一緒に生きやすい世界を作る鍵|安積 宇宙
私は、母から骨が脆いという体質を受け継ぎました。
それによって、今まで十五回ほど、骨折を繰り返してきました。
骨折した時、ご飯を作るのも、トイレに行くのも、生活に必要なこと全てにおいて人の手が必要になります。
骨折していない時も、車イスを使って生活しています。
ですから、私は人の助けがあって初めて生活ができます。
そして、周りの人にも、「人に助けを求めていいよ」と伝えています。
しかしここ数年、そうは言いつつ自分自身が周りに頼り切れていないというジレンマを抱えています。
自分の言っていることとやっていることが一致しないのは、もどかしいものです。
それでも、私が「人に助けを求めていいよ」と自信を持って言えるのは、私は自分の特殊な育ちから、人に頼ることがどれだけ大切なことかを知っているからです。
私の両親は私が生まれた時、今でいうシェアハウスのような環境で暮らしていました。
そして、私は両親の友人や何人もの介助の人たちに囲まれて育ちました。
たくさんの人に囲まれて育つということは、常に周りに頼れる人が多くいるということでした。
子供たちは「自分でしなさい」と矯正されない限り、人に頼むことを躊躇しません。
そのいい例として、私は自分でトイレに行ける年齢になった後も、六歳くらいまで誰かについてきてもらうのが好きでした。
トイレに行って、自分でお尻を拭くよりも拭いてもらったほうが、自分の手を汚す可能性を防げたからです。
私があまりに恥じらいなく、ケロっとその時近くにいた人たちに、一緒にトイレにきてもらうように頼む様子を、母は驚きをもってみていたと言います。
このように、子供の頃の私はとっても頼り上手でした。周りの人に対して、人々は私の願いを叶えてくれる存在であるという信頼があったように思います。
そして、日々いろんな人たちと関わっていたので、言わなくてもわかるだろうと勝手に予想せずに、細かいところまで説明するようにしていました。外に出かけたい時は、その時一緒いる人に、車イスの広げ方、自分を車イスに乗せてもらう方法、車イスの押し方や細かい道順など、わかりやすく伝えることができました。
ちゃんと何をして欲しいか伝えることによって、手を貸してくれる人もやりやすく、また、私が自信満々に助けを求める姿をみて、周りの人も「もっと自分も助けてもらっていいんだな」と思えるようになったと話してくれました。
それが、十八歳になって家を出て、自分で暮らすようになって、人と助け合うのが下手になってきてしまいました。
この社会には「自立することがいいこと」「自立とは自分のことが自分でできるということ」というメッセージに溢れています。
今までできなかったことが自分でできるようになるという達成感は、喜びと共に確かにあります。
でも、私の場合、自分でできることを自分でやってしまうことは、自分の体に負担をかけることであって、ゆくゆくそのダメージが出てくる可能性があるということなのです。
私は、工夫すれば一人で料理をすることもできますが、そうしてしまうことで背骨の湾曲が早く進み、あちこちの体の痛みにつながっていることを感じています。
そんな中で、それでも助けを求めるのが難しいのは、自分が何を必要としているか言語化するより、自分で動いてしまった方が簡単なことと、相手に負担をかけたくないという思いゆえでしょう。
でも、相手に負担をかけてしまうという心配は、多くの場合、私の考えすぎです。
わたしが頼んだ人は、本当にそれができなかったら断ってくれるし、断るのはタイミングが悪かったり何かしらの理由があったりします。
でも、自分に必要なことを頼んで断られると、自分の存在を否定されたような気分にときになってしまいます。
この変化の大きな理由の一つに、日本からニュージーランドに引っ越してきたということがあります。
日本には、「お互い様」や「助け合いの精神」というような考えがあります。だけど、西洋化が進んでいるニュージーランドは、日本よりもより強く「一人で全てをすることが自立」というプレッシャーがあります。
ですから、ニュージーランドで会ってきた障がいを持つ人たちは、往々にして人に助けを求めず、無理をしているように見えました。
それでも、私が周りに助けを求める姿を見て、「自分も助けを求めていいんだと思えた」と言ってくれた小人症の友人がいます。
人の助けが必要な体ということは、人に助け合うことの大切さを伝えられる体だとも思っています。
「自分でやることがいいこと」というメッセージがこの社会にはとても大きくて、人に頼るのが本当に難しくなっています。
しかし、助けが絶対に必要な障がいを持った人たちだけでなく、もっと多くの人たちも助けを求めるようになってくれたら、私たちも助けを求めるのが楽になって、今よりさらに生きやすくなるでしょう。
私たちの生きやすさは、巡り巡って多くの人たちの生きやすさにも繋がるので、一緒に助けを求め合ってほしいと思います。
安積 宇宙(研究員・ソーシャルワーカー)
【プロフィール】
1996年東京都生まれ。母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱く車椅子を使って生活している。 小学校2年生から学校に行かないことを決め、父が運営していたフリースクールに通う。ニュージーランドのオタゴ大学に初めての車椅子に乗った正規の留学生として入学し、2019年卒業。在学中の2018年、ニュージーランドの若者省から「多様性と共生賞」を受賞。現在は障害分野の研究アシスタントと暴力防止グループファシリテーターとして、ニュージーランドで活動中。