【architecture】国際子ども図書館|安藤忠雄
度々私のnoteで紹介されて頂いている建築家の安藤忠雄氏
国内から海外までつくってきた建築の数は多い
数を打つタイプの建築家でこれは仕事に飢えている証拠だろう
建築家の中には数より質を優先してあまり数に拘らない方もいる
安藤氏は数も質もこだわる建築家と言える
今では全国津々浦々で安藤建築を見ることができる
そんな安藤氏であるが、安藤氏の建築で一際優れていると思う建築は『リノベーション』である
今では身近な言葉となったリノベーションである
マンションや住宅、オフィスなどあらゆるところでリノベーションが行われている
安藤氏のリノベーションの建築は主に歴史的建造物の保存再生が多いが、これは海外でも高い評価を受けており、私も安藤氏のリノベーションは世界でもトップクラスだと思う
日本で見ることのできる安藤忠雄氏のリノベーションは上野にある国際子ども図書館がある
上野駅から上野公園を抜けた先の静かな場所にその建築はある
元々は1906年に『帝国図書館』として完成したルネサンス様式を取り入れた明治期の洋風建築の代表作である。その後国立国会図書館の役割を果たすが、蔵書数の増加によりその役割は新たな国会図書館へ移行した。
その後子ども図書館としての役割を担うことになるのだが、子ども利用の減少などから2002年に安藤忠雄氏の設計で改修工事が行われた
安藤氏はこの改修において、まずこの歴史的建造物に最大の敬意を払い痛みの激しい部分を修復した
またこの建物は当初の計画通りには完成していない
戦争による資金不足などにより一部の計画は未完のままになっていた
そんな歴史にも配慮しながらの設計がなされている
大枠の計画は、元々の煉瓦造の建築にガラスのボックスを貫通させるというコンセプトである
また建物の裏側に動線となる新たな部分を増築した
古い煉瓦造の建築と、現代の建築材料であるガラス・鉄・コンクリートで出来た増築部分を貫通させることで新旧の対比を表現して古い建物に新たな刺激を与えることを意図している
その対比が激しいほど古いものと新しいものが際立ち未来へと繋がっていくと考えたのだ
正面の外観はガラスのボックスのエントランスが角度を振って突き刺さっている
一見するとほとんど外観には大きな手は加えられていない
このガラスのボックスは建物の裏側まで貫通しており裏庭へと導いてくれる
補足だがこの歴史的建造物にガラスのボックスを貫通させるアイデアは以前から安藤氏は何度か試みていたが実現したのはここ国際子ども図書館がはじめてだろう
イギリスのテートモダンという美術館への改修計画コンペでも惜しくも負けはしたものの大胆なアイデアであった
(テートモダンはコンペに勝利したヘルツォーク&ド・ムーロンという建築家ユニットにより改修された)
またアメリカでも古いペントハウスにガラスのボックスを突き刺すアイデアを提案するが実現はしなかった
そんな以前から温めていたアイデアを実現したわけである
この粘り強さが安藤忠雄氏を世界のANDOたらしめていると言えるだろう
子ども図書館に話を戻すと、建物裏側に増築された部分はガラス張りのボックスだ
所々に、古い建物の跡が残されている
新旧を強調するかのようにデザインされたものであろう
(一部写真は公式HPより引用)
内部はそのまま修復したものに新たに什器などを加えているが、決して新しいものが主張しすぎるわけではなく自然に馴染んでいる
このように古い建物と新たな建物の対比、古い建物への敬意の表現は海外で高い評価を受けている
とりわけ古い建物に対する意識の高いイタリアではプンタ・デラ・ドガーナというベネチアにある、かつて海の税関と呼ばれた歴史的建造物を新たな美術館へと蘇らせた
海上都市という工事が難解な場所で、外観は当時の姿に修復するだけ(だけと書いたがこれも大変な作業である)として、内部に新たにコンクリートの箱を挿入することで新旧の対話を表現した
イタリアという歴史的建造物への意識の高い国で当初は他所者の安藤氏に反対する意見も多かったが出来上がったものはベネチアに受け入れられた
今年フランスではブルス・ドゥ・コメルスという18世紀に建てられた商品取引所を美術館に改修した建築がオープンした
こちらも外部はそのまま残して内部にコンクリートの円筒を挿入するコンセプトである
歴史的建造物の内部に新たな建築を挿入することは口で言うのは簡単だが工事は非常に難解である
今の技術だから出来ること
すなわち古い建物への挑戦とも言えるプロジェクトであった
コロナの影響もありオープンは延期を余儀なくされたが、思わぬ事態にも負けず建築は完成した
日本はスクラップアンドビルドをひたすら繰り返している
西洋は古い建造物に対する人々の意識が非常に高い
そんな西洋の建築に対する意識の高さには学ぶことが多いように思う
コロナにより空きオフィスが増えている
古いビルを単なる消費物とみなしてしまうのか…
今後の大きな課題になることは間違いないだろう