【不定期雑記 #39】KAC2024に参加した作品のセルフライナーノーツ
ドーモ、透々実生です。
久しぶりにセルフライナーノーツなるものを書いてみようと思います。理屈は色々付けられますが、一番の理由は「自分が書きたいから」です。よろしくお願いします。小説のリンクも貼っておきますのでよければ是非。(note版は後日転載します)
KACとは何ぞや?
この話からしますと、KACとは、「Kakuyomu Anniversary Championship」のことで、カクヨム運営から出されるお題に沿って、ほとんど即興で作品を執筆する、というイベントです。
実は昨年(2023年)も参加してました。noteにも転載済ですので、宜しければ。
ですが、そもそもの話
実は当初は参加するつもりはありませんでした。だって連載作品書かなきゃいけないし、年初に目標として連載作品進めますとか言ってたし……と。
でも、第1回のお題が良く(後述)、お題から話が浮かんだので、「じゃあ、今年も参加するか!」と思って名乗りを上げることに。ノリと勢いで生きている。
しかし昨年の経験から、「絶対に連作短編にはしない」と決めてから参加することにしました。毎回何が出てくるか分からないお題で連作短編やるの、とんでもない労力が要るんです。それにプライベートの仕事がめちゃくちゃ大変(転職に伴う引継ぎ作業中だった)なので、短編を思いついたら投稿する、というゆるーいスタンスで参加しました。結局全部思いつけましたし、良い感じに気楽にできたんじゃないかと思います。
ということで、各作品のセルフライナーノーツに参りましょう。
1:怪牛〜バッファローツキーズ〜
・お題がめちゃくちゃ良い。ちなみに上記お題は春海水亭さんの発案なのですが、カクヨム運営が何をとち狂ったか、追加の自由挑戦お題として「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」を提示したせいで、とんでも胡乱話がカクヨムに大量に放出されました。かく言う私もそのクチなので、人のことは言えないのですが。
しかし、(上から目線みたくなってて大変恐縮なのですが)このお題良いな、と思います。この書き出しにしておけば否が応でも状況が進まざるを得ない上、3分という短時間であることから状況開始→結末までのスピードが早い。まさしく短編向きのお題だな、と思います。めちゃくちゃな量の短編を書きまくられている春海水亭さんらしい良いお題です。だからこそ、1200作品近くの作品が数日の間に生まれたとも言えるでしょう。
・で、私がこのお題を見た時に、最初に浮かんだのは『進撃の巨人』でした。巨人が人々を踏み潰していくように、バッファローが世界を踏み潰していく。これで行こうと思って書こうとしますが、「さて、バッファローはどうやって登場させようか?」ということを考え始めることに。
・ここは結構悩みましたが、唐突に「バッファロー達がある日突然、空から降ってきたら面白いんじゃないか?」と思い立ち、そこから「バッファローの怪雨……バッファローツキーズ?」とタイトルが浮かんで、一気に話を書き上げました。このタイトルはかなりバカバカしくて個人的には好きです。
・なんで「人類は愚か」みたいな話になったかは分かりません。分かりませんが、そうなったものは仕方ありませんね。ね!
2:世間の知らない住宅内見
・住宅の内見、というお題。これはネタが浮かばなくて大分困ってました。恐らくその要因としてはシチュエーションの幅がさっきのものに比べるとグッと縮まるからだと思います。なので、「そのシチュエーションで、どういう人間の動きを描くか」が主眼に置かれているのだと思います(が、書いている当の日には、プライベートが忙し過ぎてそんなこと考えられませんでした)。
・悩んだ末に思い浮かんだのは、雨穴さんの『変な家』でした。変な間取りの家があるが、実はこれは殺人をするための家だったのだ――というトンデモな設定の作品です。この、「殺人をするための家!」という着想をそのまま拝借し、換骨奪胎したのが当作品となります。
・それはそうと、この作品は8作品中最も難産であり、3回全文を書き直した末に辿り着きました。仕掛けとしても凝った作りにしたのと、それを上手く活かすための情報の配置が難しかったです(わざと少しノイズも入れてみたり、ちょっと実験もしてました)。それでも、割と読まれているらしいので、書き上げられて良かったです。
・この作品の仕掛けについては、ここではネタバレになるので伏せておきますが、1度読めば「ひっくり返る」ように作ってあり、2度目に読めば、セリフの真意が透けて見えるように作ってあります。割と改心の出来なので宜しければ是非。
3:箱庭マトリョシカ
・これに関しては、アイデアはほとんど思いつきに近いものでした。あとは常日頃、「もしかしたら上位存在が、私たちのことをずっと監視しているかもしれない」みたいなことをふんわり思いながら生活しているからでしょうか(ふんわりなので、別に深刻に捉えてもいなければ、陰謀論に走ったりもしません)。そうした実感を小説の中に閉じ込めた結果、こうなりました。
・あと、個人的には「第四の壁」を突き崩すのが面白く、本作品もその仕掛けを用いています。元々演劇をやっていたことがあるので、それを小説に持ち込んでみました。
・そしてKACが終わった後、創作欲が更に湧き立ち、他の話に先行してnoteにて完全版(トーク画面とかTwitter画面とかを作成したもの)を作りました。より臨場感を持って楽しめると思いますので、宜しければ是非。
小説はこんな感じでもっと自由で良いのでは、と最近いろんな遊びを入れながら思ってます(多分にモキュメンタリーホラーの影響を受けている)。
4:昔と今とささくれと。
・このお題は、流石に今までやってきたSFやホラーに落とし込むことができず、中々作品の形にならず悩んでいました。そんな時に、「ささくれができている人は親不孝だ」という言葉を思い出し、それを起点に物語を作成しました。結果、『人なんてそうそう行動に移せないけど、それでも、何でもいいから一歩踏み出してみよう』みたいな物語になりました。こういうテイストの作品は久々ですね。
・この当時、小川哲さんの『君が手にするはずだった黄金について』という本で、人の感情の流れを描写することについて小説表現を(感覚で)学んだこともあり、それを実践してみたかった、ということも裏にはあります。この本、めちゃくちゃ良いのでオススメです。
・あとは余談。スクールカーストの用語はアメリカのものを用いており、一軍、二軍、三軍に分かれます。作中の「クイーンビー」「ターゲット」は実際にスクールカーストで使われている階級だったりします。
・それから、『ごめんなさい』と無意味に謝ってしまうことについて。これ、いじめとかの描写でよく見られますし、私も言ったことがあるのですが、何でなんだろう、とずっと考えてました。それが小説を書くことで漸く言語化できて、少しスッキリしています。
5:はな さないで
・ホラーでやろう!というのはお題を見た時点で決めました。しかし、これについてどの漢字を当ててやるかで非常に悩んでました。「話さないで」「離さないで」「放さないで」など、おおまかにこの3パターンに分類できると思います。
・しかし、「いや、このパターンだけなら他の人もやるはずだ。なんかそれだと面白みに欠ける!」と捻くれながらも、中々浮かばず、「取り敢えず、話すと呪われるとか、そういう話はあるかな?」と「話す 呪われる」とネット検索しました。そうしたら、偶然にも次のページがヒット。
・なるほど、確かに寝言に返すと呪われるとか聞いたことあるな……とここで漸くアイデアが降りました。即ち、「はなさないで、は寝言だ。そして、この『はなさないで』が完全文ではなく、一部しか言ってないということにしよう」という着想を得られた訳です。着想を得てからは2時間くらいで一気に書き上げました。
・あとはホラーとして書いたことのない、後味の悪い、嫌なホラーを目指したというのもあります。なので、ラストでは結局どうなったのか、わざと宙ぶらりんで分からない状態にしています。その方が嫌な余韻が残りそうだと思ったので……。
・ちなみに、カクヨムのコメントでは、「そうきたかー!」みたいな趣旨のコメントを頂けてとても嬉しかったです。ある意味狙い通り!
6:取り敢えず、乾杯を。
・これがお題として1番困りました。というか正直に話すとセンスのないお題だな、と思ってしまいました。普通にお題設定ミスでは?
こういう直感をした理由は、まず物語がすごく浮かびづらい。カクヨムのマスコットのトリをかけて「トリあえず」としたのでしょうが、それが逆にノイズになってしまい、無駄に発想の幅を狭めてしまっているような気がしたのです。あと、単純に副詞をお題にするとやりづらいというのもあります。これまでは名詞や台詞をお題にしていて、何かしら発想のとっかかりがあったのですが、最早そのとっかかりすら与えてくれていない。小説の投稿数を一気に増やしてサイトを盛り上げる、という趣旨であれば、このお題は非常にやりづらく、もう少し考えるべきだったのでは?とちょっとモヤモヤしてました。(ちなみに数字で見ても、このお題が最も投稿数が少ないというデータを拝見しました)
・そんなこと言ったって、「ここまで来たら皆勤賞獲りたいよね!」と躍起になった私は、何か書こうとした訳ですが、正直運営の意図に沿っているといつまでも物語が思い浮かばない。そこで、もうお題の意図を半ば無視する形で、「取り敢えず」で直球勝負を仕掛けることにしました。
・そうして割り切った途端に「取り敢えず生、ってあるけどさ。アレ、ビール会社の販促でもなんでもないらしいんだよね」という台詞が唐突に浮かび、そのセリフを取っ掛かりにバーっと書いたのが、本作品となります。
・この作品、結果的に書いてて楽しかったです。ひとえにサケちゃんという強烈な(かつ、私の性癖を詰め込んだ)キャラのお蔭だと思います。このキャラによって物語がドライブしたと言っても過言ではない! さらにコメントでも、サケちゃんのキャラ性を褒めて頂いて、とても嬉しかったです。
・ここから余談。私は一気飲みはしたことありませんし、運良く遭遇したこともありません。が、きっとこんな感じだろうと想像して書きました。一気飲みダメ絶対。
・あと、「きっと今日のことは、明日になっても、酒のせいで忘れることはないだろう――そう思いながら、私はカシスオレンジを口にする。」この最後の一文は個人的にお気に入りです。
実は最初は「今日のことは酒に呑まれることなく、ずっと忘れることはないだろう」と書いていました。が、記憶なんてどれだけ頑張っても薄れゆくもので、人間関係もどれだけ仲が良くても自然消滅することも多い、という実感が私の中にありました。なんだかそうした感覚と乖離するので、「明日くらいは忘れないだろう。そこから先は分からないけど……」となって、あの文章ができました。捻くれた考えを上手く織り込めた文章になったと思ってます。
7:色災-Colorisis-
・これはかなりすんなり設定や情景が浮かびました。というか、世界観的には『カラーレス』という漫画のオマージュです。そこに『オールユーニードイズキル』のギタイみたいなのを搭乗ロボットにし、戦争モノとして仕立てて悪魔合体させたみたいな感じです。ちなみにさっき挙げたのは、どっちも面白い漫画なので是非。
・で、まんまパクる訳にもいかないので、キャラの配置方法とか敵とかは変えて、違う作品になる様に意識しました(記憶の限り、黒い人間なんて出てこなかった筈だし……)。また、小説ならではですが、表現にも色を用いて遊びを作ったりしてます(その中には、西尾維新さんの『グッドルーザー球磨川』の表現を参考にしたものもあります)。この過程はだいぶ楽しかったですね。異常なしを「オールグリーン」じゃなくて「オールホワイト」と言ったり、色の三原色やら色のイメージやらで遊んだりしてたので。
・大分新鮮な世界観だったのか、8作品中これが1番ウケてた印象はあります。客観的データとして、星はつかないけど応援のハートが最も多い。こういうのが読まれるのか、と少し参考にもなりました。
8:かけただけで賢くなるメガネ
・これが今年のKAC最後の作品。正直長い作品を書くのに疲れてしまったので、ショートショートで〆ることに。ショートショートといえば、私の中では星新一さんですので、折角ならとSFショートショートで書くことにしました。
・タイトルはもう少し気を利かせたかったですが、ショートショートなのに分かりにくいタイトルにしてもなあ、と捻らず直球で行くと決めることに。
・意識したのは「便利すぎるモノには欠点や抜け穴がある」ということで、それだけが意識できる様になるべく無駄を省いたつもりです。結果、この作品が最小文字数となりました(1,268文字)。そして読む時も、これだけライトな方が良いようで、これも割と読まれました。今後の参考にしようと思います。
さて、完走した感想ですが+個人的オススメ作品
今回は、前回程の疲労感はありませんでした。やはり短編連作なんてやるべきではない。そして、ジャンルが3つに偏った(SF、ホラー、現代ドラマ)とは言え、お題に沿って色々な話を書けたので楽しかったです。
執筆文字数は、結局27,806文字になったようです。いやあ書いた書いた。個人的にはとても良いトレーニングになったので良かったです。これを長編執筆に還元できれば良いなあ……とか思っております。
あと、これを機に他の方の作品を100作品ほど読んでまして、個人的に面白かった作品をピックアップして終わろうかと思います(色々選ぼうと思ったのに殆どホラー作品になっちゃいました……)。皆さんも、タグを検索すれば色々な話が出てくるので、ぜひお気に入りの作品を探してみて下さい。
→1人の人生を色で表した詩集。揺り籠から墓場までを綺麗に着色して描いているのが素敵でした。
→「人怖」のホラー作品。どちらかと言えば「嫌なホラー」寄り。最後に感じる余白が、より恐怖を引き立てる。好きな作品です。
→生の執着と死への静かな願望が、狂気的なアートで交点を結んで、じっとりと嫌な感じで心を満たしてくれるホラー。個人的にこの作品がベストだと思ってます。
→ド直球で嫌なホラー。ショートショートとしてのお手本。オススメです。
→これも最後に「嫌な余白」が残るタイプのホラー。数10程度の星がついている作品については、私は逆にあまり信用しないタチがあるのですが(友情の意味合いで星を付けることがカクヨムでは多い印象)、これは面白かったです。
以上です。
それでは、縁が合ったらまたお会いしましょう。