アートを記録するヴェンダースの新作(「アンゼルム "傷ついた世界"の芸術家」)
私的に、今年になって復活したミニシアター熱は現在も続いてます。
といっても、月イチぐらいの微熱なんですが、アンテナを高くしつつ、無理なくやっていこうと思ってます。
そんな私が7月に観てきたのが ヴィム・ヴェンダース監督の新作ドキュメンタリー「アンゼルム "傷ついた世界"の芸術家」なんで、今回は、この作品について note していこうと思います。
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「アンゼルム "傷ついた世界"の芸術家」
監督: ヴィム・ヴェンダース
ヴィム・ヴェンダースは、時たまドキュメンタリーを撮ってるのですが、自分にとっては「東京画」以来になります。
あんま興味のあるジャンルでもないんですが、この作品は、メインとなるのが、現代アーティスト:アンゼルム・キーファーとあっては観に行かざるを得ないんですよね!
◎アンゼルム・キーファーのこと
アンゼルム・キーファー(Anselm Kiefer)は、ドイツを代表する現代アーティストの一人です。
実は、ヴィム・ヴェンダースと同じく、終戦の年:1945年に生まれた世代の方です。
戦後ドイツのアイデンティティーに向き合いながら、大戦や歴史、神話等をモチーフに、砂や藁、鉛などを用いて、数々の絵画、彫刻、インスタレーションを制作しています。
キーファーといえば、私が美術を学んでいた80年代後期は彫刻やインスタレーション(オブジェ等を配置した空間的な作品)が中心だったと思います。
鉛を使った重々しい雰囲気が特徴で、鉛を塗りたくったような ”大きな本” や、爆撃機・潜水艦といった戦争アイコンの作品なんかが印象的で、私にとって興味あるアーティストの一人でした。
制作風景も描かれてるんですが、もう絵を描いてるようには見えないとこなんかは楽しすぎなんです。
◎圧倒されるスケール
実はアンゼルム・キーファーのドキュメンタリーって初ってわけじゃないんです。
これまでも自国のTVドキュメンタリーは数多く制作されていて、Web上でも閲覧できるんですが、今回の作品では、とにかくそのスケール感に驚かせれました。
たとえば、キーファーの巨大なアトリエ風景…
自転車で走り回るキーファー自身の姿はお馴染みのものだったりするんですが、これまで以上に広く奥行きを感じるんです!
やっぱり、これがヴェンダースの視点によるものなのか、そもそもカメラが違うのか、映画館で観ると、そのスケール感に圧倒されてしまうのです。
また、アトリエだけでなく、実際の絵画の大きさにも驚きました。
キーファー作品の実物を観たことは何度もあるんですが、彫刻作品
が中心で、あんまり絵画作品は観たことがなかったんですよね。
通常、巨大な絵画といえば、縦 3m ✕ 横 6m ぐらいの感覚なんですが、今回、映される絵画のスケールは想像を超えてました。(運ぶの大変そうなんで、日本では見れなさそうな感じなんですが…)
◎ヴェンダースを通したキーファーの世界
美術館でアートと接する時は、離れて観たり、近づいて観たり、横から観たり、作品によっては、ぐるりと回って観たり、観察してみたり、ぼーっと眺めてみたり… などなど、それぞれのペースで思い思いに観ることができます。
ただ、今回のようなドキュメンタリーになると、撮影側の視点で、画角やペースがコントロールされてるんですよね。
自由に観れないのは窮屈に感じるとこではありますが、ヴェンダースや撮影監督のフランツ・ラスティグの視点で撮影された作品たちはとにかく美しいんです!
一応、ドキュメンタリーなんですが、この映像部分を初め、ヴェンダースの演出がけっこう効いた作品になっています。
キーファーの子ども時代や若い頃のエピソードが挿入されるんですが、それがまた意味ありげな感じなのです。
また、キーファー作品に度々出てくる「翼」のモチーフなんかは、どうしても『ベルリン 天使の詩』との共時性を感じちゃうんですよね。
さらに、映像のバックには、何やら台詞?詩の朗読?みたいな "ささやき声" が度々流されてきて、ますます『ベルリン 天使の詩』っぽかったりするんです。(眠気も誘うんですけどね。)
そう考えると、この作品は、終戦の年に生まれた二人のアーティスト、キーファーとヴェンダースによる宿命的なコラボなのかもしれません。
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この「アンゼルム "傷ついた世界"の芸術家」で描かれるキーファー作品は、ほんと迫力があるんですが、やっぱ実物の方も観たくなっちゃうんですよね。
国内の美術館に所蔵されてる作品もいくつかあるんですが、なんと、来年、二条城を舞台としたキーファーの大規模展覧会が開催されるとのことです!
とっても楽しみで、必ず観に行こうと思ってるんですが、なんかタイミング良すぎなんですよね。
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