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抗酸化栄養素は一緒に摂ると効果的?(執筆論文紹介)

ひとつの食品にはたくさんの栄養素が含まれています。そして、私たちの体の中で健康維持のために働いてくれているのはそれら栄養素である、とこちらのnoteで紹介しました。

健康を維持するためには、色々な種類の栄養素が必要です。栄養素によっては、その栄養素単独ではなく、いくつかの栄養素が共同作業をして機能する例もあります。たとえばビタミンCとビタミンEは共同で、抗酸化作用といった働きを行っているそうです(文献1)。

それに、食事をするとき、一度に食べる食品は複数あります。そしてそれぞれの食品に異なる栄養素が複数含まれているわけですから、一度の食事で摂取している栄養素もたくさんあるはずです。よく研究では、話を単純化するために、単独の栄養素の健康への影響を調べますが、それは少し現実離れをしているのかもしれません。

そんなことを考えていた博士課程のころ。複数の栄養素の健康への影響を考えるほうが現実に合っているのではないかな、そういう方法ってないのかな、というのが私の疑問でした。そんなとき、海外では、食事全体の抗酸化作用を一度に検討できる「食事由来全抗酸化能(食事TAC)」という考え方を使った研究論文がどんどん発表されていました。この食事TACを日本人の食事で計算して出せるようになったら使えるのかな、実際に体の抗酸化に影響を与えるのかな、と思ったのが始まりで、この内容が私の博士論文の研究テーマになったのです。

今回のnoteは、私が執筆した9報の論文の内容を紹介する「執筆論文紹介」です。この研究で分かったことは、日本人の食事でも食事TACを測定することはでき、食事TACの値の高い食事を食べている女子大学生では、体内の炎症状態が低いということでした。論文タイトルは「日本人若年女性を対象にした食事由来全抗酸化能と血清C反応性たんぱく質の関連」です(文献2)。この研究の内容を紹介します。

なお、この論文はこちらのページで公開されており、すべての人が無料で読むことができます。



●得られた知見

この論文で得られた結論は以下のとおりです。

  • 日本人若年女性を対象に、食事歴法質問票(DHQ)で4種類(FRAP法、ORAC法、TEAC法、TRAP法で測定)の食事由来全抗酸化能(食事TAC)を評価する方法を開発しました。

  • この対象者の食事TACは、緑茶・麦茶・ウーロン茶の寄与が大きくなっていました。

  • ほとんどの食事TACは血清C反応性たんぱく質と負の関連を示しました。


●背景:なぜ食事TACと血清C反応性たんぱく質の関係が気になったの?

C反応性たんぱく質CRP)は、体内の炎症状態を示す生化学指標です(文献3)。心疾患、Ⅱ型糖尿病、およびがんなどとの関連も示されています(文献4)。これらの疾患予防を考えるときに、血清CRP濃度を低く抑えられる要因を知っておくことは重要です。中でも食事は、CRPに関連する要因のひとつとされています。たとえば過去の研究では、ビタミンC、Eなどの栄養素や、お茶、果物、野菜などの食品といった、抗酸化作用をもつ栄養素と食品がCRPと負の関連を示していました(文献4-6)。

ただし、これらの研究では、単独の抗酸化栄養素や食品の影響を検討していました。私たちは食事をするとき、複数の抗酸化栄養素を同時に摂取しています。体内ではこれらの栄養素が共同で、場合によっては相乗的に働き、抗酸化力を発揮するとの考え方もあります(文献7)。そのため、抗酸化能を持つ栄養素や食品の複合的な影響を検討することは、現実の食事に合っていると考えられます。このような複合的な抗酸化力を検討するために、海外では食事由来全抗酸化能食事TAC)という指標が開発されていました(文献8)。ヨーロッパでは、食事TACとCRPの関連も実際に検討されていて、食事TACの値が高い食事をしている人ほど、CRPの値が低いとの結果が出ていました(文献9-11)。食習慣や食事の内容は地域ごとに異なるので、食事TACの高い食事は日本と他国では内容が異なる可能性があります。ところが、日本では食事TACを評価する方法がまだ開発されておらず、食事TACの健康に与える影響を検討することができていませんでした。そこで、日本人の食事を評価できる質問票を使って、食事TACを評価する方法を開発しました。そして食事TACと血清CRPの関連を検討しました。

●研究方法:どんな人にどうやって食事とCRPを調べたの?

CRPは年齢とともに上昇するため、若年時の値を維持することが重要と考えて、若年者を対象者にして検討しました。この研究に参加してくださったのは、国内10校の栄養士養成校に通う女子学生です。このうち18~22歳の女性で、食事の質問票に回答できていて、採血で血清CRPを測定できた人を対象にしました。基準にあてはまらない参加者を除外した結果、解析対象者は443人となりました。

対象者の食事摂取量は、食事歴法質問票(DHQ)から推定しました。食事TACは、過去の様々な研究で食品のTAC値が測定されているため、文献検索して得られた値を使いました。TACの測定方法は様々あることから、疫学研究でよく用いられている4つの方法(FRAP法、ORAC法、TEAC法、TRAP法)を用いました。どのような食品が日本人の食事TACに寄与しているのかも調べました。

血清CRPは高感度比濁法を用いて測定し、1mg/L以上の濃度の人を「高CRP」、それ以外の人を「低CRP」と2群にわけました。対象者は食事TACの中央値をもとに、低食事TAC群(低TAC)と高食事TAC群(高TAC)の2群にわけました。低TAC群と高TAC群で、低CRPの人に対する高CRPの人の比(オッズ比)を算出しました。

●結果:食事TACは血清CRPと負の関連

対象者の血清CRP濃度は0.113 mg/Lで、高CRPの人は25人(5.6%)と、少なめでした。

食事TACに最も寄与した食品は緑茶・麦茶・ウーロン茶(中央値37~57%)、次に寄与した食品はコーヒー(中央値3~10%)でした(図1)。

図1. 食事TACに寄与する各食品群の寄与率


4種類の食事TACで、低TACと高TACにわけて、高CRPの人の多さを比較しました。その結果、高TACで高CRPの人が少なくなっていて、負の関連が認められました。ORAC法以外で、その差は有意な関連でした(図2)。

図2. 低食事TAC群に対する高食事TAC群の高CRP者のオッズ比


●考察:食事TACと血清CRPの間に負の関連

日本人若年女性で、食事TACと血清CRPの間に負の関連があることが初めて示されました。ヨーロッパ以外の国でこのような結果が示されたのは当時としては初めてでした。過去のヨーロッパの研究と、日本人の食事TACに寄与する違っていましたが、それにも関わらず、ヨーロッパと同じように食事TACと血清CRPに負の関連が認められたことは、食事TACに寄与する食品の種類に関わらず、どのような食品を用いて食事TACを高めても、血清CRPと負の関連が認められる可能性があります。そして、本研究と同じ対象者で検討した別の研究(文献12)では、ビタミンCや果物、野菜といった単独の栄養素・食品群とCRPの間に関連は認められていませんでした。このことから、抗酸化能をもつ栄養素は、それぞれが単独ではなく、複合的に寄与して、CRPに影響を与えている可能性が考えられます。

ただし、この研究では、調査時点での食事摂取状況と血清CRPの関連を検討しています。過去に食べた食事TACの高い食事がCRPに影響しているかといった、因果関係を明らかにすることはできていません。また、若年女性という比較的CRPが低い集団を対象にしたため、得られた結果を一般的な日本人に当てはめられるかは不明です。そのあたりに注意して、結果を解釈する必要があります。

●まとめ

この研究により、日本人の食事を評価できる質問票を使って、食事TACを調べることができるようになりました。そして、日本人若年女性で、この食事TACが血清CRPと負の関連を示すことが示されました。

食事TACの考え方は、様々な抗酸化栄養素を組み合わせた健康への影響という、現実の食事と近い状況を検討できていると言える一方で、TACという値が栄養素の重量などに比べるとわかりにくいという欠点がありました。現実の食事でどのくらいの量のTACをとればよいのかを示すのも難しく、TAC値が測定されていない食品もたくさんあって、日常の食事で食事TACを示すことも難しいです。そういう面があり、今の時点で食事TACは具体的な数値として使われることはあまり行われていませんが、このような抗酸化栄養素を多く含む食事が健康によい影響を与えることは別の研究からも示されており(たとえばフレイル予防に効果的な可能性をこちらのnoteで紹介しました)

健康的な食事を今後考えていくうえでも重要な知見を与えることはできたと考えています。

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【参考文献】
1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版案. 2024.
2. Kobayashi S, et al. Nutr J 2012; 11: 91.
3. Pepys MB, et al. J Clin Invest 2003; 11: 1805-12.
4. Nanri A, et al. Asian Pac J Cancer Prev 2007; 8: 167-77.
5. Floegel A, et al. Public Health Nutr 2011; 14: 2055-64.
6. Neyestani TR, et al. Ann Nutr Metab 2010, 57: 40-9.
7. Stanner SA, et al. Public Health Nutr 2004; 7: 407-22.
8. Serafini M, et al. Gastroenterology 2002; 123: 985-91.
9. Brighenti F, et al. Br J Nutr 2005; 93: 619-25.
10. Detopoulou P, et al. Eur J Clin Nutr 2010; 64: 161-8.
11. Hermsdorff HH, et al. Nutr Metab (Lond) 2010; 7: 42.
12. Murakami K,et al. Nutr Res 2008, 28:309-14.


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