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50代社員の「働かないおじさん」と日本の働き方のあるべき姿

最近、50代会社員のバッシング記事をよく見る気がするので、あと数年でこの世代のおじさんに仲間入りする筆者なりの視点から意見をまとめておこうと思います。

50代社員は用済みなのか?

ここ数年、ジョブ型人事制度の導入に本格的に舵を切り始めた大企業も増えてきたこともあってか、終身雇用制度で定年に最も近い50代社員に関する批判記事を最近多く見かけるように思います。この世代は団塊ジュニア世代、バブル入社組、新人類世代などの世代が含まれます。

記事によって論調は様々ですが、会社内でも数が多いこの世代の怠惰により会社が傾いているような印象の記事が多いのが気になります。

筆者は新卒で外資系企業に就職して20数年間を外資系で過ごし、その後日本企業である富士通に入社して1年ちょっと経つのですが、外資系企業と日本企業を比べていて、日本企業の雇用制度には様々な課題があることを認識しました。

高度成長期の雇用制度である終身雇用の仕組み

日本は戦後になって本格的に「終身雇用制」が普及し、戦後の高度経済成長の時期とも重なって、多くの労働者・雇用者が安定した雇用・給与・生活を享受し、制度は日本独自に進化を遂げました。終身雇用は雇用者側にとっても労働力を安定的に、かつコストを抑えて獲得する手段として重宝されました。

ビジネス面では、多くの日本企業はカイゼン活動でより品質の良い製品をより多くの人手で製造すれば業績が上がる時代で、アメリカを始めとする諸外国からも日本的経営を学べという声が多く聞かれました。

日本的経営は「企業別労働組」「年功序列制」「終身雇用」「メインバンク制」「株式持ち合い」等が特徴とされ、高度成長期には経営を安定化させ、ヒト・モノ・カネといった経営資源を安定的に確保し、世界的に品質の高い製品を送り続けることに貢献しました。

しかし、1991年のバブル崩壊以降、日本では不良債権処理を行いながらコスト削減にばかり注目する経営を行い経済が停滞している間に、アメリカからIT革命が起こり、いままで世界中にあった情報など様々なモノの障壁が崩れ始めビジネスのグローバル化が進むこととなりました。そして、BRICsやアジア諸国等が低コストの労働力を武器に製造業の製造拠点受け入れ・アウトソースで大きく成長しました。

このようにビジネスのルールが大きく変わってくると、日本的経営のデメリット部分「組織の硬直化・閉塞感」「年長者の高コスト化」が目立つようになりました。日本的経営では、自社で新卒で雇い入れた人材を融通することで業務を回すことが前提となります。

しかし、現代では新卒で入社したときに選択した仕事が日本国内で存在し続けるという暗黙の前提が成り立たなくなっています。先に紹介した通り、製造業のコアである製造業務は低コストの労働力活用のため、日本から海外に多くが移転してしまいました。

また、2014年、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文「あと10年で消える職業・なくなる仕事」の中でも、たとえば「銀行の融資担当者」「不動産ブローカー」「保険審査担当者」等は、インターネットの無人受付で多くが置き換えられていますし、「レストラン案内係」も新型 コロナを契機に無人化、ロボット化が進み始めています。

参考記事:

同時に、「ロボットエンジニア」「ドローンパイロット」「データサイエンティスト」といった新たな職業・スキルの獲得も必要になってきます。企業の市場競争力を早期に獲得するには、従来の人材を育てるよりも外部から雇い入れるほうが、新しいスキルの獲得スピードが圧倒的に早い場合が多くなってきています。

このように、グローバル化とイノベーションの加速により、日本国内で仕事がなくなってしまうことも多くなり、新卒で雇い入れた人材を融通することで状況に対応することが難しくなりつつあります。1つの企業内で長期間にわたり同じ人材を抱えることは、雇用者にも被雇用者にもリスクになりつつあるのです。

失われた30年で人材流動性が高まらなかったツケ

このグローバル化とイノベーションの加速の世界的傾向が明らかになってきた2000年代に、日本的経営の大幅な方向転換を行うべきでしたが、結果としては不要労働力削減・非正規社員化や成果主義賃金導入などのコスト削減に重点を置いた中途半端な改革で終わってしまい、日本国内外で人材流動性を確保するという一番実施すべきことに手がつかないまま今日まで来てしまいました。

日本における転職者数や転職者比率を見てみても、2002年からの20年間で、直近ではやや増加傾向が見られるものの情勢が変わったと言えるほどの大きな変化は見られていません。特に、今回の話題になっている50代の転職は20年の間、あまり変わらず4%程度に留まっています。

図: 転職者数及び転職者比率の長期推移
出典: 総務省統計局

また、勤続年数で見ても日本は10年以上の勤続年数の割合が最も高いことも分かります。これは転職が少ないこととの裏返しです。

図: 雇用者の勤続年数別分布の国際比較(男性、25〜54歳)
出典: 平成25年度版厚生労働白書 (2013) 第3章2節
図: 日本の平均勤続年数 1976~2020年
出典: 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
図: 日本の雇用形態・年齢階級別平均勤続年数 2009年
出典: 平成22年度厚生労働白書 (2010) 第1章

このような国全体の統計的な状況を変えるには、被雇用者個人の努力では何ともなりません。国の制度や業界全体レベルでの変革が必要です。つまり、これは50代社員のせいではなく国の制度と経営の怠慢の問題です。

外資系企業での転職事情

筆者が新卒で入社した外資系IT企業は、転職組が殆どを占めており、新卒組というのは10%もいないレアキャラでした。外資系企業は日本で数十年にわたってビジネスを続けていない限りは、基本的に転職組が多数派です。また、ジョブ型人事制度ですのでスキルのある専門分野を持っています。

IT業界も企業ごとの栄枯盛衰が激しいため、周りの人たちは自分が所属している会社でニーズがなくなればどんどん転職していきます。同じ会社に20年も30年も居るという方がレアな存在です。また、「働かないおじさん」も外資系企業にも一定数居ますが、一つの職場で長続きしないため、そのような人もどんどん転職していきます。

よく「40~50代になると転職は難しい」という人も居ますが、少なくともIT業界で筆者の周りで見る限り、いくつになってもみなさん転職しています。60歳に近くなってもです。年齢が上がると雇用者からの期待値としてはマネジメント能力を求められることが多くなるので、相応のポジションで転職する人も多くなりますが、かと言って豊富な業界知識や専門職を武器にIndividual Contributor (個人貢献者) として転職する方もたくさんいます。キャリアにはマネジメントとICの両方の道が認められています。

転職していった人材は外資系IT業界内を巡回していますので、特定のIT企業というよりは「株式会社日本IT」といったより広い範囲の「外資系IT業界」に所属していることになります。1つ1つの企業では人材を抱えきれなくなったりスキルが不足したときに、業界内で人材の交換をすることで変化に対応することができているのです。

今からでも日本的経営の抜本的改革が必要

それと比べると、日本企業は未だに新卒入社から定年退職までを同じ企業で過ごす人の割合が多い状況です。業界の変化が激しい時代には、雇用者も被雇用者も1つの企業内ではなく業界全体、もしくは業界間も含めて人材を融通し合うほうが全員にとってハッピーな状態になれるのではないでしょうか。

冒頭であった「50代社員は用済みなのか?」という問いに対しても、筆者としては「業界内で人材を融通し合える状態を作り出すべき」と考えます。メンバーシップ型人事制度の影響で、ジョブに特化したスキルというよりは特定企業の中でしか役に立たないスキルが身についてしまっている状況の人が多い状況です。しかし、新しいニーズ、スキルはどんどん生まれており、すぐに身につければ業界に汎用性のある先駆者になれるものも多くあります。何歳になってもやる気さえあればスキルは今からでも身に着けられるものと筆者は信じています。

雇用者も被雇用者も、ようやく始まりだした日本的経営の変革の波に乗って、会社の制度を人材流動性を確保する方向に一気に舵を切る、または自分自身であるべき将来を掴み取るようにスキルを継続的に付けながら社内外の新しいポジションを目指す、そして政治もこれを後押しする制度を設けることで、日本の将来も変わってくるのではないでしょうか。

最後までお読み頂きありがとうございました!では、また!

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