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「帝国シンドローム」は組織でも身近にある危機

組織同士の連携がなかなかうまく運ばない、という経験を読者の皆様も何処かでしたことがあるでしょう。組織同士が協力する際の弊害となる事柄について、今回は組織や組織メンバーが潜在的に持っている意識から紐解いていきます。

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戦争に見る人間同士の争いの原因

少し政治的な話になりますが、2022年は国際情勢がだいぶきな臭くなってきました。ご存じの通り、2月にロシ アがウク ライ ナに侵攻を開始したことで、世界の様々な国家同士の政治的関係に大きな変化が生じており、加えて食糧問題やエネルギー問題をはじめとする関連する様々な問題も出始めています。

ロシ アがウク ライ ナに侵攻した理由は、西側諸国から見ると独りよがりのようにも見えますが、「ロシ アは常に帝国であって、世界の一番上に位置する」という "帝国シンドローム" がロシ ア国民の意識の中にあり、独裁が生まれ戦争を許容しているという分析もあります。今回の戦争で西側諸国からの経済制裁も強まり国民の支持は下がっているのではないかと思いきや、プーチン大統領の支持率は80%以上と、侵攻が始まってからむしろ上がっているという現象があります。

帝国シンドロームと選民意識

ロシ アで国民の間に昔からあるという、この「帝国シンドローム」ですが、人類の歴史を振り返ってみると実は何もロシ アに特別なことではありません。先の第二次世界大戦でもナチス・ドイツによる優生思想や、旧大日本帝国の「日本は神の国」といった思想によって戦争が進められていったことが記録されています。

また、他の多くの戦争も人種差別や宗教問題等の「自分たちは選ばれた特別な存在であり、相手は卑しい存在である」という意識によって引き起こされていることが分かります。このような意識は「選民意識」と呼ばれます。そしてこの選民意識は、すべての人間が多かれ少なかれ昔から持っている意識であると言えるでしょう。(昔は資源や土地の奪い合いが理由として多かったが、この理由での戦争がほぼなくなった現代でも戦争がなくならない本質的な理由のひとつ)

実はあなたの組織でも起こっている戦争の縮図

少し戦争の話が続きましたが、この記事の本題は政治や戦争の話ではなく、組織マネジメントの話なのですが、組織間の争い、対立、連携がうまくいかない、といった事象は、国家間の戦争のメカニズムの縮図になっている場合があります。単純に制度や文化でうまくいかないのではなく、意図的に、もしくは不可避的にうまくいかなくなってしまっているケースがそれにあたります。いわゆる「組織間の政治」にもつながってくるものです。そしてそこには「選民意識」が働いていることが多々あります。

選民意識のチェックリスト

改めて、ビジネスの場における「選民意識」というものはどういうことを指すのかを見てみましょう。以下のリストで当てはまるものが多くある人は、選民意識を持っていると思われます。

自分の意見が絶対で間違いを認めない
ネガティブ思考に入りがち
頑固
狭い価値観にとらわれている
使命感がある
机上の空論にこだわる
プライドが高い、エリート意識
他人をすぐに評価する
自分派と他人派に人を仕分ける

ちなみに、補足しておくと「選民意識」を持っているかどうかは客観的に見てエリートかどうか、周りの人よりもステータスが上かどうかには関係がありません。むしろ過去はエリートだったけれど今の現実とはギャップが生じている、もしくは自分の中のイメージと現実にギャップがある、といったコンプレックスと紐づいている場合が多くあります。

もし、自分自身がこのリストに多くの項目がよく当てはまる、と気づいた場合は、意識を薄めるように自分を変えることをお勧めします。身近な人で多く当てはまる人がいる場合は、うまく付き合うかあまり関わらないようにするかを考える必要があります。

選民意識が組織の動きに現れると要注意

ちなみに、「選民意識」は多かれ少なかれすべての人の心の中にあると思われます。たとえば人は普段の何気ない会話の中で無意識に自分と他人を比べており安心感を得ています。例えば以下のような感じです。

Aさんは〇〇県に住んでいるけど田舎だよな。(自分のところは便利と認識)
Bさんのところの息子は公立の学校にいったんだね。(自分のところは私立)
〇〇は底辺の職業なのか。(自分はそうではないという意識)

これは、別の見方をすると自分のアイデンティティを形成する一つの要素にもなっているため、完全に消し去ることは難しいものです。また、個人のレベルに留まっている場合は、個人対個人の人間関係の問題として対応すればよいことになります。

ただし、この「選民意識」が組織対組織で現れてくる場合は注意が必要になります。たとえば、以下のような会話が聞かれるような場合です。

「〇〇部門はあんなことをやっているけど、現場を知らないからな。」
「〇〇部門は昔から役に立たないことばかりやっている。」
「〇〇部門はだからダメなんだ。」
「〇〇部門は自分たちの利益のためだけに動いている。」

このような会話が出る場合に、組織対組織のリーダー同士で本質的な課題を解決する方向に話し合いが持たれるのであれば問題ないのですが、往々にして本質的な課題は放置したままに表面的なやり取りだけが行われるケースがあります。国際政治でいえば、外交努力で問題を解決しようとしない場合に相当します。

この状態が続くと、組織メンバーには諦め感と共に選民意識が広がります。つまり「自分たちは問題を指摘できる特別な存在であり、相手はダメな存在である」という意識です。この意識を組織メンバーが無意識のうちに持ってしまうと、組織同士の協調はうまくいかなくなってしまいます。

また、選民意識を持つ組織は、場合によってはリーダーが意識的に、または無意識に組織メンバーに焚きつけている場合があります。そのような動きは組織全体でみると課題ですが、該当組織のメンバーは共通のメリットを受けていたり共通の「仮想敵国」を持っていたりして団結していて、従業員満足度は意外と高いことが多く (ロシ アの大統領支持率のように)、経営から見たときに見落とされがちです。私も、いままでいくつかの会社でこのようなケースをいろいろと見てきました。

組織同士がうまく協調するにはどうすればいいのか

組織同士の協調の問題は、戦争問題と同じで昔から存在するものの、必勝法が存在するわけではなく人類がなかなか解決できない問題のひとつです。両者とも「本質的な課題の解決を行うために弛まなく対話する」ことが本質的な解決法であることはわかっているものの、実際にはなかなかそううまくいかないところが問題の難しいところです。また、双方の当事者が話し合いでの本質的問題の解決が唯一の方法であることを理解して交渉のテーブルに付かないと問題が解決しないのも、問題を難しくしている一因なのでしょう。

結局のところは組織のリーダーが、そして組織メンバーの一人一人が、自分が「選民意識」を持って仕事をしていないかを常に自問自答し、相手がそうである場合はうまく付き合うしかない、ということになります。そのために、リーダーには組織メンバーに対して常に「より広い視野」「より多くの情報」を提供し、「様々な立場と考え方」があることを伝え、「多様性を認めて尊重し多様性の環境を維持する」ことが求められることになるでしょう。

いまの社会情勢を窺いながら、自分たちのことも客観的に眺めて見直してみるのも良いかもしれません。

では、また!


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