。
『ブラックアウト』と『オールクリア』について
この小説は、コニー・ウィリスが2010年に発表したSF作品で、タイトルこそ分けられていますが、合わせて一つの作品です。
厚い文庫本4冊で、計2189頁(ブラックアウト463+478、オールクリア624+624)もあるので、手を出すのに躊躇するかもしれませんが、読み始めてみると止まらない面白さがあって、「読んだ~!」っていう達成感の持てる本です。
今回、史学部が調査を行うのは第二次大戦下のイギリスなのですが、ダンケルクの撤退戦をドーヴァー側から観察するマイク、ロンドン大空襲の疎開児童の様子を観察するアイリーン、そして、歴史上、爆撃されなかったデパートで売り子をしながら空襲時のロンドンを観察するポリーの三人が主な登場人物です。
順調に観察を続けていた三人ですが、それぞれトラブルに遭遇しているうちに、回収の降下点が開かなくなり、現代に戻れなくなってしまう。.....という展開です。
どうして降下点が開かなくなってしまったのか、もしかしたら自分の行為が変えられるはずのない歴史を変えてしまったのでは、という不安に襲われながら、三人が協力して現代に帰ろうとするのが物語の主軸となっています。
物語は、三人それぞれの視点で、時代と場面を変化させながら語られる複雑な構成になっていて、最初は物語を把握するのが大変なのですが、読めば読むほど、各パートの続きが気になり、スパイラルに読むスピードが上がっていきます。
戦時下なので、重苦しい雰囲気が続くのですが、読み上げたときには、カタルシスとともに、必ず深い感動が得られる作品だと思いますので、時間旅行ものの傑作として、頭の本棚に積んでおいて欲しい作品です。
(オックスフォード大学史学部シリーズ)
実は『ブラックアウト』と『オールクリア』は、コニー・ウィリスのオックスフォード大学史学部シリーズの第三長編にあたります。
と、いっても、内容も主人公も異なるので、三作目から読んでも、大きな問題はありません。
ただ、コニー・ウィリスのシリーズは、H・G・ウェルズの系譜に連なる由緒正しき時間旅行物なので、第一・二作目も読んで損はさせない作品であることは間違いありません。
『ドゥームズデイ・ブック』
『犬は勘定に入れません』
時間旅行ものの名作たち
タイムマシン系以外の時間旅行ものにも傑作は多いので、自分にとってなじみの深い作品を紹介していきます。
①特殊能力・超能力系超能力系
この系統で思い浮かぶのは、やっぱり筒井康隆さんの『時をかける少女*』なんですが、正確には、主人公の少女は "タイムトラベラー" ではなく"タイムリーパー" だったりするんです。
そう言う意味では、ほんとの "タイムトラベラー" が登場するのは、筒井康隆さんの『七瀬ふたたび』の方なんですが、物語の直結具合としては、やはりこの作品なのです。
宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』なんかも、このタイプです。(主人公が特殊能力者ではないのですが....)
こちらも読み始めたら止まらないです。
②超常現象系
このタイプは、なんか天変地異みたいなのに巻き込まれていくことが多いのですが、「どうすれば現代に戻れるのか」というサバイバルチックな展開で、ドラマチックな要素が多いので、よく使われるモチーフじゃないかと思うんです。
パっと思いつくのは、漫画の「漂流教室」や、小説で言えば半村良さんの『戦国自衛隊』なんかが当てはまります。
絵は怖いけど、ムチャクチャ面白いんですよね.。
そして、半村良さんの名作。(映画も面白いです。)
③タイムトンネル系
このタイプは、ちょっと特殊な部類に入るので、それほどたくさんの作品はありませんが、なんといってもスティーヴン・キングの『11/22/63』でしょう。
キングのこの作品も大好きなんですよね。
コニー・ウィリスの本に負けないぐらい厚い本なんですが、読み終えた後の感動も負けていません。
面白いのは、この作品では、過去の出来事を変えることは可能なのですが、時間はそれをよく思わず、人がぶつかってきたり、エンジンが故障したりと、様々な邪魔をしてくることです。
当然、大きな出来事の改変には、大きな邪魔が入るわけで、そんな中、ケネディ暗殺の歴史を変えることはできるのかって物語なのです。
時間旅行ものの映画が観たくなったら
さて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を始め、未来からタイムマシンで送り込まれてきた殺人ロボットの話である「ターミネーター」など、時間旅行を使った映画はたくさんあります。
その中から、私の好きな作品を3本紹介します。
『時をかける少女』(1983)
まずは、正確にはタイムトラベラーものとは言えないかもですが、やはり、この原田知世版『時をかける少女』は外せないです。
実はタイムリープ能力を持った主人公と共に、タイムトラベラーも登場するんですよね。
また、この作品は、青春ものの名作として、何度も映像化されています。
これだけ映像化されているのもすごいですよね。
きっと、皆さんもどこかの時代の『時をかける少女』を観てるんじゃないでしょうか。
ちなみに、細田守版のアニメ映画は筒井康隆の原作版を元にした ”続編” のような作品です。
『プリデスティネーション』(2014)
ロバート・A・ハインラインの短編小説『輪廻の蛇』を原作とする、イーサン・ホーク主演の映画です。
観る側も混乱するほど複雑ですが面白い!
『オーロラの彼方へ』(2000)
時を越えるのは「声」だけだったりするのですが、描かれる親子の絆は何とも言えない感動を呼びます。
俳優陣は地味だし、時間旅行としては変化球なのですが、隠れた名作だと思います。
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