奈良では絶滅寸前種のサンショウウオ
12月半ば。日中も10℃を下回る寒い日々がやってきた。この日を待っていた!もうそろそろ見つかるに違いない。お気に入りの森は紅葉もとっくに終わり、葉の落ちた木々の隙間から陽射しが少しは入るようになったけど、市街地よりはずっと冷える。
何を見つけたいのかってカスミサンショウウオと言う名前の、全長10cm前後の小型のサンショウウオ。日本固有種で奈良では絶滅寸前種だ。
この辺りではカスミサンショウウオは個体がほとんど確認されていないらしく見つけるのに苦労しそうだ。だけど、毎回思う。誰が四六時中森の隅々まで見張ってねん!しかも書いてあったのは数年前の文献だ。モリアオガエルの時みたいにいっぱいいるかもしれない。
こんな寒いのに両生類とかいるの?って不思議だけど、カスミサンショウウオは冬から春になるまでに繁殖期を迎え産卵するのだ。ということは今の時期に活発になってるんじゃないかな。
彼らが生息するのに必要な条件を簡単に説明すると、繁殖場でもあり、幼体が生活するための水たまりと、成体が生活するための樹林が一緒にある環境。水たまりと言っても、絶対に枯れない湧水が流れ込んでいるようなところじゃないとダメなのだ。そして水の流れがあったとしても、とても緩やかなこと。
ネットでの情報では、そのような場所にある丸太(特に杉の木)や岩の下や、土の中の浅いところに潜んでいるとあった。幼生は初夏に変態するまで水中で暮らすのに対し、成体は繁殖の時以外は地上生活なのだ。
得た情報から想像してみる。
杉の木々たちで日中でも薄暗くて水が枯渇せず湧き水があって水たまりもある・・・そうすると苔もたくさんあるだろうなぁ…。
お気に入りの森の中にはこの条件を満たす場所がいくつかある。
今日はここにしよう。ここにいる!
直感で、いつもの道を逸れて杉の木の間を抜ける。辺りは薄暗くて、見渡すと地面はふかふかの苔に覆われ、湧き水がどこからともなく穏やかに流れて所々に水たまりを作っている。「もう絶対いてるやん」確信を持った。
ザッと見て短めの杉の丸太が地面に数本転がっている。うん、怪しい。
でももったいぶっちゃってひとまずは水の中なんか見てみる。繁殖のために夜から朝にかけて水辺に集まり、夜明け前には山林に戻っちゃうので、いないだろうとは思いつつ…。卵だけでもあるかも?とか・・・。
卵塊は見つからなかった。
そしてついに丸太1本目を見ることに。そっと転がし丸太をどけてみる。
いなーい!ヤスデみたいなのが慌てて逃げていく。
やっぱり簡単には見つからないか。少しガッカリしたけどあきらめない。
そっと丸太を元に戻して、2本目。
ゴロリ。
いないー!!巨大なミミズだけ。(←シーボルトミミズかな?この森では巨大ミミズをよく見るのでその話も今後しよう)
と思い丸太を戻しかけたけど、青光りするミミズにしては光沢感がないのを一瞬感じて慌てて持ち上げる。
杉の皮の隙間に入り込んでいたであろうそいつがポロっと転がってきた。
カスミサンショウウオだぁ!!!!
思った以上に表面がカサカサだけど間違いない。待ちに待ったご対面。思えば夏頃から恋焦がれていた。だけど今日、探し始めて1時間も経たずに会えるとは!
野生のサンショウウオを自力で探したのなんて初めて。興奮しないわけがない。「やった~!カスミサンショウウオ見つけた!」声に出る。
観察していると、ものすごくゆっくりとじわじわ動き出した。起こさないでくれと言いたそう。ごめんよ。
ぱっと見は黒っぽいけど、よく見るとグレーの体に薄いのから濃いのまで茶褐色や灰色の細かなまだら模様があり、尻尾の上に沿って黄色っぽい縁どり。お腹は白っぽい灰色でなんとなく縞々に皺がある。
頭から尻尾までだいたい12cmほどかな。カスミサンショウウオの成体は10cm前後らしいので、結構大きい方じゃないかと思う。
体はずんぐりぽっちゃり。手足に当たり前だけどちゃんとついている指は、プクプクして丸みがありかわいらしいのなんのって。指の本数は通常片足につき5本だけど、標高の高いところに生息している高地型と言われるタイプは4本らしい。なんでだろうな~。
顔をのぞいてみると目がくりくりしていて、ぴったり閉じた口が丸い顔の輪郭に沿ってきれいな弧を描いている。めっちゃかわいい!思わず声に出してしまうほど。
こんなにノロノロしているからアライグマやアナグマ、タヌキ、人間、いろんな天敵に見つかれば一瞬で捕まってしまう。これほど大きくなるまで生き延びてきたなんてすごいなぁ。成体になるまで最低2年はかかると言われているから余計に感慨深い。
名残惜しいけどそっと元通りに戻してその場を離れた。
その後、少し離れた別の場所でも小さめのカスミサンショウウオを見つけることができた。
過去にモリアオガエルだって絶滅寸前種と言いながらめーーっちゃたくさんいてた。
この森もきっと何匹ものカスミサンショウウオが、外来種の侵入や気候など環境の変化にも負けずたくましく生きているんだろうと思うし、そう願わずにはいられない。
憧れのカスミサンショウウオには会えたので、今度は卵塊を見つけられるとうれしいなぁ。