リリシズムの彼方、心の襞をゆらす音の葉
「高倉健インタヴューズ」
(野地秩嘉著、小学館)の中で
俳優の高倉健さんはこう語ります。
「僕は「世の中に何かを訴える」ために
映画に出るのではありません。
映画はエンターテインメントですから
訴えたいことは何気なく
観客に伝わるほうがいい。」
「そして低い調子でそっと伝えればいい。
声高にテーマを主張する必要はないし、
大上段に振りかぶって
大声を出す映画には本当の力はない、
僕はそう思う。」
健さんは、
人は本当に辛いときや悲しいとき
大声を張り上げて嘆くでしょうかと。
誰かに付いて演技を
勉強してきたわけではけど、
カメラの前では
もっと自然な演技をしたいと。
僕も、力み過ぎずに
程よく抑制を効かせたほうが
受け手の心の琴線に触れると思います。
先日、CDラックを整理していたら
かつて聴き込んだジャズの名盤が
続々と出てきました。
その一枚を今週ずっと聴いていました。
ジム・ホールのリーダーアルバム
「CONCIERTO(アランフェス協奏曲)」。
収録の4曲すべてが秀逸、1975年の作品。
しびれる程の、これぞリリシズム。
「アランフェス協奏曲」はジャズでは
マイルスのアルバム「Sketch Of Spain」が有名。
本作のアランフェスは、
まるでひと巻のフランス映画の風情。
そして3曲目「The Answer Is Yes」。
冒頭で、軽快なリズムを刻むジムのギターの、
その直後に入ってくる、
チャット・ベーカーのトランペット。
この瞬間です。
この刹那の、鳥肌ものの叙情。
ここを聴くべき、
この抜群のセンスこそ、聴き所。
哀愁が穏やかに漂ってきます。
まるで旅人の疲れを癒やすように。
過ぎ去りし遠い日を慈しむように。
ギター、ジム・ホール
ピアノ、ローランド・ハンナ
ベース、ロン・カーター
ドラムス、スティーブ・ガッド
トランペット、チェットベイカー
アルトサックス、ポールデズモンド
圧巻、役者勢揃い。
さしずめオールスター戦の6人が
力み過ぎず、語り過ぎず、
それぞれの領域で
最良の仕事をされています。
演者の醸す哀愁、リリシズム。
これぞ、心の琴線に触れる
ジャズの醍醐味。
これが僕にとって、
健さんの佇まいと重なるのです。
ああ、あやかりたし。