『暮らしの豊かさは心が柔らかくなるところから』 社会変容を提案する活動家 オオヤマ タカコ さん
フードロス(売れ残りや食べ残し、期限切れ食品など、本来は食べることができたはずの食品が廃棄されること)という一つの問題意識から、社会の現状を広く認識し、私たちの暮らしはどうあるべきなのかというより本質的な問題と向き合う大山貴子さん。人と繋がって積極的に社会変革を目指す彼女の背景には、どんな想いがあるのでしょうか。今までとは少し違った切り口で、その背景に迫りました。
プロフィール
出身地:宮城県
活動地域:東京都、神奈川県
経歴:仙台市出身、ブルックリン経由、渋谷区在住。自然環境や循環を都市部に取り入れた豊かな暮らしづくりをテーマに、行政や企業に向けてゼロウェイストやフードロスなどの環境デザイン、サーキュラーエコノミー(循環型社会)の企画や食、ライティング、イベント企画を通して社会変容を提案するコンセプトデザイナー&プランナー。
座右の銘:In a gentle way, you can shake the world.
記者 本日はどうぞよろしくお願いいたします。
大山 貴子 さん(以下、大山 敬称略) よろしくお願いします。
「自然とともに暮らすこと、心を柔らかくするマインド改革が平和の第一歩」
Q . 初めに大山さんのいま目指されていることを教えてください。
大山 私は今は暮らしを豊かにする環境デザインのあり方を模索しています。そしてそこに向かうために、フードロスだけではなく、ゼロウェイスト( 出された廃棄物を処理するのではなく、そもそもごみを生み出さないようにしようという取組み)や環境循環をよくすること、永続可能な社会を創ることに注力しています。
初めはフードロスの問題を解決しようと思って100BANCHに入って活動してみたのですが、やっていくうちに社会問題は様々な問題が絡まり合って起こっているので、フードロスの問題だけを解決しても根本的な解決には至らないことに気がつきました。例えば、最近、コンビニのフードロスの問題が顕著になっていますが、その背景を考えると忙しくてご飯を作る暇がないとか、1人暮らしで料理をしないなど、理由は様々ですが人間の暮らし方の問題とつながります。だからフードロスの問題を解決するだけでも、人間の暮らしを変化させていくためにはどうしたらよいのかを考える必要があります。その答えとして、私は、人間は自然の一部なので、よい暮らしをするためには、自然に準じた暮らしをすることが一番ではないかと考えるようになりました。
記者 確かにフードロスだけを見ていては解決は難しいかもしれませんね。
大山 そうなんです。それにフードロスやゼロウェイスト以外にも、永続可能な社会を実現するためにクリアしなければならない問題はたくさんあります。例えば、水問題や石油問題は、水や石油を使い過ぎることで起こっています。そしてそれが原因で争いが起こることもあります。でももし、完全循環型の社会ができて自然とともに暮らすことができれば、そもそもそのような問題は起こらないし、そのような問題が起こらなければ争いも起こらないはずです。ところが今の社会は資本主義社会であって、自然とともに暮らすことより、目先の利益を追う状態になってしまっているので、様々な問題が起こっているのだと思います。
記者 なるほど、その通りだと思います。お金に価値を置くあまり、自分たちの首を締めてしまっていますね。
大山 そうなんです!このままいくと人間も自然環境も共倒れになりかねません。でもそれを解決する手段はあって、それが心を柔らかくするマインド改革だと思います。"tension"すなわち"緊張"という意味の英単語がありますが、力が入っていて硬い状態だと壊れやすいですよね。逆に、うまく力が抜けて柔らかい状態になれば壊れることはありません。それと同じように、人間が力を抜いて柔らかくなることはもちろんのこと、社会環境や自然環境も含め、全体が無理せず力を抜いていくこと。そうすれば平和な社会が構築できると思います。
記者 柔らかくなっていかないといけないというのは、すごく共感します。考え方でも絶対これが正しいってなってしまうと、他人のことを受け入れられなくなって、それが戦争の始まりになってしまいますよね。
「企業や行政と一緒になって行動を起こす」
Q. その目標に向かって今実践行動されていることはどんなことでしょうか?
大山 現在は5月30日に向けて、ゼロウェイストやサーキュラーエコノミーで、地域コミュニティを持続可能なものにしていくことを目的にしたカンファレンスを、プロジェクトメンバーと企画しています。サーキュラーエコノミーというのは、新しい経済概念として今欧米諸国で少しずつ普及されはじめている、持続可能に再生し続ける新しいビジネスモデルのことです。実際にアムステルダムでは、2050年までに到達したい経済目標として、行政レベルでサーキュラーエコノミーモデルのビジネスを誘致しています。このイベントは渋谷キャスト1階のスペースと、その近くのTRUNK(HOTEL)にて開催予定です。
また同じ時期に、日本橋三越にてフードサーキュレーションという、環境の側面から食のあり方を考えようという催事の企画に携わっています。去年秋に3ヶ月間、日本橋三越の食品フロア担当の社員さん向けにサーキュラーエコノミーやフードロス、プラスチック問題についての勉強会をさせていただきました。そのときに勉強会に出てくれた社員さんが中心となり、実現された催事なので今から楽しみです。
記者 かなり現実的ですね。先ほど仰ってました、自然とともに暮らすことや心を柔らかくするマインド改革とは繋がりが見えにくいですが、どのように繋がっているのですか?
大山 そうですね、平和構築のために最終的には柔らかくなることが目標なんですけど、そのためには環境をよくしていく必要があると思っています。資本主義社会において利益追求を優先し過ぎた結果、人間は力が入って硬くなってしまっています。それが原因で、先ほどのフードロスやゼロウェイストの問題含め環境悪化に拍車がかかっていると考えています。だから逆に、環境からよくしていくことで心が柔らかくなっていくのではないかと思います。
記者 なるほど。逆に環境からということですね。
大山 はい、そうです。この思想が社会全体で共感性をもって、広く普及されるように活動しています。本当に社会全体を柔らかくするには、やはり企業や行政と一緒になって行動を起こす必要があると思います。だから先ほど言ったような企業向けのセミナーやワークショップを、関係団体と協力し合って行っています。
記者 そうなんですね!素晴らしい!本気で社会を変えたいという気持ちが伝わってきました。
「あるべき暮らしの姿とは自然とともにある暮らし、快適で安定した状態が力の抜けた状態」
Q . では今の活動をするようになったキッカケは、なんだったのでしょうか?
大山 大学卒業後の経歴を簡単にお話すると、就職をしてブルックリンに住んでいました。そして帰国後に転職、独立してヴィーガンカフェを始めたのですが、その後徐々にフードロスなどの環境関係のプロジェクトに携わるようになりました。その頃から、ブルックリンの街はすごく自然に近い状態で、よくできていたと意識するようになっていきました。そして、その意識を持った状態で、旅行とカンファレンスで、もう一度ブルックリンに行く機会があったのですが、そのときに、改めて気づいたことがありました。それは、公園やコミュニティーガーデンなど、土と触れ合える環境がたくさんあるということ。公園では様々な植物が植えられていて、隣り合った木同士は同じ種類のものはありません。その木と木の間にはしっかりと光が入り、木の根元には昆虫などの生き物がいて、その昆虫などを野生の鳥が食べに来るといったように、生物多様性循環を大事にしていました。
そしてさらに、そのような環境に住む人たちは豊かだということにも気がつきました。例えば、ホームレスの人でさえすごく幸せそうに公園で寝転がっていました。週末や平日夕方になると、公園の中の、森のように木の植えられたところにある道を走る人がいたり、芝生の上でピクニックをしている家族にも出会いました。そういうのを見ていると、もしかしたらニューヨークが発展したのは、このような公園があるからではないかと思ってしまうくらい、その重要さを感じずにはいられませんでした。それで、私の周りの人にも、このようなよさを感じてもらえたらいいなと思うようになりました。このようなブルックリンでの気づきが今の活動のキッカケだと思います。
記者 なるほど。公園の話を聞いていると、すごく豊かな感じがイメージできました。いい環境ですね。でも、そのような自然の中で暮らす人々が豊かだと思った背景には何があったのですか?
大山 なんでしょうね?(笑)唐突な話になるのですが、ヴィパッサナー瞑想という瞑想法があります。スピリチュアルの世界の見えないものを崇拝する感じは、私は好きではないのですが、そのヴィパッサナー瞑想を経験したときに、人間も自然の一部なので、絶対的 & 普遍的である自然とともにいる方がよいと思ったことがありました。人間は、モノをつくったり着飾ったりするから自然から遠ざかっているように見えますが、本来は植物や動物と同じです。だからあるべき暮らしの姿とは、自然とともにある暮らしだと理解したことだと思います。
また、私は日本に帰ってきてからはインドの伝統的なヨガを習っていた時期がありました。インドの古典的なヨガでは、一般的なヨガでやるようなストレッチをしっかりしたりカッコいいポーズを決めるのではなく、快適で安定した状態をつくることを目的にしています。そこがあって、力を抜いて柔らかい状態になるのがよいと思うようになったと思います。
記者 確かに、現代人は肩に力が入りすぎているので、自然と触れ合う暮らしをできれば力が抜けて柔らかい状態になれそうですね。人間も元は自然の生物であると考えても、自然とともに暮らすことはストレスを軽くできると思うし、そうすることで徐々に豊かな暮らしを創っていけると思いました。本日はありがとうございました。
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●みせるま、大山貴子さんの「僕らがお店をやる理由」
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■編集後記
インタビューをしました岸本 & 若林です。初めて出会ったとき"人が好きなんです"と笑顔で言っていたことがとても印象的で、どんな方なのか楽しみにしてお話を聞かせていただきました。大山さんは、身の回りで起こっていることをよくみて、それがどんなことが原因で起こっているのかを、自然と自分で考えていらっしゃって、素晴らしいなと思いました。そしてそれらの問題を解決するためにも自分のことは置いておいて、一生懸命になれると言っていたことが、またさらに素晴らしいと思いました。また、社会から一線を画すのではなく、しっかり繋がった状態で変革していきたいという、はっきりした姿勢や、自分がどんな状態であっても社会問題に向き合おうとする姿勢には、とても強い意思を感じることができました。今後さらなるご活躍をお祈りしたいと思います。
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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36