【経理勉強録】包括利益と組替調整額。


※こちらのnoteは勉強がてら経理系の何かしらをまとめていくものです。私も後で読み返して、なんか間違っていたり付け加えたいことがあったらがんがん加筆修正していきますのでそのつもりでご覧下さい。
※文中の「※」は、脱線気味や細かい話をするときの注です。必要に応じてご覧下さい。


1:純資産の構造

 貸借対照表に表示される、純資産。この構造を大まかに言うと以下のようになります。

・株主資本
→株主からの投資や前事業年度までの利益など。会社を経営していく活動資本。
評価・換算差額等
P/Lに載らない(=損益認識しない)が、何かしらの差額が発生しているもの。
・新株予約権
→新しく株式が発行される際に購入することができる権利。
・非支配株主持分(連結のみ)
→子会社株を持つ、親会社とは別の株主が所有する純資産額。

 色々説明することはありますが、今回はこのうち、「評価・換算差額等」について説明していきます。なお、「株主資本」については、以下の記事で説明していますのでご参考までに。

2:「P/Lに載らない差額」とは?

 さて、上記で「P/Lに載らない差額」として説明しましたが、これはどういうことか。
 例えば、有価証券について考えてみましょう。売買目的の有価証券について基本的には、期首時点の金額から決算日の時価に振り替えます。その時、期首時点の金額と決算日の時価との差額は、「有価証券運用損益」として当期の損益として処理されます。つまり、これはP/Lに載るのです。

(例)当期首時点で、100,000円の売買目的の有価証券を保有していた。この有価証券は期中に売却せず保有し続けていた。決算日になり、時価が102,000円となったため、差額を振り替える。

有価証券 2,000 / 有価証券運用益 2,000

 ここで少し踏み込んだ話をしますが、基本的にP/L科目の収益は実現主義によっています。つまり、実際にサービスや財を提供し、それに伴う対価(あるいはそれを受け取る権利)を手にした時に収益を認識するという考え方です。商品を売って、現金を得たり売掛金を計上したり、というのはまさにこの例です。
 この売買目的有価証券については、一見すると合致しないようにも見えますが、これは以下の考え方によっています。
 つまり、売買目的で保有している有価証券については、そもそも売り買いして利益を得ることを目的にしているのだから、いつでも売却することができる。言ってしまえば、決算日で売ることもできて、従って利益を得ることもできた(=有価証券を売るという財の提供をし、それに伴い対価として差額を得ることができた)のだから、収益として認識できる筈です。それを、「売らなかったから差額分も収益認識しない」というのでは合わなくなってしまうので、「決算日で売ったと仮定した時の収益は計上しても良いよ」――と、こういうことです。(損失になった場合も同じです。)(※1)

 では、「その他有価証券」の場合はどうでしょうか。この中には時価を持つものもあり、ということは、取得原価との差額が発生します。これを認識しないわけにはいきません。
 しかし、収益(損失)として認識してはいけません。何故なら、「その他有価証券」はそもそも売買目的で保有しているのではなく、従って上記で述べたような実現主義の論理が通用しないからです。というよりそもそも、売買目的と同じ様な処理をしたら、「その他」として割り振る意味がありません。
 これが、「P/Lに載らない差額」です。では、これを一体どうやって処理をするのか――ここで出て来るのが、「評価・換算差額等」です。つまり、純資産科目で処理をしてしまおうということです。そしてこれを「その他の包括利益」と呼ぶのです。

3:包括利益とは何か?

 ようやく言葉が出て来た「包括利益」ですが、基準にはかなり難しく書いてあります。そのまま引用すると以下のようになります。

4.「包括利益」とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう。当該企業の純資産に対する持分所有者には、当該企業の株主のほか当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の非支配株主も含まれる。
5.「その他の包括利益」とは、包括利益のうち当期純利益に含まれない部分をいう。連結財務諸表におけるその他の包括利益には、親会社株主に係る部分と非支配株主に係る部分が含まれる。
《出典:企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」

 ……このままでは初見では訳分からなくなります。ということで、超ざっくり言い直しましょう。
 包括利益とは、「サービスや商品の売買で得た損益や、P/Lに載らない損益を合わせたもの」です。前者の「サービスや商品の売買で得た損益」を「当期純利益」、後者の「P/Lに載らない損益」を「その他の包括利益」と言います。(※2)
 噛み砕けるようにもう少し説明すると、基準にある「当該企業の純資産に対する持分所有者」とは、基準にも書かれていますが要するに株主(あるいは新株予約権のように、権利を行使すれば株主にいつでもなれる人、そして子会社の非支配株主も含みます)のことです。その株主と「直接的な取引によらない」取引、とは要するに株主以外の人や会社、言い換えれば顧客との取引のことです。商品やサービスの売買などを指すとみてよいでしょう。それによる純資産額の変動ですから、要は利益だ、という話になるわけです。

 さて、上でも言いましたように、包括利益とはP/Lに載る「当期純利益」と、「評価・換算差額等」という「その他の包括利益」を足し合わせたものです。

包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益

 この「その他の包括利益」とは一体何か。これもざっくりと言いますと、「含み損益」のことです。つまり、「当期に実現していないからP/Lに載せて損益にすることはできないけど、いつかは実現する損益」のことです。
 先の時価のついた「その他有価証券」についても、いつか手放すことがあれば、当然取得原価と時価との差額を認識してP/Lに載せなければなりません。しかし、実現主義に反する(売買目的ではない)ため、その「いつか」が来るまではP/Lに載せられない。そういう損益を「その他の包括利益」と称するのです。うーん、ややこしい。

 ここまででも中々に大変ですが、ここからが更に大変です。それが「組替調整額リサイクリング」という概念です。

4:「組替調整額」とは、計上した「その他の包括利益」の内、実際に「損益」となった額のこと


 ざっくり説明すると組替調整額とは、タイトルに書いた通りなのですが、具体例と共に見ていく方が分かりやすいので、まずは以下の例題を見ていきましょう。

(例題2)P株式会社は、4月1日〜3月31日を決算期とする会社であり、当期は×2年4月1日〜×3年3月31日である。
 前期の×1年4月1日にその他有価証券を100,000円で取得した。×2年3月31日(前期末)時点の時価は102,000円であった。
 当期中に当該その他有価証券を全て売却し現金を得た。その売却時の時価は105,000円であった。

①当期のその他有価証券に関する仕訳を全て答えよ。但し、その他有価証券は当期中、上記以外保有も売却もしなかったとする。また、税効果会計は考慮しない。
②この時の組替調整額を答えよ。

 ということで、まずは①の通り当期の仕訳を切ってみましょう。

《期首時点》評価・換算差額等の再振替
その他有価証券評価差額 2,000 / その他有価証券 2,000
《売却時》
現金 105,000 / その他有価証券 100,000
        / その他有価証券売却益 5,000

 では、この内「組替調整額」とは何を指すのか?
 まずざっくりと概要を述べると、「当期又はそれ以前の過去の決算期に、その他の包括利益として計上した額の内、実際に損益となった額」を指します。どういうことか、以下の図を見ながら説明します。

 こうしてみると分かるのですが、当期には、その他有価証券売却益として5,000円上がります。しかし、その5,000円とは、「いつか売却した時に上がる筈として、『その他の包括利益』として計上した」ものです。
 実は、①の仕訳問題は上のもので正解なのですが、よりちゃんとやると、当期中に合計5,000円の評価差額が出ていたらそれを「その他の包括利益」に計上しなくてはなりません。
 すると売却した後には、当期純利益に計上される売却益5,000円と、その他の包括利益に計上される5,000円が二重計上されてしまいます。そこで、「いつかP/Lに載る損益として純資産に計上した評価・換算差額等=その他の包括利益は、実際にP/Lに載る損益になったのだから、取り消さなくてはならない」ということになります。
 これが、先に言った「当期又はそれ以前の過去の決算期に、その他の包括利益として計上した額の内、実際に損益となった額」の意味です。
 ちなみに、これは「その他の包括利益」として計上した額をリサイクルして「売却益」に使っているようにも見えるので、「リサイクリング」と呼ばれます。
 従って、②番の回答として、組替調整額は△5,000円となります。
 なお、包括利益について表示する連結包括利益計算書を書くと以下のようになります。ここでは、連結子会社(100%親会社保有)との間では一切の取引が無く、その他有価証券の売却益以外に当期は連結全体で損益が発生しなかった、つまり5,000の収益しか上がらなかったとします(つまり非支配株主持分すら発生しない)。法人税も考慮しないとします。(※3)これを見ると、包括利益としては当期に上がったその他の包括利益分(全体額5,000円から、前期にその他の包括利益として計上した2,000円を引いた分)しか計上されていないことが分かります。これもよく出来ていると思います……。

5:そもそも何でこんな面倒なことになったのか?

 以上で包括利益と組替調整額の説明は終わりですが、最後に「どうしてこんな面倒なことになってしまったのか?」に触れます。

 一番の原因は、当期純利益をB/Sベースで計算するか、P/Lベースで計算するかの見方の違いによるものです。

 P/Lベースで計算すると、当期純利益額は下記の通り計算されます。

当期純利益額 = 収益額 - 費用額

 この当期純利益は、決算時に「損益」科目を通じてB/Sの利益剰余金に振り替えられ、加算(損失の場合は減算)されます。つまり、こうとも言えるわけです。

当期純利益額 = 当期の純資産額 - 前期の純資産額

 何もなければ当然この金額は一致するはずです。なお、この「当期純利益額がP/Lから計算してもB/Sから計算しても一致する」関係性を、クリーン・サープラスと言います。
 しかし、ここで一致しないケースが現れます。ここまで読んでいただけた方にはお分かりのことと思いますが、それが「その他の包括利益」の存在です。つまり、「評価・換算差額等」としてB/Sでは加算されているのに、P/Lには加算されていない存在が出てきてしまったのです。(※4)
 そして、元からB/Sで当期純利益を計算するような計算の仕方をしていれば、別にP/LとズレていてもB/Sを調整する必要はなかったのです。しかし、日本は古来からP/Lから当期純利益を計算するという伝統がありました。国際的にはB/Sから計算するのが当たり前で、日本はその国際的な基準に合わせようとする動きがあります。その中で日本は、「P/Lから当期純利益を計算する伝統は、崩してしまうと混乱の元になるから崩したくない。しかし国際的な基準に合わせるならB/Sから当期純利益が計算できなくてはならない」という板挟みに挟まれました。その結果、「包括利益」という概念を生み出したのです。こうした面倒な処理は、日本の苦肉の策と言えるでしょう。



※1:なお、有価証券は他にも「満期保有目的債権」と「関係会社株式」とがあります。どちらも取得原価で認識し、基本は時価に振り替えることはしません。が、「満期保有目的債権」は取得原価と債権に記載の金額とに差額があり、かつその差額が金利の調整額として認められるものについては、一定の方法(利息法または定額法)で満期保有目的債権額に加減算していきます(これを償却原価法という)。

※2:なお、「包括損失」という言葉は存在しません。利益が出ようと損失が出ようと、どちらも「包括利益」と呼称します。

※3:幾つかありますが主なものを3つ。
1つは、包括利益に関する計算書は、連結会社である場合にのみ表示が求められています。逆に言えば、連結会社がいなければ包括利益計算書については出さなくてもよいとされています(基準では、「省略することが出来る」と書かれています)。そのため上では、「連結包括利益計算書」と書いているわけです。
2つは、P/Lに載せるのは税効果会計を反映した後の金額でなくてはなりません。但し、税効果額については注記をしなければなりません(包括利益の表示に関する会計基準の8項)。なお、評価・換算差額等の内「為替換算調整勘定」など連結子会社がいて初めて発生するものについては、連結子会社を外したり、売却するなどして手放すことがない限りは、税効果会計を適用してはいけません
3つは、連結子会社がある場合は、まず連結全体の包括利益を計算した後、それを親会社と連結子会社とで区分しなくてはなりません。少し見慣れないフォーマットかもしれませんが、これは国際的な書き方に合わせたものによります。

※4:なお、当期純利益額以外の株主資本の増減額(例えば増資とか)は考慮しません。
ちなみに、「いや、その評価・換算差額等も差し引けば一致するんじゃないのか?」として、以下の式を立てることで、B/Sから計算してもP/Lから計算しても一致する(クリーン・サープラス)とする考えもあります。が、通例はこのような考え方はしません。

当期純利益額 = 当期の純資産額 - 前期の純資産額 - 当期純利益以外の純資産増減要因

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