古本:人間はなぜ戦争をするのか 日本人のための戦争設計学・序説
題名から滲み出るパワとヤバみ
どうも、slaughtercultです。古本ネタ第2弾、投入のお時間です。
最初に言っておきますが、今回はかなり危険なネタです。
とにかくヤバい。パワがつよすぎる。
『人間はなぜ戦争をするのか 日本人のための戦争設計学・序説』
パワーワードの塊か(笑) どこぞの進歩的政治クラスタが反応しそうな題名。
定価1,500円/売価334円。お値打ち品ながら、とんだ食わせ者です。
著者の日下公人氏は、『ソフト経済学』を読んで面白いなと思った方です。
今作の命題は「戦争を知らずして戦争を避けること能わず」というもの。
具体例として、第2次大戦時代の各国の状況を特に重点的に記しています。
奥付。平成8年初版。戦争の話題に含まれているのは、湾岸戦争辺りまで。
この本は、単純な戦前体制の翼賛本ではないことをお断りしておきます。
戦略思考も無く戦争に邁進した旧日本軍には、特にシビアな評価です。
日露戦争後の軍縮時代に、食い扶持の切り詰められていく高級軍人たち。
第2次大戦は、金と名誉を欲した将校が問題の根源であるという論点です。
陸海軍は自己保身と予算の奪い合いで対立、戦功欲しさに独走する悪循環。
(以下引用:ページ104~105『陸軍に吹き荒れたリストラ旋風』より)
"戦前の日本は、平和が長かった。イギリスのように休みなく戦争をしていた国ではない。中国やシベリアで局地戦をしただけで、日露戦争以降は総力戦も近代戦もやっていない。けっして軍国主義ではなかった。だから、軍人がイライラしたのも無理はない。イギリスは軍国主義で戦争つづきの国だったから、軍人はイライラしなかった。
軍は官庁のひとつだから、なんといっても予算が欲しかった。しかし、予算は旧憲法下でも国会が抑えていた。そこで、予算を取るには戦争を起こすのがいちばんだということになった。"(引用終わり)
陸軍は北進してソ連を押さえたいが、海軍は南進して戦功が欲しい。
香港の拠点確保の作戦に、なぜか内地の陸軍部隊が援軍を称して大挙。
おまけにこの部隊は香港陥落を知ると、西方に転進して大損害を被る始末。
石油確保の為の戦争という題目は、次第に拡張主義にとって代わられる。
圧倒的な戦力差で蹂躙する米軍に、人員も平坦も次第に先細っていきます。
それでも強気な命令しか下せない、軍上層部に蔓延する異様な精神性。
(以下引用:ページ135~136『短期決戦主義が生んだ精神主義』より)
"日本軍の精神主義がひどかったというのは、そういうことである。精神的に高潔なところを見せれば、戦争は負けてもいいというわけだ。部下を殺せば殺すほどいい指揮官で、退却命令は絶対に出してはいけない。突撃命令を出しておけば負けてもよい。そういう思想だった。(中略)
現場の兵隊には万止むを得ざる場合は死に物狂いで突撃せよと教えても、なるべくは兵力を温存する長期持久戦戦略を立てるべきであったが、日本は平和が長くて、日露戦争以降総力戦を経験していないから、なかなか発想を変えられなかった。”(引用終わり)
議論の矛先は大戦当時の日本のみならず、欧米列強にも向けられます。
ドイツ軍のポーランド侵攻は、欧米諸国の楽観視と思い違いの積み重なり。
無条件降伏を強硬に主張し続けるチャーチルとルーズベルト。
日本やドイツが敗戦して焼け野原になった後、急速に勢力を伸ばすソ連。
反共の防波堤を失った英米は、自分たちで彼らと戦う羽目に陥る。
第2次大戦で真に勝利したのはソ連であると、著者は語ります。
(以下引用:ページ204『アメリカも第二次大戦の敗戦国』より)
"アメリカもまた、第二次大戦で国益を見失っていた。ドイツと日本に勝つことに執着したが、勝利の結果は、かえって大きな負担を背負いこむことになった。(中略)
戦争が終わり、アメリカは日本を武装解除して平和第一主義を教えたところ、日本人は大喜びして日本は本来の平和愛好国になった。その結果、ソ連の南進を食い止めるのはアメリカの仕事になって、朝鮮戦争では日本のかわりにマッカーサーが三十八度線で戦って、二〇〇億ドルの戦費と三万五〇〇〇人の損害を出した。”(引用終わり)
目的の為の戦争。「何のために戦争をするのか」が著作の論点です。
欧米には「目的達成のためには戦争もやむなし」という概念が存在する。
しかし戦争アレルギーの日本には、その概念自体がそもそも理解できない。
国益を見極めた外交の一形態として、戦争を「設計」する国家の非情さ。
その一方で、要職に就く個人の慢心や思い違いが、時に悲惨な結末を招く。
人間が自由意思を持つ以上、歴史が必然とは言い切れないという指摘。
興味深いのは、戦中の軍部は膨大な機密費で右翼を養ったということ。
暗殺をちらつかせることで政治家を脅し、ストッパー不在の状況で独走。
戦略なき軍隊は、予算と戦功を求めて戦線を無秩序に拡大し続けます。
軍政時代から現代に至るまでの、日本の無責任体質には特に厳しい批判が。
戦略思考の欠如した、自分たちの利益最優先の近視眼が諸悪の根源。
閉鎖集団化したエリートによる、予算の争奪戦は現代でも続くと言います。
詳述はしませんが「南京大虐殺」や「従軍慰安婦」にも触れています。
定義すらあやふやな状況で謝罪をする問題点が、話の核になります。
事実関係が曖昧なので、明確で論理的な例証を望むという点には同意。
総括
平和ボケして国際情勢を甘く見ると、痛い目に遭いますよという警鐘。
『戦争には戦争の論理があるということを、先ず知ることから始めよう』
というのが、著者の言いたい最も重要なことなのだと感じました。
まあ正直言って、内容に異論・反論の余地はあります。
全体的に、軍隊寄り(同情的)の考え方と言えるかも知れません。
国家は真面目に戦争と向き合わねばならないという考え方には同意。
『昔の出来事は、昔特有の事情を加味して考えなければならない』
という言葉は、確かスティーブン・ピンカー氏の著書でも読んだ気が。
『暴力の人類史』でしたかね……?(面白いけどチョー分厚い本です!)
最後に「こうすれば日本は戦争に勝てた」とかやり出した点は頂けない(笑)
過去の戦争を振り返るという意味では、興味深い点も多々あります。
何にせよ、中身が非常に濃いです。到底ここで全ては語り切れません!
ぶっちゃけこの手の話題は、どうあっても荒れるしかないわけですよ(爆)
この内容を、昭和1ケタ世代のルサンチマンと一蹴するか、あるいは。
というワケで、今回は危険なネタを敢えてピックアップしてみました。
From: slaughtercult
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