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Photo by
take_kuroki
背丈以上の障壁であったのに、彼は走ってきた勢いそのままに壁を蹴って飛び上がって、難なくてっぺんに手をかけた。そして腕力にものを言わせて足を乗せ、壁に登ると、狙いを定める隙も与えないままに飛び降りて姿を消した。
一人突出して進めば、殺されてしまうのに、敵が築いた壁の向こうで上がった悲鳴は彼のものではない。聞こえる銃声も友軍のそれではない。
流石に選ばれた兵士である。兵士というよりは兵器に近い。躊躇うこともなく、目の前に立ちはだかるものを全て飛び越え、恐怖もなく敵で溢れた中に駆け込み、任務を遂行する。このことに彼はなんの感情もないのである。
あるとすれば、命令を聞くこと、それを報告すること、義務ではなく、起動させた機械の如く動くだけなのである。
その彼に配された一時的な部下は、働きどころを失って、一瞬動作を忘れてしまった。
やがて血の匂いが濃くなって、悲鳴が消える。それが彼らの気付になるまでに、時間はかからなかった。
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