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『異世界でも本屋のバイトだが、アマゾネスのせいで潰れそうだ』第3回
≪ダンジョン初心者≫
雑誌の付録掛けをしていた僕の前に、1人の男が現れた。ミイラのように顔に包帯を巻いているので年齢不詳。右手に持っている剣は初心者向け『トヨクニ製』ショートソード(茶褐色の鞘が目印)、左手に盾は無し。服装は粗末な茶色の肌着のみ。まあ、見たところ冒険初日といったところか。
「あの、これからダンジョン初めて行くんですが、おススメの本てありますか?」
「少々お待ちください」こういう事は社員に任せればいい、面倒臭いから。僕は躊躇なく店長を呼びに行った。事務所でエロ雑誌の袋とじを必死に見ようとしていた店長は、盛大な舌打ちで僕の要求に逆らった。
「今、忙しいんだよ。乱丁のチェックしてるから。お前が適当に選んでやれよ」
乱丁チェック? 普段そんな仕事してたの見たこと無いけど。でも今逆らえば鉄拳が飛んで来かねない。「分かりましたよ、どの辺勧めればいいんですか?」
「一昨日あたり月刊誌がまとまって出てるだろ? 初心者向けの。『月刊ハンター』とか『月刊ダンジョン』とか、あの辺が無難だろ」
『月刊ハンター』はハンター社が出している老舗の狩猟総合誌。各地ダンジョンの最新情報の量なら他紙の追随を許さない。一方の『月刊ダンジョン』はダンジョンマスター社出版。後発なので違う方向性。ダンジョンの情報は少な目で、むしろ最新の武器・防具の紹介に力を入れている。
「…というわけで、この2誌はそれぞれのタイトルと逆なことが詳しいんです。非常にややこしいんですけどね。どうします?」
「幾らでしょう?」
「えっと、『月刊ハンター』が380イェンで『月刊ダンジョン』が420イェンです」
それを聞いてミイラ顔が肩を落とすので事情を聞くと、支度金は2000イェン、ショートソードが1800イェンしたので残り200イェンしか無いと言う。
「ボラれたな、そりゃ」いつの間にか後ろに店長が立っていた。「ショートソードは1500イェンが相場だからな」
可哀そうに。ミイラ顔が生き残れる可能性は低い。ダンジョンに入った途端、モンスターたちの餌食になるのが関の山だ。
店長は一度文庫コーナーに行き、1冊の本を持って帰ってくるとミイラ顔に手渡した。
「ほら、ドスト・ライクスキー著作『罪と園芸』だ。森やらダンジョン周辺に生えてる植物で金になるのがイラスト入りで載ってる。まずはそれ読んで地道に稼ぐんだな。代金は出世払いでいいからよ」
ありがとうございます、この御恩は一生忘れません! 何度も頭を下げながら出ていくミイラ顔を2人して見送った。
「店長って、冒険者には優しいですよね」
「うるせえ。とっとと雑誌の付録掛けろ、この野郎!」
こうして今日も、ありふれた1日が始まった。