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朝と犬と出勤

歩道を占拠する人間と人間とゴールデンレトリバーと真っ白いチワワ。大人しく頭を撫でられているゴールデンレトリバーと放置されたチワワ、二匹の円な瞳が歩いてくる人間を見つめる。吠えることもなく、ただ見るだけ。おとなしい子たちだ。
「最近ほんと涼しくなったねぇ。歩きやすくていいわ」
「でも今日はちょっと暑くなるみたいよ」
などと話しながらゴールデンレトリバーの頭を撫で続ける。
歩道は占拠したままだ。
仕方ないので車道に降りて二人と二匹の横を通り過ぎる。

反対側の歩道は人間とミニチュアダックスが歩いていた。角を曲がる。
毎朝テニスをしている人がいる。今日も変わらずに壁打ちしている。ぱこん、ぱこん。ひらがなで聞こえてくる柔らかい音だ。小気味の良い一定のリズムで打ち付ける音を聞いているとちょっとだけやりたくなる。

角を曲がったら、前方に人間と茶色のしばがいた。先日友人が黒のしばを飼い始めたと言っていた。高校の時も黒のしばを飼っている友人がいたことを思い出す。今ふとそのしばは「くま」と呼ばれていたことを思い出した。犬だけれどちょっと大きくて熊みたいだからと言っていた。
なんとなく懐古心をくすぐられながら、用を足す茶しばと人間を追い越して、先へ進むと、向こう側から人間とマルチーズが歩いてきた。

今日は本当によく会うな。
疲れた顔の人間がたくさん飲み込まれる駅へ着いて、わたしも同じように階段をのぼる。
けれど今日は少しだけ気持ちが軽い気がした。
金曜日だからだろうか。
たくさん犬を見たからだろうか。
犬の感情はわからない。けれどみんな朝から楽しそうに歩いていた。人間の先を、嬉々として歩いて行く犬は、なんとなく誇らし気に見える。
誇らし気な生き物を見るとこちらもちょっと嬉しくなるものだ。
犬たちからちょっとだけ生気をもらって、今日を生き延びる糧にさせてもらう。

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日記

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