「やらないこと」を決めるのは簡単ではない
多くの人は、To Doリストのように「やるべきこと」をリストにして整理します。しかし、実は「やらないこと」を決めることが、私たちの生活を大きく改善することにつながります。でも、いざ「やらない」と決めるのは、思っている以上に難しいのです。その理由をいくつかの視点から説明してみましょう。
1. 感情的なつながりがある
人は自分が続けてきたことに対して、感情的なつながりを持つことがよくあります。たとえば、毎日見ているテレビ番組やSNSの習慣を急にやめようとすると、何か物足りなさや不安を感じることがあります。これは、長い間続けてきたことが「自分の一部」になっているからです。やめることが、心の中で「大事なものを失う」感覚につながるため、簡単にやめることができないです。
大人になると特に、時間が限られている中で本当にやりたいことを見つけることが重要です。そのために、まずは無意識に続けている習慣や無駄な行動に気づき、それをやめることが必要です。しかし、その習慣に感情的な価値があると、やめるのが難しくなります。これが「やらないことを決める」際の大きな障害の一つです。
2. 周りの人からの期待が影響する
私たちは、社会の中で他人と関わりながら生きています。そのため、他の人からの期待や反応が私たちの行動に強く影響することがあります。たとえば、日本では年賀状を送る文化がありますが、「もう送るのをやめよう」と思っても、周りの人から「今年は年賀状が来なかったね」と言われることが気になり、なかなかやめられないことがあります。同じように、SNSで誕生日のお祝いメッセージを送る習慣も、他人とのつながりを感じるための重要な手段とされることがあり、やめると「冷たい人」と思われるのではないかと心配になります。
大人になると、社会的なつながりや人間関係が仕事や生活に大きな影響を与えるため、他人からの期待を無視するのは難しいです。自分の時間をもっと大切にしたいと感じても、周りの人たちとの関係が気になってしまうのは当然です。こうした社会的なプレッシャーが、やらないことを決める上での一つの大きな壁となっています。
3. 慣れてしまったスケジュールや習慣
毎日のスケジュールに慣れてしまうと、それを見直すのが面倒になります。人は一度習慣化したことを継続するのが楽になるため、それをわざわざ「やらない」と決めるにはエネルギーが必要です。たとえば、毎朝コーヒーを飲みながらニュースをチェックする習慣があるとします。この習慣は、もはや無意識に行っているため、特にやめようと考えることもありません。しかし、もしそれが時間を無駄にしていると気づいても、やめるのは難しいでしょう。なぜなら、すでに体に染みついている行動を変えるには大きな努力が必要だからです。
大人は特に、日常生活や仕事のルーチンに追われているため、いちいち「やめる」ことを意識する余裕がありません。忙しいスケジュールの中で、何かをやらない選択をするには、まず自分の生活を一度立ち止まって見直す必要があります。しかし、これ自体が簡単ではないため、つい先延ばしにしてしまいがちです。
4. 未来への不安や恐れ
やらないことを決めると、その結果どうなるのかが見えにくいため、不安や恐れを感じることがあります。たとえば、「SNSをチェックしない日を作ろう」と決めたとしても、その間に重要なメッセージやニュースを見逃すのではないかという不安が頭をよぎります。同じように、仕事や人間関係において「これ以上やらない」と決めることで、将来的にチャンスを逃してしまうのではないかという恐れが出てくるのです。このような不確実性への不安は、多くの人にとってやらないことを決める際の大きな障害となります。
大人になると、将来の計画や目標に向かって行動することが重要です。しかし、その途中で何かをやめる選択をするのはリスクがあると感じることが多いです。将来の成果が不確実な状況では、リスクを避けたいという心理が働き、やらないことを決めるのがより難しくなります。
5. 忙しさ=価値の錯覚
現代の社会では、忙しさが一種の「ステータス」として評価されることがあります。多くのタスクをこなすことが、自分の価値を証明するように感じられるため、「何もしない」という選択が、自分の存在意義を薄れさせるのではないかと感じる人もいます。このような自己価値の錯覚は、「やらないことを決める」際に大きな心理的な障害となります。
大人は特に、仕事や家庭、社会的な責任が増えるため、忙しくしていることが「正しい」と思い込みがちです。多くのタスクを抱えることで、充実感や達成感を得ていると感じてしまうのです。しかし、やらないことを決めて、本当に重要なことに集中することで、逆に自分の価値を高めることができます。この錯覚を打ち破ることが、「やらないことを決める」ための第一歩となります。
6.やらないことの例
無駄遣いをやめる(必要のない買い物や衝動買いを控える)
残業をやめる(定時で仕事を終わらせ、プライベート時間を大切にする)
間食をやめる(決まった食事以外の食べ過ぎを避ける)
SNSの無駄な時間を減らす(必要以上に長くスクロールしない)
他人と自分を比較するのをやめる(自己肯定感を高める)
テレビを長時間見るのをやめる(時間を他の生産的な活動に使う)
人に合わせすぎるのをやめる(自分の意思を尊重する)
不必要なメールや通知をチェックするのをやめる(集中力を高める)
無意味な会話や噂話をやめる(心の平穏を保つ)
完璧を求めすぎるのをやめる(70%の完成度でOKとする)
過剰な飲み会参加をやめる(自分の時間を優先する)
遅寝をやめる(規則正しい生活を心がける)
不安に駆られて未来を心配するのをやめる(現在に集中する)
不要なタスクを増やすのをやめる(優先順位を明確にする)
などが考えられますが、「やらない」と決めてすんなりやめることができるでしょうか。
「やらないことを決める」ことは、シンプルな選択に見えて、実際には複雑な感情や心理、社会的な要因が絡んでいます。何かをやらない決断には、慣れ親しんだ習慣を手放す勇気や、他者からの期待をうまくコントロールする力が求められます。それでも、この選択は、私たちが限られた時間やエネルギーを本当に価値あることに使うための重要な一歩です。やらないことを決めることで、私たちはより自分らしく、効率的な生き方を実現できます。