『9割が女性患者の難病』にかかった『ボク』の話⑧
※この記事は少し長くなります。おもむろに読み進めて頂けますと幸いです。
こちらの記事の続きになります。
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ついにソムリエ2次試験が始まる。
2次試験はテイスティングの試験となる。
某有名ホテルの大広間で行われた。
皆、思い思いに試験会場の扉が開くのを待つ。
ある人はこれまで切磋琢磨しあった仲間と談笑を。
ある人は参考書や、テイスティングコメントをまとめたノートを見返したりと。
僕はまだ鼻に残るスーッとした化学的な臭いに焦りながらも、ひとまずこれまで勉強してきたノートを見て、このぶどう品種がきたらこういうコメントをするというのを見返したりした。
最悪、香りがわからなくても外観でなんとか目星をつけて答えようとした。
そして、会場の扉が開かれる。
このとき会場に入る瞬間に、ワインの香りが広がっていると事前に先輩から伺っていたが、この時の僕には正直よくわからなかった。
なぜ香りが広がっているかと言うと、扉が開かれる前から既にグラスにワインが注がれているからだ。
ソムリエ試験は5脚のグラスにワインが3種類、その他のお酒が2種類注がれている。
ちなみに実務経験がなくても受けられる「ワインエキスパート」という試験がある。
そちらも同日同会場で行われ、そっちはワインが4種、その他のお酒が1種の試験となる。
皆が続々と席につく。
席に座ると白ワインが1つ、赤ワインが2つ、無色透明なお酒と、琥珀色のお酒が入っていた。
まだグラスに触ってはいけない。
試験官の説明が終わり、始まりの合図があってからグラスに触ることが許される。
説明を聞いている間に、外観から得られる情報で目星をつける。
先程白ワインと書いたが、正確にはほぼ透明に近いワインだった。
ここまで透明なものだと、外観だけでかなり目星がつく。
もうこれはあれだなと確信した。
「甲州」である。
香りも味も確認せずにこれは確信できた。
そう思えるぐらい、この「甲州」は日本の品種だけあって、日本酒のように透明感のある外観だ。
そして試験が始まる。
問題の方にも選択肢に「甲州」がある。
もう間違いないと思った。
問題は残りのワインだ。
1つはかなり濃い目の赤、もう1つは鮮やかな色合いの赤という印象だった。
グラスをくるくるさせ、スワリングを行う。
粘性や香りを確かめる。
……さっぱりわからない。
香りが感じない訳では無い。
ワインの香りに化学的な臭いが交じるのだ。
これは参ったと思った。
味の方はわからないわけではない。
だが嗅覚がこのように影響を受けているため、普段どおりの味わいを感じていられるのか自信はなかった。
なので、外観による項目と、味わいによる項目の点数を稼げるように、そこに集中した。
その他のお酒は1つは香りを嗅いだ一瞬でわかった。
「キルシュ」だ。
このフルーティーな香り、さくらんぼの香りはわかりやすい。
もうひとつの琥珀色のお酒は「ドランブイ」だった。
これは何を選択したかはもう覚えていないが、恐らく不正解を選択したと思う。
赤ワインの方もやはりぶどう品種の方は2つとも不正解だった。
答えは「オーストラリア産カベルネ・ソーヴィニヨン」と「イタリア産サンジョベーゼ」だった。
自分は何を選択したかは覚えていないが、間違っていたのは覚えている。
さらに2次試験と同時に3次試験の方に加点される筆記試験があった。
内容としては、「2次試験に出されているワインをお客様に説明するとしたら」とか「最近ワイン業界でホットになっている〇〇の話題について説明せよ」的なものを数百文字以内で答えよというものである。
そちらは2次試験の得点に反映されないが、できるだけの事は記入した。
そして試験が終わる。
自信は半分半分だった。
「甲州」と「キルシュ」は確信があった。
残りの方でどれだけ稼げているか。
その日は試験が終わると、午後から職場に行き仕事をした。
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結果は不合格だった。
当日のアクシデントは自業自得だが、悔いが残る。
やはり体に無理をさせてでもソムリエ試験に合格するという目標を定めた以上、諦めきれなかった。
次はまた来年になるのだが、今度は1次試験が免除となる。
来年の2次試験を見据えて、ワインショップの仕事は退職した。
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今度は歓楽街にある、会員制のワインバーで働ける事になった。
ここでも最初は体の事は隠して仕事を始めた。
前のところでもそうだが、外見上誰にも気づかれないくらいに自分は隠し通せていたと思う。
会員制のワインバーに決めたのは、これまではどちらかと言えば庶民的なワインばかり飲んでいて、高級なワインを飲む機会というのが少なかったからだ。
本来ソムリエ試験的には高級ワインのようなものが出題されることはほぼ無い。
それは全国の会場で同じワインを揃えないといけないため、何百本という単位となることから、高級なワインは出題されないという事情がある。
だが、試験に向けて1年ほどの余裕ができたので、自分の幅を広げるためにこれまでとは違ったワインを飲んでみたいと思ったのだ。
飲むと言っても抜栓したときに少しテイスティングさせてもらう程度だが、卸価格で何万、何十万するワインが開けられることもあるから、自分としてはすごく勉強になった。
だがこの職場では1つ問題があった。
人間関係や働く時間などは特に問題なかったのだが、「たばこの煙問題」が発生した。
そのバーはタバコや葉巻も扱っていて、お客様はもちろん従業員も吸う人が多く、勤務時間も休憩時間もタバコの煙にさらされていた。
そうなると、この「SLE」や「皮膚筋炎」「シェーグレン症候群」のような免疫系の病気には良くない。
働いてからしばらくして、体の調子が悪くなってくる。
まず喉の調子から悪くなった。
主治医から喉に効く薬を処方してもらっても、自分で買ったのどスプレー的なものものど飴もほとんど効果がなかった。
咳も止まらない。
恐らくたばこの副流煙による、肺がやられているのか、血管が縮小されているのかという感じだったと思う。
数ヶ月でそこは辞めることになってしまった。
辞める時に体の事情を説明した。
体のこともあり、説明したときには上長も気にかけてくださったが、結果的に突然辞めることになってしまい、すごく申し訳なく思う。
ただやはり、この体ではどうも「たばこ」と相性が悪いようだった。
自分の体はまともなものではないと痛感させられた。
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そのワインバーは辞めることになってしまったが、ソムリエ試験のためには飲食店で働いていなければならない。
どうしようかと思ったが、偶然前のワインショップの先輩のツテで働き口が見つかった。
この時期、1度体の調子を戻すためにステロイドの量を増量していたと思うが、体の様子を見ながら入れる時にシフトに入った。
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時間的には自由に使えたので、芸能の仕事の方も入れる時にできるだけ入ってみた。
そろそろ始めてから1年近くになるという時期になって、紹介してもらえる仕事の種類も増えてきてた。
こっちの仕事の方も結構面白く感じてきたので、目標を立ててみた。
この1年の目標だ。
なぜ1年かというと、この時は1年以上先の自分を想像できなかったからだ。
「SLE」の5年生存の確率は大幅に改善されているけど、自分の場合は3つの病気をかかえる「膠原病重複症候群(オーバーラップ症候群)」だから、楽観視していなかった。
なので、そう長生きはできないだろうという思いのもと、1年以上先の自分の事を考えるより、今の自分がどうしたいかを重視してきた。
そしてこの時はひとまず年内の目標を立ててみた。
1つ「DVD化されているようなドラマもしくは映画作品に出演しエンドロールに名前が載る」
2つ「憧れの女優さんの作品に参加し、共演する」
3つ「舞台に出演する」
おおまかにこれらの目標を立てた。
まだエキストラやスタンドインが多かった自分には上2つの目標は非現実的な目標だった。
だが思えば叶うものだ。
年内にこの3つを達成することが出来た。
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まず1つ目の「DVD化されているようなドラマもしくは映画作品に出演しエンドロールに名前が載る」
これは幸運にもすぐに達成された。
某グルメドラマに出演させてもらえる事が事務所から連絡が来た。
シーズンがいくつも続いている長寿ドラマで、前々から個人的に好きなドラマだった。
事務所にも希望を伝えていて、最終回に出演させてもらった。
撮影本番はすごく楽しかった。
ドラマでいつも見ているあの俳優さんが目の前にいて、しかも自分にセリフを喋って、自分がそれに答えてセリフを喋っているだなんて、正直現実味がなかった。
緊張なのか「シェーグレン症候群」によるものなのか、口の乾きがいつもよりすごい。
1番叶えたかった目標が1番先に来てしまった。
なぜこれを叶えたかったかというと、先程述べたとおり自分にはあまり未来を感じていない。
長生きできることを期待していないのである。
ならばせめて、映像で自分の姿が残れば、先に逝ったとしても親や兄弟が自分の元気な姿を見られるかもしれないと思ったからだ。
家族じゃなくても、誰かの記憶に残ってくれればその分自分は長生きできるのだと考えたのが経緯である。
それが達成することができた。
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次は3つ目の「舞台に出演する」という機会に恵まれた。
この年の夏頃だったか。
今後自分の仕事の幅を増やすためにと思い、俳優養成所にてレッスンを受けていた。
その養成所が主催する舞台で、規模としては小劇場といった所でやるのだが、自分としてはほぼ人生初舞台みたいなもので、とてつもない緊張感のもとやり遂げることが出来た。
普段仕事をしている緊張感とはまた違う緊張感を感じ、その状況でもやりきったという経験が自分をさらに成長させてくれた機会であると思う。
素晴らしい経験をさせてもらった。
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そして2つ目の「憧れの女優さんの作品に参加し、共演する」という機会がこの年の最後にやってきた。
年末のクールに始まる連ドラに出られることに決まった。
実は最初、このドラマにはこの憧れの女優さんの同僚役としてレギュラー出演する予定だった。
そのような幸運に夢なのではないかと、何度も自分もマネージャーも疑ったが、クランクイン1週間前にして本当に夢で終わった…。
しかし結果的にそのドラマの第3話と最終回の2度に渡り出演することができ、しかもその中で憧れの女優さんにビールを注いでもらうシーンがあったのだが、それがとてつもない至福の時間だった。
レギュラー出演がおじゃんになったけど、自分にはそれで十分だった。
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実はこのドラマの撮影期間の間にソムリエ2次試験があった。
もちろん芸能の仕事にばかりに時間を割いていたわけではなく、ワインの勉強も続けていた。
しかし、前の年にかなりの勉強をしたというのもあるし、1年の時間をかけてじっくり色々と飲んでいたというのもあるが、この年の試験は落ち着いて受けることが出来ていた。
舞台を経験して、度胸がついたというのもあるのかもしれない。
この年は白ワイン2種類、赤ワイン1種類、その他のお酒が2種類という構成だった。
おおかた予想通りだった。
前の年が白1赤2という構成だったので、今年は白2赤1だろうと予想していた。
なので、白を重点的に飲んでいて、さらに直前には「リースリング」というぶどう品種のワインを飲み、その特徴を確認していた。
それで出題されていたのが「フランス産のリースリング」だったのだ。
もう1つの白は「アルゼンチンのトロンテス」
赤は「オーストラリア産シラーズ」だった。
その他のお酒は「マデイラ」と「カルヴァドス」
前の年はあのようなアクシデントがあったからかもしれないが、この年は比較的簡単に感じられた。
それだけ自分の経験値が上がったということかもしれないが。
結果2次試験は合格。
次は3次試験になる。
3次試験は「デキャンタージュ」の実技試験だ。
「デキャンタージュ」とはワインボトルのコルクを開け、デキャンタと呼ばれるガラスの器に移し替えるという作業である。
作業自体は普段仕事をしている身なら全く問題はない。
気持ちゆっくりめに行って、制限時間がちょうどやってくるような具合だ。
ただ、普段コルクを開け慣れていなかったり、力の弱い方だとなかなか苦戦するようである。
僕は特に問題なく出来た……わけでもなかった。
実は1つ失敗したなぁと言うのがあって
試験官に「こちらシャトー〇〇になります」とプレゼンテーションをしなければならないのだが、そのシャトー名を間違えてしまったのだ。
やっべ!…と思ったが、皆が一斉に同じことを言うので、それにまぎれて試験官は聞こえていないだろうということにして、そのまま進めた。
結果は合格だった。
晴れて「JSA認定ソムリエ資格」を得られることができた。
1度決めたことをやり通すことができた。
こんな体でもやれるんだとまたひとつ自信がついた。
そんな27歳の冬の頃の話。
==⑨に続く==
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こんにちは。
改めまして、KOH@メタメタ系男子です。(sle_koh)
8話までやってきました。
今回の話の中心はソムリエ試験になります。
実はソムリエ資格って僕が受けた「JSA(日本ソムリエ協会)ソムリエ」以外にも「ANSA(全日本ソムリエ連盟)ソムリエ」というものもあるんですよね。
なんか似たような名前でややこしいですけど、僕はぶどうのバッジが欲しかったので「JSAソムリエ」を取りました。
この台座は自分でレザークラフトしたものです。
素人感丸出しでお恥ずかしい(^_^;)
ちなみにあのソムリエで有名な「田崎真也」さんが会長をやられているのが、「JSA」の方になります。
さて、ついに資格を取得した僕はこのままソムリエの道に進むのか?
それとも別の道を行くのか?
待て次回!
ここまで長文をご覧頂きましてありがとうございました。
これを読んでくださった方の1日が良いものでありますように。