あえて悩む。悩むことの意味
「さあ、どーっちだ。」
友人の声とともに、2つのグーが目の前に出される。当てたらチョコをくれるらしい。
A君は、その両グーの間を黙ったまま見つめ、しばらくして天を仰ぐ。
A君は悩んでいた。
A君はいつだってそうだ。
選択肢が目の前に現れると悩む。
だって、一つを選ぶという行動は、他を除くという行動と等しいのだから。
今日は何でも好きなもの食べていいよ
ファミレスで母親がA君に言う。
なんて残酷なんだ。
ファミレスのメニューなんか各ジャンル、選りすぐりのエースがひしめき合っているのに、そのうち1つ以外除けだと。
そうなると、だいたいチーズインハンバーグ定食に落ち着く。悩めば悩むほど、チーズインハンバーグが光って見えるものだ。
きっと、店員がそこだけ磨いているのだろう。
ただ、そのくらい確実な答えのある選択ならまだいい。
だが、実際は正解のない選択も多い。
お前、どの部活入るん?
んー、高校まで続けてた陸上部もありだけど、大学から違うスポーツにしようかなぁ、いやでも運動神経ないしなー、、あ、サークルもあるのかー
A君は、Excelをひらいた。
A2から下へ順に部活名を書く。
B1から横へ順に興味、費用、時間、雰囲気など条件を書く。
そして、各欄に得点を書き込む。
選択肢が多く、判断基準も複数ある場合にはこうして、数値化する。
"直感"ほど、曖昧で信用ならない二字熟語はないからだ。
結果、ラクロス部になった。
雰囲気の得点が費用と時間の得点をカバーしており、総合得点は僅差で陸上部に勝ったのだ。
A君は、思慮深い。
A君は、心配性だ。
A君は、慎重だ。
A君は、思い切りが悪い。
しかし、こうまでに悩むのには理由がある。
まず当然、最善の選択をしたいからだ。
後々、あっちにしておけばよかったと後悔するのが嫌だからだ。
だが、それ以上に
"悩むこと自体に意味を見出している"
選択に失敗した時の一番の後悔は、
もっと悩んどけばよかった
だと思う。
死ぬほど悩んで選んだことが間違った選択肢だったとしても、それはもう運命だったと思うしかなく、悲しいかもしれないが、後悔はないと思う。
あれだけ悩んでこっちにしたんだから、防ぎようがなかったんだな、と。
でも、悩まずに失敗するのは、自分の行動次第で改善できた可能性を残して、失敗したことになる。
内容にもよるが、悩んで防げたことなら、そこには少なからず、自分にも落ち度があることになる。
これぞ、後悔だ。
だからA君は、あえて悩む。
たとえ、絶対こっちが正解だ。と分かっても、わざと多めに悩む。
後悔の予防は悩むことだと思うから。
「わざと悩む。」
私が大切にしてきたことと同じだ。
A君は、心に決め、叫んだ。
「右!」
2時間経っていた。
友人の右グーから
ドロっと茶色の液体が流れ出た。
"Significance of worrying"