ゴールディングの『蠅の王』について
Lord of the Flies
ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は、夢中になって読んだ本のひとつです。
『蠅の王』というタイトルは、一見、何の物語なのか想像しづらいので、ちょっと損させてるような感じですが、読み終えると、やっぱり、この物語にはこのタイトルしかない!と思えてくるんです。
物語は、いわゆる少年たちの漂流ものです。
飛行機が墜落したため、無人島にたどりついた少年たちの物語なのですが、序盤こそ、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』のように、少年たちが、力を合わせて生き抜いていこうとするのものの、徐々に2派に分かれて対立していくんです。
大人がいない無人島という隔絶された世界で、少年たちは、リーダーを選び、小さな社会を形成しながら、秩序を保って救出を待とうとするんですが、少しずつ欲望や野蛮な力に目覚めていく者が現れて... という感じなのですが、この理性と暴力の対立が少年社会の中で描かれるという、ちょっと怖い物語なんですよね。
ノーベル文学賞作家ウィリアム・ゴールディングの1954年のデビュー作という事で、ちょっと読みにくい感じに思うかもしれませんが、徐々に変容していく少年たちの様子がスリリングで、途中からはページをめくる手が止まらなくなるほど面白い小説なんです。
タイトルの『蠅の王』は、キリスト教における悪魔たちの王 ”ベルゼブブ” を意味するものですが、物語の中では、無人島を支配する恐怖の存在であるとともに、少年たちからあふれ出す悪の象徴として描かれています。
残酷な描写もありますが、何よりも理性が壊れていく様子が、やっぱり怖いんです。
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『蠅の王』は、これまで2度映画化されています。
1963年にピーター・ブルック監督作、1990年にハリー・フック監督作なんですが、映画は映画で面白いです。
という自分も、実は1990年の映画を観たのが最初です。
【1990年のハリー・フック監督作品】
↓
【ゴールディングの原作】
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【1963年のピーター・ブルック監督作品】
映画と原作を比較すると、やはり映画の方が残酷なシーンはえぐいのですが、比較的、原作通りに作られています。
違いというか、原作以上に感じたのは変容していく少年たちのビジュアルなんですよね。
特に、ピーター・ブルック版の方はモノクロなんで、暴力に走った少年たちが施すペイントが怖い怖い...
まさに悪魔に取りつかれた感じなのです。
ピーター・ブルック版を観ると、新幹線の落盤事故でトンネルに閉じ込められた高校生を描いた、望月峯太郎先生の『ドラゴンヘッド』を思い出してしまいました。
今、思えば、『蠅の王』の影響があった感じですね。
また、『ドラゴンヘッド』以外でも、ゴールディングの原作を敬愛するスティーブン・キングの諸作品はもちろん、そのキングの『死のロングウォーク』に影響されたという高見広春さんの『バトル・ロワイアル』などなど、極限状態の子どもたちを描いた作品の根底には、この『蠅の王』があるのは間違いないのです。
テーマ性から好き嫌いが分かれそうな本作なのですが、クライマックスから結末への展開が、また、いいんです。
ハッピーエンドか?バッドエンドか?、無人島を舞台にした少年たちの物語を、ぜひ、味わっていただきたいのです。
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