スマホアプリで「食事を『正確に』測定できてる」の誤解!!
栄養疫学の研究は食事調査を実施して、対象者の食事摂取量を調べることから始まります。その方法には大きく分けると3種類に分けられ、それぞれに特徴があることをお伝えしたところです。
けれども、2つの現象があるために、食事と健康との関連を考えたいときに知りたい日常的な食習慣、つまり長期間の食事の習慣を知るのって、とても難しいんですよね。2つの現象とは「申告誤差」と「日間変動」でした。
こういった専門家の「食事をはかるってとても難しい」という感覚をよそに、今の時代は次々と食事を評価する「アプリ」が開発されています。今日食べたものをアプリに入力すると、すぐにそのエネルギー量や、含まれている栄養素の一覧がでてくるとのこと。さらにその内容から食事のアドバイスまでしてくれるということです。
そんなアプリを使って食事を測定して、それで「正確に」測定できている、と思っているなら、ちょっと待って!と解説したくなってしまいます。アプリを使って食事を測定する、ということはどういうことか、知っておいてほしいことをまとめました。
●1食や1日の記録で習慣はわからない
以前のnote記事で、食事には「日間変動」があることを説明しました。私たちは毎日違うものを食べているので、1日間の記録だけでは、日常的な食習慣を知ることはできないんですよね。
アプリで食事を評価するとき、多くの場合は1食や1日の食事を入力したり、写真撮影したりすると思います。その場合は、以前解説した食事記録法などと同じように、この1食、または1日分の入力内容で、食習慣が評価できている、とは考えられませんね。3日間でもまだ少ないくらい。長期間の食事の入力が必要となります。粘り強く記録し続けて、たとえば数100日記録し続けたデータの摂取量平均値がやっと、多くの栄養素で日常的な食習慣を表しているくらいの感覚でいてください(文献1)。
●その精度は?
そして、ここが一番大事なところなんですが、測定する機器で正しく測定できていることって、機器を販売するときには絶対に確かめているじゃないですか。たとえば体重計とか、食品の重量を量る秤だったら「1 gはこのくらい」とする定義があって、「その重さをどのくらい以内の誤差で測定できる機器ですよ」って、前もって調べてあって、取扱説明書に書かれていますよね。それがあるから、表示されている重さは正確だと言えます。安心して、その機器を使えます。
けれども、食事を測定できるアプリで今出回っているもののうち、そのような「実際の食事を評価できている」ことを確認しているものってわずかです。アプリが示した値がどの程度の精度なのか、わからないものは案外多いんですよ。アプリを提供するときに、そういった精度を調べる研究が必須とはされていないからでしょうね。その結果、現在出回っているアプリの中には、エネルギーを19%高く計算しているものがあったり、食物繊維では5割ほど少なめに計算したものもあれば、6割多く計算したものもあったり、と色々だったそうです(文献2)。こういった、食事調査のツールが計算した食事摂取量の値が妥当なものかどうか、調べる研究のことを「妥当性研究」と言います。できたら妥当性研究が実施されたアプリを使いたいところです。
ちなみに、この妥当性研究、食事調査法のうちの「質問票法」のときにも必須です。研究で使う食事の質問票は、妥当性が検討されているものでなければ認められません。この妥当性研究をどう実施するのか、また別の機会にnote記事にしますね。
●多々ある、撮り忘れ、記録忘れ
妥当性のとれたアプリを使っていたとしても、食べているものをすべて記録できていなければ意味がありません。特に間食とか、仕事しながら飲んだ飲み物とか、移動中に口にしたものとか、三食の食事以外で食べたものって、記録するのを忘れることが多々あります。研究で食事調査をしたときに、確認で意識することって、書いてあるものが間違いではないか、ということよりもむしろ、書いていないものをどう思い出してもらうのか、だったりします。空白の欄を実際の目で見ながら、心の目で「ここには飲み物があってもよさそうなのにないぞ」みたいに想像しながら、対象者さんに確認していました。これが、以前説明した「申告誤差(とくに過小申告)」といわれる現象ですね。
●意識しておきたい食べ残し
食べる前に記録、入力ができたから、といって、安心はできません。今度は食べ残したものがあれば、それも考慮しないと「実際に食べた量」を正確に計算することはできませんよね。子どもや高齢者の食事調査のときには、食べ残しってけっこう多くて、意識しておかないといけません。
●これがいつもどおり?
また、食事を記録する、となると、それだけで意識が変わって、いつも食べているものとは別のものを食べてしまう、ということも多々あると思います。しかも、それを自分で見るだけでなく、人も見るとなったら、どういう意識が働くでしょう?以前は「いつもよりよい食事」を食べてしまう人も多かった、と聞いたことがあります。一方で、食事を記録する面倒さから、最近は「いつもより記録しやすい簡単な食事」になってしまう傾向もあると聞きます。そういう食事の変化がないように、アプリは早めに使い始めてもらっておき、使い慣れたころに実際の食事を知るための調査を行う工夫をすることもあるようです。
●まとめ
技術の進歩によって生み出された食事摂取量を評価できるアプリ。簡単に摂取した栄養素を計算できる、と思うのは大間違い。実際に正確な食事摂取量を評価したいときには、色々なことを考えて使わなければなりません。妥当性がとられていないアプリを研究で使うことはできません。一方で、日常的には正確な摂取量は不要で、ある栄養素が十分に摂取できているか、いないかだけざっくり分かればよい場面もありそうです。そんなときには、今後妥当性を評価する予定のアプリでも、日常でうまく使うことはできるかもしれません。とはいえ、あまりに精度に問題があればそれも難しいでしょう。
食事摂取量を知る難しさ、簡単にはいかないという事実が、もう少し認識されてほしいものです。
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【参考文献】
1. Fukumoto A, et al. J Epidemiol 2013; 23: 178-86.
2. Shinozaki N, et al. Nutrients 2020; 12: 3327.
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