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「官邸の範囲内」でしか動けないとすると・・・

きのう、新型コロナウイルスをめぐって異例の事態が起きました。

朝の段階では政府が北海道、岡山、広島を対象に「まん延防止等重点措置」を取るという案を専門家の分科会に諮ったのですが、これに反対論が噴出したのです。結局、急きょ方針が変更され、3道県には今月16日から31日までの期間、「緊急事態宣言」が出ることになりました。

分科会で政府が示した案が了承されず、変更となるのは初めてです。政府のメンツがつぶれるような話で、よくまあこんなことが1日の間に起こったなと驚きました。

背景には変異ウイルスの猛威が政府の予想を超えていることがあるのでしょう。ただ、私は別な側面もあると考えています。ここからはあくまで私見で、何の根拠もない推測ですが、「官僚の弱体化」が進んでいるのではないでしょうか。

今回のような事態であれば、これまでの常識では官僚が調整役となります。政権側の望む方向と、専門家の見解を受け止めて「すり合わせ」を行ったうえで分科会に臨むはずです。

それが、朝日新聞の報道によると、専門家は先週から感染予防策の強化を求めても慎重姿勢を崩さない政府に不満を募らせていました。おとといの夜には非公式なオンライン会合を行い、「いまの政府の方針では感染を抑えられない」という意見で一致していたということです。結果、調整がないまま昨日の会議を迎え、「朝に出た案が午前中にひっくり返る」ことになりました。

官僚がここまで手を打っていないのは、「官邸の方を向いて仕事をしている」からでしょう。安倍政権以来、首相官邸の考え方に距離を置いている人材は外されてきました。官邸にはモノを申さず、「指示待ち」をしてしまう風潮が官僚に広がっているとしても責めるのは酷でしょう。「官邸の考える範囲でしか仕事をしない」限定的な思考の官僚が増えた結果、専門家との橋渡し役がいなくなったのだと推測します。

この推測が当たっているのだとすれば、国益が損なわれていることになります。アメリカの前政権もそうですが、トップが人事権をふりかざし、イエスマンしか周囲に置かないことの罪は大きいです。かつては「限界を設けないで国のために汗する」優秀な官僚が存在したのに・・・。

そんなわけで、「限界を設けない」ジャズマンの作品を聴くことにしました。マックス・ローチ(ds)の「限りなきドラム」です。

マックス・ローチ(1924-2007)はジャズ・ファンにとっておなじみの存在。キレもあれば微妙な表現もでき、タイムキープもおそろしく正確な巨匠です。クリフォード・ブラウン(tp)との双頭クインテットや、ソニー・ロリンズ(ts)の「サキソフォン・コロッサス」でのドラミングはジャズ史に残る名演ぞろい。

功績を数え上げればキリがないのですが、1965~66年に制作されたこの作品ではドラム・ソロのみの演奏も含め、数々の実験的なドラミングを披露しています。それも「奇をてらった」ものではなく、きちんと音楽として完成しているのですから凄い。

何気なく流していたら気が付かないかもしれませんが、実はかなり複雑なことをやっています。

1965年10月14日、20日、1966年4月25日の録音。

Max Roach(ds) James Spaulding(as) Freddie Hubbard(tp)
Ronnie Mathews(p) Jymie Merritt(b) Roland Alexander(ss,④のみ)

①The Drum Also Waltzes
マックス・ローチのオリジナルで、いきなりドラム・ソロのみで終始します。ハイハットで3拍子の基本リズムを刻みながら、その他のタイコとシンバルで色合いをつけていきます。全体的に非常に緊張感が高い演奏ですが、それは「叩き過ぎていない」からだと思います。淡々とした3拍子に乾いたタイコを重ねていくのですが、最初は連打を控え、かなりストイックな演奏となっています。その後、叩く楽器の選択によってメロディが生まれているようにも聴こえます。次第に連打を増やしていきますが、ある程度のところでサッと引いてスペースを作ることから空気が張り詰める展開に。個人的には2分45秒過ぎのハイハット・シンバルをスティックで叩くプレイがローチらしい緻密さを感じさせて好きです。

②Nonmo
ジミー・メリット作曲のブルース。このアルバムの中でローチが最も挑戦的なプレイをしている曲でしょう。編成は2管が入ったクインテット。ピアノが基本のリズムパターンを繰り返すため、ローチはリズムを刻む以上の、自由度の高い演奏が可能になっています。基本的にブラシを多用しながら、アクセントを自在に変えてソロ・プレーヤーを後ろから煽るドラムの何とスリリングなことか!「リズムキープしながら即興している」ように聴こえる、実に刺激的な展開です。しかも、この曲は途中で長いリズムのブレイクを挟むため、ローチのプレイが数回途切れるのです。これが絶妙な効果を生み、「いい演奏だけど疲れるな・・・・」というよくある流れを防いで演奏の世界に没入できる仕立てになっています。フレディ・ハバード、ジェームス・スポールディングのブルージーなソロも見事ですが、私はロニー・マシューズのバックでのローチに注目します。ブラシのパターンをいくつも変えて、後半はシンバルとも組み合わせながら盛り上げていく素晴らしいテクニック!最後はローチのソロとなり、なめるようなブラシが次第に激しさを増し、圧倒的な迫力で押し寄せてくる流れが数回繰り返されます。ここにはブラシで音量から色合いまで膨大なバリエーションを持つローチのエッセンスがあると思います。

表題曲③Drums Unlimited ではシンバルを多用したローチの別の面をドラム・ソロのみでじっくり聴くことができます。

もし菅首相がこれ以上の恥をかきたくないのであれば、お得意の「人事権を振りかざす」手法をやめることでしょう。そうしないと、本当にトップのことを考えて能動的に走り回る人材がいなくなってしまいます。

このところのワクチン接種をめぐる混乱も含め、知恵者が働けない環境が大きな損失を生んでいるというのは考えすぎでしょうか?

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