『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』感想
イギリスで暮らす、アイルランド人の父と日本人の母の元に生まれた男の子を軸に、差別など社会問題に関するエピソードが綴られたエッセイ。
『優しさ』は『知識』と『賢さ』とそこから生まれる『思いやり』なのかもしれない。
例えば、体の三分の一くらいありそうなサイズの荷物を抱えて階段を上っているお婆さんがいたとして、
・老人は若者よりも体力や筋力が少ない
・骨密度の低いから転んだら骨折する可能性が高い
そういう人体のことを知っていて、尚、「その荷物はあなたが抱えて来たのだから最後まで抱えて上りなさい」とお婆さんの横を素通りするのか、せめて階段を上る間だけでもと荷物を肩代わりするのか、行けるところまでお供するのかはその人の『思いやり』によるところ。
でも、最初の人体について無頓着な人は気にも止めずに素通りするのだと思う。
まずは知ること。知らないと、悪意はなくとも自分の知らないうちに人を傷つけていることがあるということ。悪意のある差別は卑劣だけれど、悪意のない差別はたちが悪い。
作中の少年が中学で出会い、のちに友人となる少年がいるのだが、彼は平気で差別用語を人に投げる。
その少年に対しての母子の会話が強く響いた。
周りに差別をする人(大人)がいると、それを見て育つ子供は差別に違和感を感じない、抵抗がなくなる、のかもしれない。子供が差別的に誰かを傷つけたとき、注意できる大人がいないと、そのまま成長してしまう。
差別をしてしまう少年の他にもう一人友人が登場する。その二人が喧嘩した時の母子の会話も印象的だった。
もう一人の友人は、貧しい家庭の子で、そのことを差別的な少年が揶揄う。それに対抗するためにその少年も差別用語を相手に投げてしまい、取っ組み合いの喧嘩になる。その結果、日頃差別的な少年はその時は「貧しい」ことを揶揄っただけのため罰が軽く、貧しい家庭の子は差別用語を使ってしまったため厳しい処罰を受けた。そこに納得できない少年は母に相談すると、母も子供の頃に似たような経験をしたことがあるという。
ある日の教室で『ボロい借家の子』とバカにされた生徒が、それを言った生徒に『おまえだってあの地区(差別されている地区)の住人のくせに』と言い返してしまった。その喧嘩を担任の先生が仲裁するのたが、その先生は周りの反対を押し切って『あの地区』と言われている場所で暮らす人と結婚した人だった。
それを生徒は知っていたから、罪悪感から泣いてしまうし、処罰されることも覚悟していた。けれど、先生は差別をした生徒だけを叱らずに二人のことを叱った。
それを「真理」だと受け取ることができる少年はとても賢いと思う。
本の中には少年が賢くて優しいのだとわかるエピソードがたくさん収録されていて、中でも好きなものがある。
この少年が通う中学校は貧困層の生徒も多く、制服を買えない生徒もいるため、学校が古い制服を修繕して安く販売するボランティアを行っている。そのボランティアの一員となった著者は、息子からの相談を受けて、息子の友人の一人にシャツをあげることにした。その友人はシャツの肘のところが薄くなっていて、それが原因で揶揄われているらしい。
あげるのはいいけれど、貧しい家庭の子には、その子なりのプライドがある。それを著者は身をもって知っている。
人から憐れみ施しを受けることは、恥や劣等感に繋がる。
渡すことで相手を傷つけてしまうかもしれない。
そのことを母子は知りながら、でも友人にシャツを渡したいのだと行動する。
傷つけないために、言葉を選びながら渡すシーンが、とても優しくて胸を打つ。
「僕たちのサイズ」と言うことで、友人のものだけではないのだと、罪悪感を背負わせないための気遣いがまず優しい。気負わなくていいのだという気遣いが伝わってくる。シャツを受け取った友人は疑問を投げる。半信半疑だという目つきで訴えてくる。そこで答えを間違えていたら、関係性に罅が入っていたかもしれない。
純真無垢で誠実な言葉は、人と人との間にあるややこしい壁など容易く乗り越えてしまうのだ。けれど、その純真無垢な言葉を選ぶことは容易ではない。
丁寧に、傷つけないために、細心の注意を払って選ばなければいけない。伝えたい想いをまっすぐ届けるために選んだ言葉だから、傷つきやすい柔らかい心にも優しく響くことができた。相手を想う気持ちが何よりも大切。
こういう言葉を投げかけられる少年は、とても聡明で慈悲深いのだと思う。
この他にも、「そうありたい」と思わされるエピソードがたくさんあるので、未読の方はぜひ読んでみてほしい。
「ハーフ」という日本では当たり前に使われている言葉も差別用語なのだということをこの本で知った。
知らないだけで、日常の中にもたくさんあるのだろうと思う。
できれば「無知」ではいたくない。
「知らなかったのだ」という言い訳はしたくない。
誰かを傷つける前に、自分にできることをしようと思う。
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