「美味礼賛」by 海老沢泰久
この本は、辻調理師専門学校の創立者である辻静雄をモデルとした伝記に近い小説である。最近ネットのインタビュー記事で、三井住友銀行の副頭取の工藤禎子さんが、どちらかというと若者に対する推薦本として紹介していたので、興味をもって読んでみた。
読売新聞社大阪の記者だった辻氏が奥さんの実家の料理学校を継ぐことになり、そこからフランス料理の勉強に情熱を注ぐと共に、本物のフランス料理を日本に導入していく過程が興味深く描かれていて、あっという間に読み終えた。
今や「辻調」と言えば、料理家となるための東大のような存在なのかなあ、という感じもするが、そこに至るまでの苦労と葛藤がこの本ではよく描かれていると思う。
工藤さんがこの本を推薦したのは、「本物を追求するそのチャレンジ精神と飽くない情熱」をこの本から感じとって欲しいのかなあと思った。
この本でも有名なフレンチシェフがいろいろ出てくるが、自分がフランスから帰ってきたのが1980年代半ばで、帰ってきたとき、当時流行っていた東京のフランス料理店を妻と何軒か行った。
三國シェフのオテル・ド・ミクニ、井上シェフのシェ・イノ、坂井シェフのクイーン・アリス、そしてアピシウス。それぞれおいしかったが、一番は今はないオテル・ド・ミクニで数回行った記憶がある。当時「料理の鉄人」という人気番組に出演していた坂井シェフのクイーン・アリスは今一つだったと思う、そして近所ともめているのかレストランの周りに変なクレームのような看板が出ていたことも印象に残った。この本を読みながらそんな昔を思いだしていた。
この本の評価は、5/5です。