カクヨムコン8参加レポート 連載という難しさ
2022/12/1にスタートしたカクヨムコン8の応募期間が終わった。
この後2/7まで読者選考期間が続き、3月から最終選考が始まり、受賞作の発表は5月になる。一般的な公募と比較すると読者選考を挟むぶん選考期間がかなり短い。
私も初日から参加し、ありがたいことに多くの読者から好評を得ることができた。馴染みの薄いテーマと複雑化してしまったプロットについてきてくれた読者には感謝を伝えたい。ありがとう。
テーマが「宗教改革」、コンセプトとして「悪役令嬢の文脈で宗教改革をエンターテイメントに再構築したい」というものを掲げた本作は、私にとって大きな挑戦だった。
コンテスト期間中に投稿した文字数は累計236,122字。この記事を書いている時点で12,000PV、★90のレビュー、♥581の応援をいただいた。
終わってみればあっという間のコンテストだった。学びもあったし、悔いも残った。
この記事ではコンテスト参加までの話と、コンテスト中に考えたことを備忘録がてらまとめようと思う。
Ⅰ 参加まで
①プロットができあがる
正直に言うと、私はWeb連載作品にあまり親しみがない。いつも書籍で小説を読んでいて、Web小説はたくさん読んできたわけではなかった。Web発の作品でも書籍化してから読むことが多い。
ただ、Webという媒体ならではの強みがあるのは理解しているし、Web発信の流行も多少は把握しているつもりだった。それこそ悪役令嬢もの、追放ものといった最近の流行はWeb小説が盛り上げている。
では、なぜ今まで書いてこなかったかというと、公募への挑戦を創作活動の軸にしていたからだ。公募、特に長編エンタメ小説の新人賞を視野に入れて作品を書いている時間が執筆活動の大半だった。
Webから生じ、近年は非Webレーベルにも姿を見せはじめた流行。そんなエンタメ・カルチャーの潮流を眺めながら「この流れで自分が書くならどんなものが面白く書けるか」ということを考える日はそれなりにあった。
「宗教改革を悪役令嬢婚約破棄ものの文脈で書きたい」という発想はここから生まれた。
noteで公開している他の記事でも扱っているとおり、私は趣味でイギリス史を学んでいる。ここ数年はイングランド宗教改革の政治的な特異性に強い関心を抱いていた。
イングランド宗教改革は信仰による闘争というよりはむしろ、テューダー朝の生存戦略としての側面が強い。宗教改革当時、成立から半世紀しか経っていないテューダー朝は旧王朝の継承者に地盤を揺るがされていた。
王朝の安定のために男児の王位継承者を求め離婚したいヘンリ8世と、キャサリン妃が自身の叔母であることを理由に離婚させないよう圧力をかけたカール5世の対立。それがイングランド宗教改革の背景だ。
私はこのキャサリン妃に注目した。キャサリン・オブ・アラゴン。スペイン風にはカタリーナ。後のスペイン女王、狂女フアナの妹である彼女を、主人公にできないだろうか。
プロットを組むのはそれほど難しくなかった。
本来の夫を早くに亡くし、王位を継承した夫の弟と結婚し、男児を産めないうちに出産が危険な年齢に達したことを理由に離婚させられた悲劇の妃。彼女をより能動的なフィクサーとして描くのだ。
キリスト教的倫理観に則れば、婚約破棄を強いられるのはとんでもない不名誉だ。これを自ら被りにいくのは正気では不可能だろう。狂気の沙汰に身を投じる理由として、異世界転生というトリガーは最適だった。
前世の知識を駆使し、宗教改革のきっかけとして自らの婚約を破棄させる悪役令嬢。彼女はきっと先進的で、革命的だ。
しかし、そんな彼女と戦う相手として、ただの宗教を描くのはエンターテイメントとして退屈に思えた。また、宗教改革が必要であるという動機を用意するためにも、宗教組織とは対立する必要がある。
どうせならもうひとつやりたいことを盛り込もうと決め、「政治主体としての宗教組織」を大々的に扱った。
日本では生活史レベルで宗教が描かれることはあっても、社会史レベルの宗教はあまり認識されていない。未開拓のジャンルだ。上手く昇華させることができれば、きっと面白い反応が見られる。
こうしてできあがったプロットは外連味たっぷりの大河ドラマめいたなにかだった。これは絶対に面白い。なぜなら私の好きなものを突っ込みまくったからだ。
ただ、書くためのコストが途方もないこともわかっていた。私は余力が生じるまで待とうと決め、これをしばらく寝かせていた。
②カクヨムコンの開催を知る
友人からカクヨムコン8についての情報をもらい、その友人が書く作品についてネタの提供やちょっとした下読みを手伝った。
そんな中で改めてカクヨムコンという賞レースと向き合うことになり、「もしや、あのプロットは刺さるのではないか?」というひらめきが生じた。受賞しなくとも、書くきっかけにはなる。
もちろん受賞できるならそれに越したことはない。書籍化したい程度には熱量を籠めた作品だし、賞金が入れば少しは生活が楽になる。夏までにエアコンの工事ができるかもしれない。
極めて杜撰な市場調査の末、Web小説らしいタイトルをでっち上げ、投稿の準備を整えた。カクヨムは作品投稿の際に設定できる項目が多い。楽しい一方、頭を悩ませることも。
私はキャッチーなタイトルのセンスを磨いてこなかった。どちらかといえば昔の文芸作品にあるような、シンプルで気取ったタイトルを好むタイプの作家だ。今作で長文タイトルを選んだのは挑戦と言えば挑戦かもしれない。
そうこうしているうちに準備が終わり、原稿を仕上げる段階に入った。
③執筆期間に入る
目標はコンテスト期間開始までに10万字のストックを作ることだった。プロットさえあれば1ヶ月で無理なく書ける量だ。
準備万端の状態でコンテストに参加。その、はずだった。
詳細は上の記事にまとめてあるが、メインPCが故障したり、親族が通り魔被害に遭って死にかけたりしたせいで精神的にダウンした。
PCの故障は自己責任(Windows Updateが原因だから自分が悪いとは思っていないが)だとして、通り魔被害はどうしようもない。ありえん。
それでもなんとか持ち直し、コンテストに参加。結果的に自転車操業になってしまったものの、なんとか最終日まで連載することができた。
Ⅱ カクヨムコン参加中
①10万字完結という思い込み
これは私の確認不足が招いた不幸だが、自戒の意を込めて書き残しておこう。カクヨムコン8の規定は「10万字以上」であって、「10万字完結」ではない。
私は10万字である程度キリの良いところまでまとめて完結とし、プロットの続きは続刊で展開するものとばかり思いこんでいた。ずっと公募を意識してきたがゆえの先入観だ。
その思い込みが悪く働いた。第一章に相当する「1346年 はじまり」は完結を重視するあまり、かなりの速度で駆け抜けてしまった。
これがかなりの痛手だった。キャラクターの魅力を示すようなエピソード、関係性に深みを与えてくれるやり取りを描くよりも展開を優先してしまったことで、今ひとつ没入感に欠ける作品になってしまった。
最初から丁寧に書いていればという後悔が今も残っている。受賞の有無にかかわらず、序盤はいずれ手を加えたい。
②中長期的キャパシティの限界
仕事もあるし、資格の勉強もしている。インプットも怠りたくなかった。健康のために運動も続けなくてはならない。
そんな中で毎日小説を書き、更新するのはかなり難しかった。まとまった休みで一気に公募原稿を仕上げるのとは違う苦労があった。
それに加えて、更新を一日たりともサボれないことへの不安感も私を苛んだ。実際、一日だけワクチンの副反応で身動きが取れず、連続更新を途絶えさせてしまったときはとんでもなく焦った。
実際に書いているとわかるが、PVは更新が途絶えるとすさまじく目減りする。これはおそらくトップページの新着作品からアクセスする読者や、更新通知が届くフォロワーのぶんの数字だ。
趣味で書いているのならともかく、それなりに本気で賞レースに挑んでいるわけで、目に見えてアクセス数が減少するのは恐ろしいものがあった。
兼業のプロ作家でtwitterでも活発に活動している人って化け物なんじゃなかろうか。私のキャパシティでは無理だ。尊敬する。
③無反応にこみ上げる不安
前述のとおり、かなり多くの読者に恵まれた。12,000PV、★90のレビュー、♥581の応援。これが多いのか少ないのかはデータが不足しているからなんとも言えない。
人間の精神というのは浅ましいもので、なまじ読者が存在するだけに「反応がないこと」が怖くなった。淡々と★、♥だけが増えていく。
レビューは初期にいただいたものが1件、コンテスト応募期間の最終日にいただいたものが1件。後者は友人が書いてくれたもので、普段の交流がなければ作品と出会ってすらいなかった可能性もある。
応援コメントにいたっては誤字報告を除けば最終日に1件いただいたのみ。
これが一番きつかったかもしれない。面白いと思って読んでいるのか、惰性で読んでいるのかがわからないからだ。読んでいる人はいるのにフィードバックがないというのは本当に怖い。
私は私が書きたいものを書くが、それはそれとして書いたものを売れる形に整えるための努力を厭わない。どんな表現が伝わりやすいのか、どこまで情報量を出したほうがいいのか。そういったことを考えるためにはフィードバックが必要だ。
そして、今回はそれが全然なかった。
賞レースで連載という形式がまだ私に馴染んでいないのもあって、一番の重圧になった。リアルタイムで数字が動くというのは本当に恐ろしい。
Ⅲ 投稿期間を終えて
投稿期間中はややネガティブ思考に陥りがちだったが、終わってみれば中々楽しい2ヶ月だった。
Web以外ではやりづらい題材に挑戦できたこと、そしてたくさんの読者に作品を楽しんでもらえたことは大きな収穫になった。またやりたいね。
次は賞レースとしてのキャッチーさを度外視してみて、キャッチーさを意識した今回との間にどのような差異が生じるかを見てみたい。幸いにしてネタはまだいくらでもある。
今回の賞に関して言えば、それなりの手応えはあるが、受賞作かと問われると首を傾げる出来栄えだ。将来性も込みでどこかが拾ってくれたら嬉しい。まあ、駄目なら駄目で気長に書こう。
読者選考期間が2/7まで続いている。審査員による選考では対象外になる部分ではあるが、せっかくの機会だ。2/7までは毎日更新を続け、読者に楽しんでもらおうと思う。
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